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しっかり懐にしまっていた

 私達の鑑定が終わった頃、飯時の時間になったのでお昼を食べに行くことになった。

 だが、飯屋でニコラ様と鉢合わせするわけにも行かないので、ふた手に別れて御飯を食べることになった。


 葛町には、味に品のある『伐り株』と、味は今一歩だが量が多くて安い『大森屋』がある。

 私は、


「折角こちらまで来たのに、御飯が美味しくないと残念でしょうから、ニコラ様には『伐り株』で召し上がってもらったほうが良いのではないでしょうか?」


と言ったところ、(みんな)もそのとおりだと同意したので、ニコラ様御一行は『伐り株』に行き、私達は『大森屋』に行くことになった。

 佳央様の分も出すことを考えると、質より量の大森屋の方が財布にも優しいと思ったのは内緒だ。


 昼食後は、すぐに蒼竜様が葛町の冒険者組合まで来てたのだが、私はその前に書類の提出を済ませることになっていた。

 里見さんから、


「既に鑑定書は頂いておりますので、こちらの書類に名前を書いて血印を押して下さい。」


と言われた。私は、


「この書類は、登録のときにはなかったと思うのですが。」


と聞くと、里見さんは、


「ええ。

 この書類は登録内容を変更する時に使うものですから。

 初めて登録するときよりも、拠点の町を変更するときの方が()りすましが多いので、変更の方が書類が多くなったと聞いています。」


と答えた。私は、


「登録章を出せば済むのではないですか?」


と聞いたのだが、里見さんは、


「私もそう思います。

 ですが、具体的には聞いていませんが、野辺山副組合長が、

 『世の中には、いろいろと不正な手段があるんだ』

 と言っていました。」


と教えてくれた。私は、


「どんな仕組みを使うのでしょうね。」


と聞くと、里見さんは、


「さぁ。

 ただ、この手の話は冒険者組合から強制脱退の可能性もありえますので、控えるようにして下さい。」


と怒られてしまった。


 横では更科さんが同じ書類を記入している。

 私は、


「佳織は何か書いているようですが、私は(よろ)しいのですか?」


と聞くと、里見さんは、


「山上さんは冒険者組合に登録する時に文字が読めないとおっしゃっていましたが、あれから、まだ一月(ひとつき)も経っていません。

 勉強する時間もなかったでしょうから、私の方で代筆させていただきました。

 ただ、本来はちゃんと自分で書くものですので、字の勉強をしていただけると助かります。」


と説明した。私は、


「助かります。

 ここに押せば良いんですね。」


と言って血判を押してから、里見さんに書類を渡した。

 私が、勝手に代筆してもらえるのなら字を覚えない方おがお得ではないかと思ったのは秘密である。


 里見さんは、


「ありがとうございます。

 では、こちらで手続きをしておきますので、宜しくお願いします。」


と言った。それから里見さんは小声で、


「あと、沼田さんからあまり口外しないように釘を刺されているので小さな声ですみません。

 昇進、おめでとうございます。」


と言った。私は不思議に思って、


「中級の講習はまだ受けていませんが?」


と返したのだが、里見さんは小声で続けて、


「いえ、そちらではなくてです。

 本来は、このように気楽にお話するのも(はばか)られるのでしょうが、これまで通りが良いということでしたので、普通にさせていただいております。

 もし、不快な点がありましたら遠慮なく、ご指摘下さい。」


と言った。どうやら、竜人格になったことを言っているようだ。

 私は小声で、


「そのようなお気遣いは無用ですので、今までどおりでお願いします。」


と返した。


 田沼さんが近づいてきた。

 そして里見さんに、


「もう、終わったの?」


と確認した。里見さんは、


「はい。

 さきほど、血判を押していただきましたので、これで完了です。」


と言った。

 田沼さんは私に、


「袋、結構重いでしょ?

 思いの外、高額で売れましたから。」


と世間話をしてきた。私は心当たりがなかったので、


「えっと、どの袋ですか?」


と質問した。すると田沼さんは里見さんに、


「渡したのよね?」


と確認した。私は何の話をしているのだろうと思ったのだが、


「・・・、すみません!

 すっかり忘れていました。

 お持ちしますので、少々お待ち下さい。」


と言って、急いで奥に行った。田沼さんが、


「すみません。

 雷熊と狂熊王の支払いがまだでしたので、今、取りに行かせています。」


と説明した後、更科さんの方をちらっと見てから、


「めったに()れないものですから、ちゃんと色も着けてあります。」


と付け加えた。私は、


「もし、私のアレに配慮したのでしたら、その分は結構ですよ。」


と竜人格だからという理由で上積みしたのなら遠慮したい旨を伝えた。

 すると田沼さんは一度何か考えてから、


「不要でしたか?」


と聞いてきた。私は、


「それで特別扱いというのも気が引けますので。」


と説明すると、更科さんが、


「和人、こういう時は遠慮しちゃ駄目よ。

 貰える時は、ちゃんと貰わなきゃ。」


と言った。私は、


「いえ、まるで強請(ゆす)っているみたいじゃありませんか。」


と言うと、田沼さんは何かを思い出したようで、


「あぁ、強請(ゆす)ってましたね。」


と言ってから、


「・・・いえ、失言でした。

 でも、今回はそういうものではないので大丈夫ですよ。

 今回、高く買う人がいたから高くなっただけで、ちゃんと正当な引き渡し金額ですので。」


と説明した。私はちょっと引っ掛かりを覚えたが、更科さんの目に力が入っていたので、


「それなら、問題ありません。

 ありがたく頂いておきます。」


と折れることにした。田沼さんは、


「山上くんは、不正が嫌いな方で助かるわ。」


と笑顔だ。私は、


「誰だって、嫌いですよ。

 それに、某御仁の顔に泥を塗ることにもなりかねませんから。」


と言うと、更科さんの目が少し泳いだ気がした。私は、


「何かやりましたか?」


と確認すると、更科さんは、


「ほら、私が色を付けるようにお願いしたじゃない?

 それが後で問題になると困るなと思って。」


と言った。田沼さんは、


「いえ、大丈夫ですよ。

 かなり際どいとは思いますが。」


と、さっき『強請っていた』と発言した事は無かったことにしたようだ。

 更科さんは、


「それでは、まるで私が強請(ゆす)ていると受け取られても仕方がないようなことを言ったみたいじゃありませんか。」


牽制(けんせい)したが、田沼さんは、


「他の人が見ていたら、そう写ったかもしれませんよ?

 ()()、そうは受け取りませんでしたが。」


と、明らかに会話の主導権を取ろうとしているようだった。私が、


「まぁ、何もなかったならそれで。」


と話を打ち切るように持っていった。


 ここで里見さんが会話が終わるのを待っていたかのように、重そうな袋を2つも持って戻ってきた。

 里見さんは、


「こちらが受け取りになりますので、金額をお確かめの上、書類の記入をお願いします。」


と言った。明らかに、袋が大きい。

 更科さんが、


「えっと、これ、安塚さんにも分けるのよね?」


と言うと、田沼さんは、


「そういえば、あの時いましたね。

 丁度、上に来ていますから呼んできますね。」


と言った。私達はその間に金額を数えたのだが、銀1200匁も入っていた。

 更科さんが、


「内訳は、雷熊が銀800匁で、狂熊王は状態が悪かったから銀400匁ですって。」


と書類を呼んで説明してくれた。私は、


「思った以上の大金ですね。」


と言ったのだが、更科さんは、


「これを3人で割るから、一人銀400匁ね。」


と冷静だった。私は、人数が増えると思ったよりも少なくなるのだなと思った。

 里見さんにお願いして、袋をもう一つもらうと、銀400匁になるように分けた。


 田沼さんが安塚さんを連れて戻ってきた。


「山上くん、普通に三等分してくれるんだって?

 律儀ね。

 私も佳織ちゃんも戦闘に参加していなかったんだし、全部自分の懐に入れちゃえばいいのに。」


と言った。私は、


「そういう訳にも行きません。

 蒼竜様は辞退ということでしたが、一応、あの時は四人で組んでいたことになっていますから。」


と説明した。里見さんが、


「それ、一番揉めるやつですね。

 例えば、誰かが用を足している時に魔物に襲われて倒したとしますよね。

 組合の分け方に従うと、その時いなかった人も同じだけ貰えます。

 でも、心情としては、戦ってもいないやつに渡したくないとなるわけですよ。」


と説明した。私も、渡したくないと思う気持ちはよく分かる。

 里見さんは、


「山上さんは、今回、嫌な顔ひとつせずに三等分していただけて助かりました。」


と付け加えた。これだけだと、いなかった人がまるまる得するなと思ったのだが、田沼さんは、


「ただ、こういう場合は全部懐に入れちゃうと(かど)が立つでしょ?

 だから、その場にいなかった人は、他の人に(おご)って辻褄(つじつま)を合わせたりするものよ。

 これが原因で怪我(けが)なんかしていた場合には、貰ったよりも沢山、(おご)らされることもあるそうよ。」


と付け加えた。安塚さんは、


「お礼はしたほうがいいっていうことですね。

 後で、何か考えておきます。」


と言って、しっかり銀400匁を懐にしまっていた。

 安塚さんは、


「こういう臨時収入は滅多に無いから、本当に助かるわ。」


と言って喜んでいた。


 と、そこに佳央様が飛んできた。

 書類の記入が終わったら、ニコラ様とどのように接するか決めると言っていたが、予想以上に遅かったので呼びに来たのだろう。

 案の定、佳央様は、


<<山上、遅い。>>


と言ってきた。私は、


「すみません。

 『もう少しで終わるので、暫くお待ち下さい。』と伝えてきてもらってもいいですか?」


と聞くと、佳央様は、


<<分かった。>>


と言って、二階に戻って行ったのだった。


 ついにおっさんもGWが終わりです。

 今年はCOVID-19の件もあって、なんとなくリフレッシュしきれないGWでした。

 ただ、明日もリモートワークで家にこもる事になるので、GWが終わった気がしないんですよね・・・。


 なお、これから7月まで休日がないので土日更新が続きます。

 

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