レベルが高いと魔道具が壊れるらしい
雫様が、
「そういや、山上が超級になったとして、何かえぇことあったか?」
と質問した。野辺山さんは、首をひねって考えているようだったが、上野組合長は、
「いろいろあるぞ。
例えば、土蜘蛛のような厄災級で指揮が取れたり・・・。」
と話し始めたが、何かに気がついたようで途中で話を止め、
「無いな。」
と言った。
私には人を指揮する才覚はないということだろう。勿論、私も納得である。
雫様が、
「そやろ?
人使いたいんやったら、言うたらええし、指名の討伐依頼も断れるやろ。」
と付け加えた。私は何を話しているのか、よく分からなかった。
田中先輩は、
「あぁ、そういうことか。
むしろ、冒険者組合の本部の組合長に指示が出せるな。」
と言ったのだが、私にはますます分からない。
私が首をひねっていると、野辺山さんが、
「山上、分かってないようだな。
この国の人間側の組織は、王様がいて、その下に関白様や右大臣様、左大臣様、将軍様、本部の冒険者組合長と広がっているんだが、そこは解るか?」
と聞いてきた。私は、
「王様がいるというのは聞いたことがありますが、他はよく判りません。」
と答えた。野辺山さんは頭を痛そうにしながら、
「予感はしていたが、やはりそこからか。
冒険者学校で実技以外の授業でも受けてみるか?
組織も漢字も一通り勉強できるぞ。
卒業したら、高級冒険者になれるくらいの知識は手に入るはずだ。」
と言った。しかし田中先輩が、
「ちびっ子と一緒にか。
それは良いな。」
とニヤリとした。私はそれは嫌だったので、更科さんの方を見て、
「佳織が教えてくれませんか?」
と聞いてみた。すると、更科さんは、
「個人授業ね。」
と顔を赤らめてから、少し頭を振って、
「それはそれで面白そうだけど、やはり、ちゃんとした人に教わったほうが良いわよ。
こういうのは、沢山の人に教えてきた人のほうが上手いのよ。」
と返した。更科さんが何を想像したのか気になるところではあるが、今はその話ではない。
私は、
「そうですか。
ちびっ子は自分が出来るのに大人が出来ないと、『大人のくせに出来ないんだ』と言って、すぐに馬鹿にしてくるんですよね。」
と、今から嫌気が差した。
田中先輩が、
「蒼竜が教えるという手もあるが、どうする?」
と聞いてきた。蒼竜様がいないのに今は決められないが、それが一番良さそうに思えたので、
「では、佳央様と一緒に勉強します。」
と言った。しかし佳央様は、
<<えっと・・・。
多分、それは難しいよ?
この手だから字は書けないけど、勉強は得意だったから竜人化できるようになるまですることもないし。>>
と言った。私は何故過去形で言っているのだろうかと不思議に思ったのだが、横山さんが、
「あ、そういうことね。」
と納得して、私に、
「たまにいるのよ。
頭の回転が凄く早くて、勉強だけは、あっという間にできちゃう子。」
と話した後、佳央様に、
「学校とかは、もう全部卒業しちゃったんでしょ?」
と言った。佳央様は、
<<当たり前よ。
あと、勉強だけじゃなくて、魔法や運動も得意よ。
竜の里では10歳で学校に入って10年間勉強するんだけど、『書き方』以外はもう終わったから。>>
と言った。書き方というのは、文字の読み書きに違いない。
私は、
「では、『書き方』だけでも、一緒にやりませんか?」
と聞いてみた。すると、佳央様は、
<<まだ竜人化が安定しないの。
理想の人物像がちゃんと固まってないからだって話だけどね。
だから、書き方はまた後でね。>>
と言った。すると雫様が、
「ある、ある。
うちも竜人化できるようになって最初の頃、人物の想像が出来んでな。
よう、最後に会った近所のお姉様と全く同じに竜人化してもうたわ。
それで、いろいろ騒ぎを起こしてもうたしな。」
と話した。雫様の話からすると、竜人化する度に他の人と瓜二つになったということなのだろうか。
同じ人が二人いると、例えば用事を頼んだ時にまだ済んでいないと、もう一人が怒られたりして大変そうだ。更科さんが、
「例えば、どんな事があったのですか?」
と聞いた。すると、
「そやなぁ。
一番騒ぎになったんは・・・、あれか。
隣のお姉様に竜人化した時にな、近所のお兄様が『好き』言うて告白してきたんや。
それで、うちにも好きか聞いてきてな。
うちは、いつも遊んでくれるから『大好き』っちゅうただけなんやけどな。
そのお兄様は、うちや気づかんで有頂天になったんや。」
と思い出を話した。私は、
「それは酷い・・・。
雫様が竜人化していたと分かった後で、『好きなら、私と気づくでしょ!』とか言われそうですし、そのお兄様はその後もひどい目に会っていそうですね。」
と聞くと、雫様は、
「いや、そういう方向にはならんかったんやけどな。
お兄様は告白して、受け入れてくれた思うとんのに、お姉様はそんなの知らんやろ。
お兄様が挨拶して、お姉様の手を握ったときに、
『急に手なんて握らないでよ!』
言うて、お姉様に引っ叩れてな。
それでいろいろ話した後、お兄様が告白した時、私がお姉様に竜人化していたのが分かってな。
一応仲直りはしたんやけどな、私もお兄様も、凄く怒られたんや。」
と笑いながら言った。横山さんが、
「それで、結局、お兄様とお姉様は付き合ったの?」
と質問した。だが、雫様は、
「いや、それがお姉様はもう他の人と付き合っててな。
『幼馴染だから気軽にお話しはしていましたが、異性として見たことは一度たりともありません。
お付き合いは無理です。』
言うて、きっぱり断られとったで。」
と返した。そのお兄様は不憫だなと思った。
野辺山さんが、
「まぁ、それはさておき、話を戻すぞ。
仮に、山上が超級になったとしても、何もないという話だがな。
山上は既に、超級よりも上の身分になっている。
あえて言うなら、超級向けの依頼を普通に受けられるという事になるが、はっきり言うと、今でも身分をかざせば、どの依頼でも受けられる。
だから超級になっても、何も変わらないという訳だ。」
と説明した。私は、
「まさか・・・。
私はそのような扱いになっているのですか?」
と不思議に思いながら聞くと、上野組合長が、
「竜人格とは、そういうものです。」
と言った。私は、
「そのように言われても、困ってしまうのですが・・・。」
と言うと、田中先輩が、
「どうしても気になるなら、余計な気遣いをしないように申し渡しておけばいいんじゃないか?
普通の人間と同じように扱ってくれると思うぞ。」
と言った。私は、
「こちらとしても、その方がありがたいです。
すみませんが、お願いできますか?」
と言うと、上野組合長が、
「分かりました。
では、そのように致します。」
と言った。私は、上野組合長が敬語のままなのも気になったので、
「すみませんが、目上の方から敬語を使われていると肩身が狭く感じますので、普通に話していただけませんか?」
とお願いした。すると上野組合長は、
「すみません。
まだ、実感はないと思いますが、今は山上様が私の目上です。
私も、気にしてしまう方ですから、これは勘弁してもらえませんか。」
と丁寧に断られてしまった。
野辺山さんが、
「確かに、俺は山上が冒険者になる前から見知っていたから、こっちの喋り方の方ががしっくり来るが、今から知り合う奴は敬語で話してくるだろうな。
だが、そこは、諦めるしかないだろう。」
と言った。私も流石にそのとおりだと思ったので、
「分かりました。」
と答えた。
雫様が、
「そういや、超級になる利点、あったで。」
と言った。私は、
「どのようなことですか?」
と聞くと、雫様は、
「事情を知らんかったら、山上だけ、なんや優遇されとるように見えるやろ。
高級辺り、やっかむ筈や。
せやけど、超級やったら、殆どの奴は納得もするやろ。」
と言った。野辺山さんが、
「なるほど、それはあるな。」
と言った。私は、
「全く無いというわけでもないということですか。
超級になる動機には弱いですが、ひとまず、頑張ってみます。」
と言ってお茶を濁した。
横山さんが、
「それはそれとして、次はゴンちゃんの鑑定よ。」
と言うと、田中先輩は、
「いや、俺はいい。」
と断った。横山さんが、
「ゴンちゃんがステータス改竄しているという証言はとれているのよ。
観念して、鑑定されちゃいなさい。
それに、ほら、蒼竜様が来るまで、暇でしょ?」
と言ったのだが、田中先輩は、
「いや、一応、俺も冒険者だしな。
すべての手の内がバレているっていうのは、気持ちが悪いから、勘弁してくれないか。」
と言った。すると横山さんが、
「冒険者組合にステータスを登録しておくのは、冒険者の義務でしょ?」
と指摘した。すると田中先輩は、
「いや、俺は免除されているようなものだからな?
ポーターだし。」
と返した。私は、
「ポーターだと、登録しなくても良いんですか?」
と聞いてみた。すると田中先輩は、
「ああ。
ポーターは、基本、荷物を運ぶだけだからな。
雇い主にステータスを教えなくても良いことにはなっているんだ。
まぁ、一定以上の力があることは証明しておかないと、難しい仕事は貰えないんだがな。」
と説明した。私は、
「田中先輩は、今まで教えずにやってきたんですか?」
と聞くと、田中先輩は、
「ステータスなんか公開しなくても、意外と大丈夫だぞ。
なにせ、口に戸は立てられないってのがあるだろ?
能力とかは秘密でも、ちゃんといい仕事をしていれば、名前が出ただけであいつかとなるものだ。」
と説明した。すると野辺山さんも、
「俺も結構世話になったしな。
他のやつにも、田中を紹介してやったものだ。」
と言った。なるほど、人とのつながりで仕事が上手く回っていたということなのだろう。ただ、田中先輩の場合は、あまりにいい仕事をしすぎて、途中から『恐れ多い』と言って仕事が来なくなったようだが。
私は単純に田中先輩のステータスが気になったので、
「もう、今更ですし本業でもありませんから、公開しても良いんじゃないでしょうか。」
と言ってみた。すると田中先輩は、
「まぁ、確かに最近は歩荷が本業で、ポーターとしての仕事も受けてないし、そんな気もするな。」
と言ったのだが、
「ただ、魔道具が持たんぞ?」
と言った。横山さんは少し考えて、
「じゃぁ、止めておくわ。」
と引き下がった。私は、
「どういうことですか?」
と聞いてみた所、横山さんは私に近づき、小声で、
「赤竜帝が『1000を超えていたはずだ』って言っていたでしょ?
あんまりレベルが高いと、魔道具が耐えられなくて壊れる事があるのよ。」
と言った。
私は、
「では、赤竜帝はどうやって測ったのでしょうか。」
と聞くと、横山さんは、
「感覚でしょうね。
でも、感覚だと数字化できないでしょ?
だから魔道具を使って測るの。
絶対的な基準を元にして計測しないと、測定する人によってレベルが変わったら困るでしょ?」
と言った。私が、
「確かに、変わると困りますね。
では、田中先輩は計測不能ってことですか?」
と聞くと、横山さんは、
「今日準備した魔道具では測れないわね。
でも、王都に行けば超超級冒険者のレベルを測るための装置があるから、それを使えば測れるはずよ。
ゴンちゃんには、悪いけど王都まで行って測ってきてもらうわね。」
と言った。しかし田中先輩は、
「いや、俺はいざとなったら半日で竜の里まで行かないといけないからな。
王都だと流石に無理だ。」
と喜んで言った。横山さんは、
「その手で逃げたのね。
でも、赤竜帝が相手の約束じゃ、しょうがないわね。」
と、諦めたようだった。
田中先輩が、
「そういえば、蒼竜は今日、里を出発するんだろ?
おそらく午後になると思うから、あと1刻はかかるんじゃないか?」
と言った。野辺山さんは、
「1刻か。
昼にするにしても、少し早いしどうするか。」
と言ってから少し考え、私と更科さんに、
「山上と更科は、下で書類を作りに行ってはどうだ?
里見が準備を終わらせているはずだ。」
と言った。私はふと、
「佳織も名付けをしてもらっていましたが、ステータスも上がっているのではありませんでしたか?」
と聞いてみた。横山さんは、
「そうなの?
じゃぁ、佳織ちゃん、測っていく?」
と聞いた。更科さんは、
「そうですね。
まだ時間もありますし、お願いします。」
と言ったのだった。
積んでた本が難しくて現実逃避していたら、字数が増え気味に・・・。(--;)