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更科さんの実家で報告したら

 田中先輩や横山さんと別れたので、今は私と更科さん、雫様の3人と佳央様の1匹が残っている。

 雫様は、宿は特に決めていないようだったので、更科さんの実家に泊めてもらえるか確認することになった。

 私は更科さんを実家まで送り届けた後、すぐに集荷場の二階の自分の部屋まで帰るつもりだった。だが更科さんから『赤竜帝に結婚の名付けをしてもらったから、何も言わずに帰るとお父様がお冠になるわよ』と言われたので、波風を立てないためにも更科家に寄って報告することになった。


 更科屋に着くと、その日の片付けをしていた。


 店に着くと奥の座敷に通される事になったのだが、庭を見ながら廊下を歩くと、ムーちゃんと杉元さんが(まり)で遊んでいるのが見えた。

 更科さんが、


「杉元さん、ご苦労様。」


と言うと、杉元さんは、


「お嬢様、申し訳ありません。

 長旅でしたでしょうし、お風呂を沸かしましょうか?」


と返した。私は、なぜ杉元さんが申し訳ないと言ったのか不思議に思った。

 更科さんは、


「お願いね。」


と杉元さんが謝ったことに対して、お互い特に何の説明をすることもなく、お風呂の準備を頼んだ。

 こちらの家では常識となる『何か』があるのかもしれない。


 ムーちゃんも私達に気がついたようで、一度、私に駆けよろうとしたが、さっと杉元さんの後ろに隠れた。杉元さんは、ムーちゃんの様子に何事かと思って見回していた。

 私もムーちゃんが変な動きをしたので『どうしたのだろう』と思ったのだが、横で佳央様が浮かんでいたので、これが原因だということに思い至った。

 私は、


「ムーちゃん、大丈夫ですよ。

 こちらは、佳央様と言います。

 仲良くして下さいね。」


と子供に紹介するように言ったのだが、ムーちゃんは杉元さんの後ろに隠れたまま、佳央様と見つめ合っているようだった。だが、よく見ると何か話をしているらしく、2匹はたまに(うなず)いたりもしていた。佳央様が、


<<面白いむささびね。

  あれを成長させると、多分、凄いことになるよ。>>


と声が楽しそうだった。私は、


「佳央様は、ムーちゃんともお話できるのですか?」


と聞くと、佳央様は、


<<ちゃんと、ムーちゃんを紹介するのが先よ。

  まぁ、いいわ。

  もう話をしちゃったし。

  で、質問の回答だけど、相手も明確な意思を持っていれば出来るよ。>>


と答えた。佳央様もムーちゃんも、私が考えている以上に優秀なのかもしれない。

 私は、


「流石、佳央様です。

 私は、ムーちゃんはなんとなく意思を持っているんだろうなと思うことはありましたが、話をするなんてことは出来ません。

 せいぜい、雰囲気で察するくらいですよ。」


と言うと、ムーちゃんが、


「キュイ!

 キュイ!」


と鳴いた。佳央様は、


<<ムーちゃんが、人間にしてはなかなか出来るやつだと言っているわ。>


通訳(つうやく)した。更科さんが、


「ムーちゃん、たまに偉そうだとは思っていたけど、やっぱり上から目線だったのね。」


と言うと、ムーちゃんは、


「キュッ、キュイ。

 キュイ!」


と鳴いた。なんとなく、そんなことはないと言っているようだったが、佳央様も、


<<薫には世話になっているから、そんなことはないと言っているわ。>>


と通訳したので、私がなんとなく感じていたことと一致することが分かった。

 私は、


「それじゃ、私だけ上から目線ということですか?」


と聞くと、ムーちゃんが、


「キュッ!」


と、当然だと言いたげだ。佳央様も、


<<当然だそうよ。

  山上、随分(ずいぶん)()められてるわね。>>


と言った。私は、田中先輩が言っていた序列の話が頭をよぎった。

 私はいつの間にか、ムーちゃんにとっては自分より下という認識になってしまったのかもしれない。

 佳央様が、ムーちゃんになにか言うと、


「キュイ!」


と鳴きながら、私に胡乱(うろん)な目を向けてきた気がした。

 佳央様が言うには、


<<身分の上では私と同格って伝えたら、鼻で笑って『ありえない』って言ってきたよ?>>


と報告してくれた。私は、


「まぁ、ムーちゃんですし、私自身も佳央様と同格というのは、未だに()に落ちていませんから。」


と返すと、雫様は、


「まぁ、えぇんやないか?

 これも、山上のえぇ所や。」


と呆れたように返した。私は、これは絶対、良いところとは思っていないやつだと感じたので、


「それ、褒めてないですよね。」


と言うと、雫様は、


「少しは分かってきたやんか。

 でも、まぁ、山上が急に偉そうなことを言い出しても、気持ち悪いんやけどな。」


と少し笑った。


「キュッ!」


と鳴いて、ムーちゃんが私の方に来た。


 その()きにというわけでも無いのだろうが、杉元さんが奥に下がっていく。

 ふと、杉元さんは竜を見て平気なのだろうかと疑問に思った。

 そう言えば、茶屋のお姉さんも平静を装っていた。

 茶屋のお姉さんは奥に入ると騒いでいたが、杉元さんはどうなのだろうと思った。


 廊下から座敷に入ると、奥にお父様、(わき)にお祖父様とお祖母様が座っていた。

 この中で本当に(えら)いのは、お祖母様だという話を思い出し、私は少し緊張した。


 更科さんが座布団に座ったので、私もその横の畳に正座しようとしたが、お父様は慌てて座布団から横に座り直し、


「この竜は、どなた様ですか?」


と聞いてきた。明らかに動揺しているし、いつもと口調も違う。

 私が、


「こちらは雫様で、こちらが佳央様です。

 雫様は蒼竜様のお知り合いで、佳央様は赤竜帝から預かってまいりました。」


と説明すると、お父様はまた驚いたようで、


「申し訳ありません!

 雫様は竜人様でしたか!」


と頭をするように土下座していた。お祖父様、お祖母様は座布団から降りると、一つ横にずれて土下座した。その後、お祖母様が、


(しげる)!」


と叱りつけると、お父様はハッとしたようで、


「申し訳ありません!」


と言って、慌てて上座から降りて、先程までお祖父様が座っていた座布団の横に所に座り直し、


「これ!

 上座にもう一枚!」


と言うと、女中の小鳥遊(たかなし)さんが元の座布団を下げて、別の先程よりも更に品のある紫の座布団を3段に積んで2席準備した。

 雫様は、


「そんなん、えぇのに。」


と言いながら、佳央様と二人で3段に積まれた座布団に座った。

 そして、雫様は、


「固っ苦しいのはなしや。

 こういうんは、うちも面倒くさくてかなわん。」


と不機嫌そうに言うと、お父様が、


「申し訳ありません。」


と頭をこすりつけるように謝った。雫様は、


「申し訳ない思うんやったら、頭上げな?」


と言うと、お祖父様とお祖母様は土下座を辞めて、普通に座り直した。

 しかしお父様は、


「そのような、恐れ多いことは出来ません!」


と言うと、お祖母様が、


「竜人様が構わないと言ってるんだよ!

 さっさと面を上げな!

 こないだ来た、蒼竜様の時も苦言を(てい)していたろう!」


と叱っていた。どうやら、前に蒼竜様が来た時にも、似たようなことがあったらしい。

 更科さんが、


「雫様、父はこのような性格なので放おって置いて下さい。」


と言うと、雫様も、


「まぁ、そういうんもおるからしゃぁないか。」


と諦めたようで、つづけて


「で、どんな話や。」


と聞いた。お父様は、


「恐れながら、この(たび)は・・・」


と言うと、雫様は、


「恐れながらはえぇから、本題に入ろか。」


(うなが)した。お父様は、


「申し訳ありません。

 この度は、山上くんと(うち)の娘が竜の里に出かけてきたということでしたが、向こうで何があったか話を聞こうと思いまして。」


と話した。私はなんとなく更科さんを見たのだが、何故か薄笑いをしていた。

 私はどうしてそんな表情をしているのか分からず、とりあえず、


「佳織、私達は何か不味いことをやらかしましたか?」


と確認した。お父様、お祖父様、お祖母様の目が更科さんに集まる。

 すると更科さんは、


「竜の里では、いろいろあったじゃない。」


と嬉しそうに言ってきた。どうやら、私が薄笑いと思ったのは思い出し笑いをしただけのようだった。

 更科さんが説明を始めた。


「まず、向こうでなにかあったか、順に概要をお話します。」


と話し始めようとしたが、部屋の外を見て、


「その前に、お茶をお願いね。」


と言った。すると、女中の杉元さんが部屋に入ってきて、お茶を配って回った。

 杉元さんが退室すると、更科さんはお茶を少しすすってから、


「すみません。

 では、始めます。」


と一息入れて話し始めた。

 更科さんは、


「初めに、竜の里に入った後、赤竜帝と会いました。

 まず、田中先輩に里の防衛に協力するように言い渡したのと、和人の力についての話が行われました。

 この日は、蒼竜様が同席していませんでしたので、踏み込んだ話は後日となりましたが、赤竜帝から和人と私に名付けの話が出ました。

 そして翌日、赤竜帝から直々に和人に()()という名前が与えられました。」


と言った。するとお父様は、


「それは素晴らしいな。」


と合いの手を入れた。更科さんは少し頷きながら、


「はい。」


と答えた後、続けて、


「それで、和人が(もら)った名前なのですが、赤竜帝から名前の1字(たまわ)っております。」


と言うと、お父様、お祖父様、お祖母様、(みんな)(そろ)って目をぎょっとした。

 更科さんは、


「この後、赤竜帝から私も名付けをしていただきました。

 私の場合は、佳境(かきょう)()に織物の織という字を書いて『佳織』と漢字だけの変更です。」


と話した。すると雫様が、


「まぁ、あれや。

 結婚して苗字が変わったら、字数が縁起悪うなる場合があるやろ?

 佳織ちゃんは思い切り悪く(わるぅ)なったから、縁起のええ字数に変えたんやろな。」


と付け加えた。私はそんな事は思いもしなかったので、そこに気がつく赤竜帝も雫様も(すご)いなと思った。

 しかし、ここでお父様が慌てて、


「待て、待て、待て、待て、お待て下さい!

 今、『なった』と過去形でお話になりましたか?」


と尋ねた。雫様は、


「そうや。

 結婚したら、名付けくらいするやろ?」


と話した。お父様は、


「いえ、確かにそうですが、まだ両家で結納もしていないのですよ!」


と困惑している。雫様は、


「もぉ、どうせ、結婚させるんやったら、早いか遅いかだけやろ。

 細かいこと、気にしたらあかんやろ。」


とあっけらかんと話した。しかしお父様は、


「しかし、順番と言いますか・・・、」


と言うと、今度は私の方に顔を向けて大きな声で、


「こら!

 和人!

 (なん)てことしてくれたんだね。

 結婚するにも、順番というのがあるのは理解しているね!」


と矛先を私に向けてきた。更科さんが間に入ろうとして、


「お父様、それは最後まで話を聞いてからにして下さい。」


と言ったのだが、逆に、お父様から、


世間体(せけんてい)というのがあるだろう!

 和人がいくら農家の出でも、こればかりはまかり通すわけにはならんぞ!」


叱咤(しった)された。

 私は、どう返せば丸く収まるのか、頭をひねることになったのだった。 


お父様 :待て、待て、待て、待て、お待て下さい!

更科さん:(途中で失礼だと気がついたのね。)

山上くん:(『お待て下さい』って・・・!(笑))

お祖父様:(()んだな。)

お祖母様:(神主さんにお願いするのは結婚の儀式の時なのに、順番が可怪(おか)しいじゃないのよ)

雫様  :((あせ)る気持ちも分からんでもないか。まぁ、子供おらんけど。)

佳央様 :(?)


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