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朝餉(あさげ)も豪華だった

 いつものように夜明け前に目が覚める。

 まだ障子から差し込む光も、鳥のさえずりもない。


 私は井戸まで行くと、水を()み上げる。

 冷たい井戸水で顔を洗うと、一日が始まるぞという気分になってくる。

 また、井戸から水を汲み、手ぬぐいを濡らして固く絞る。

 そして、浴衣の上を(はだ)けさせて上半身裸になってから、手ぬぐいで体を()いていく。

 それが一通り終わると、ふんどしを外して洗い、赤い魔法(火魔法)で乾かす。

 下半身も手ぬぐいで拭いた後、ふんどしをしっかり締めて浴衣を着なおした。


 部屋に戻ろうと宿に入ると、飯が炊ける良い(にお)いが(ただよ)っている。

 千代(ちよ)ばあさんの顔が浮かぶ。千代ばあさんは元気にしているだろうか。


 部屋に戻ると、更科さんが、なぜか私の寝袋に頭をつっこんでいた。

 私は、


「おはようございます。

 何かありましたか?」


と聞くと、更科さんはビクッと体を震わせてから、


「あっ、おはよう、和人。

 お帰り。

 えっとね、虫がいたのよ。

 で、それを捕まえて出そうと思ったけど、上手く行かなくて。」


と話した。私は、寝袋をしまう前に虫を出してしまいたいと思ったので、


「そうだったのですか。

 ありがとうございます。

 後は私がやりますね。」


と言って、私は寝袋を(つか)んで、また外に出た。

 寝袋をひっくり返してみたが、中から虫は出てこなかったので、もうどこかに逃げてしまったのかもしれない。

 折角(せっかく)なので、また井戸から水を汲み、さっき体を()いた手ぬぐいをしっかりと洗ってから固く絞り、寝袋の内側を丁寧(ていねい)()いた。

 赤い魔法(火魔法)で乾かしてから、部屋に戻る。

 私は、


「佳織、虫はもういなかったみたいですよ。

 ひょっとしたらまだ、部屋の中にいるかもしれませんので、気をつけて下さいね。」


と言った。しかし、更科さんは、


「部屋では見なかったから、もう外に逃げたのでしょうね。」


とニコニコしていた。佳央様が、


<<おはよう。>>


と挨拶をしてきた。私達が話をしていたから目が覚めてしまったのかもしれない。


「佳央様、おはようございます。

 起こしてしまいましたか?

 申し訳ありません。」


と謝った。しかし佳央様は、


<<別にいいよ。

  でも、虫ならそこら中にいるけど、わざわざ(さわ)ぐのは人間固有なの?>>


と聞いてきた。なので私は、


「例えば百足(むかで)とかは毒を持っていますから、()まれたら大変なことになるじゃないですか。

 それに、犬や猫も壁蝨(だに)が体に付けば地面に体をこすりつけたりしますし、恐らくですが、人間だけが虫で騒ぐわけではないと思いますよ。」


と答えた。だが佳央様は、


<<百足は刺すの?>>


と聞いてきた。

 私は噛まれたら激痛が走り()れるらしいと答えたかったのだが、ここで雫様の目が覚めたようで、


「佳央ちゃん、まだ朝早いやろ。

 もうちょっと、寝よか。」


と不機嫌そうな声で言ってきた。

 雫様は、まだ寝()りないのだろう。

 私は、


「申し訳ありません。」


と謝ったのだが、雫様は、


「子供が早う起きるんは、寝るんが早いからしょうがないやろ?

 山上のせいちゃうわ。」


と意外と怒らせてはいなかった。

 私がホッとすると、丁度(ちょうど)太陽が昇り始めたようで、外が明るくなってきた。


 田中先輩がむくっと起き上がり、


「そろそろ朝飯(あさめし)か。」


と言った。そう言えば昨日、田中先輩は、日の出の後すぐに朝食にしたいと言っていた。

 宿の主人がやってきて、


「恐れ入ります。

 朝餉(あさげ)の支度が(ととの)いました。

 持って参りたいと思いますが、宜しいでしょうか?」


と聞いてきた。明らかに言葉が硬い。

 田中先輩は、


「分かった。

 布団だけ上げるから、少しだけ待ってくれ。」


と言うと、宿の主人は、


「そっ、そのようなことは私共でいたします。

 暫くお待ち下さい。」


と言って、ばたばたと駆けていった。

 宿の主人に悪い気がした。それと、他に泊り客がいたら、こんな早朝に迷惑だろうなと思った。

 田中先輩は、


「それじゃ、布団を(はし)に寄せておくか。」 


と言って、布団をせっせと(たた)み始めた。

 私は宿の主人が部屋に()たら真っ青になるだろうなと思ったが、田中先輩がやっているのに、自分は放置というわけにも行かないと思ったが、私は寝袋だったから、そんな心肺はない帰途に気が付いた。

 自分の寝袋を仕舞(しま)う。

 更科さんは布団をどうするか迷っていたようだが、私が寝袋をしまったのに気がついて、


「和人、ちょっと(ずる)いわよ。」


と眉を寄せて指摘したのだが、私は、


「大丈夫ですよ。

 佳央様の布団だけ残しておけば、ご主人も仕事が出来ますから。」


と返した。すると更科さんは、


「それなら、一応、筋は通るね。」


と言って、せっせと自分の使った布団を畳んで、先に田中先輩が畳んで端にどけていた布団の上に積んだ。

 横山さん、雫様もそれに習って上に積んでいく。

 宿の主人が人を連れて戻って来た頃には、残りの布団は1組だけになっていた。

 私の予想通り、宿の主人の顔が青い。私は、


「こちらは佳央様が使った布団です。

 すみませんが、片付けをお願いします。」


と言って、まるでこの中で一番偉い人が佳央様であるかのように言った。

 すると宿の主人は私の意図が分かったらしく、少しほっとした表情を見せてから、


「ははっ!」


と言って、その布団をせっせと片付けた。



 宿の主人が下がると、間もなくしてまた店の主人がやってきて、


朝餉(あさげ)にございます。」


と告げた。そして、お膳を恐らく宿の主人の女房(おかみさん)と子供が運んできた。

 御飯とおみそ汁、山女(やまめ)の焼き魚と小鉢には煮物、そしてお漬物も付いている。

 前に泊まった時の朝食には焼き魚なんて無かったので、明らかに豪華だ。

 昨日は思い至らなかったが、宿の主人が気を遣って、赤字覚悟で対応しているのかもしれない。

 田中先輩は、


「今日は美味そうだな。」


()めると、緊張気味だった宿の主人の表情が少し(ゆる)んで、


「はい。

 今朝も、張り切らせていただきました。」


と言った。私が、


「このように振る舞っていただいて、ご迷惑をおかけしていませんか?」


(たず)ねると、宿の主人は、


滅相(めっそう)もありません。」


と恐縮していた。雫様に、


「山上、気を(きぃ)使い過ぎや。」


と言われてしまった。


 私は朝食の後、宿の一番小さい子からお弁当を受け取ったのだが、横では田中先輩が前回よりも多い宿代を支払っているようだった。

 だが、あれだけいろいろやってくれたのだから、追加料金があるのも当たり前だろう。

 田中先輩は、


「これは別に。」


と言って、心付けを宿の主人に渡そうとした。

 だが、宿の主人は、


「そのようなお気遣いは不要です。」


と言って、恐縮していた。しかし、田中先輩は、


「いろいろしてくれたからな。」


と宿の主人に心付けを渡そうとした。宿の主人も何度か受け取りを断ろうとしていたが、田中先輩はいろいろと理由を付けて心付けを受け取ってもらうことに成功したようだった。

 この後、宿の人たちに挨拶をして、私達は湖月村を後にしたのだった。


 もう少しでGWに入ります。

 おっさんは例年、買ったままになっている本や雑誌を読んだり、日帰りで小旅行したりして過ごしていますが、1週間なんてあっという間に終わってしまいます。

 一応、今年はCOVID-19のアレもあるので、小旅行はやらない予定ですが・・・。

 本文が短かったら、積んでいた本を読んでいて時間が無くなったんだなと思っていただけると助かります。(~~;)

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