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佳央様、それはやめて下さい

 湖月村についた私達は、早速、村唯一の宿に向かった。

 宿に続く道を歩いていると、畑の方から声がした。


「おや?

 ついこないだ来たばかりだが、また来たのかい?」


 私は声の方を見ると、宿の主人が固まっていた。

 ひと呼吸すると宿の主人の金縛りは解けたようで、恐る恐る土下座して、


「あんた方、竜人様のご関係者だったんかい。」


と言った。どうやら、佳央様を見て固まったようだ。

 宿の主人は口調を徐々に早めながら、


「親しげに申し訳ありゃせん。

 首を飛ばすのだけは、ご容赦ねがいます!」


と地面に頭をこすりつけて()みながら謝ってきた。

 田中先輩は、


「そのように(かしこ)まらなくてもいいぞ。

 俺達も(ただ)の平民だ。」


と言った。だが佳央様は、


<<人間の分際(ぶんざい)で、良いと言うておろう。

  早う頭を上げぬか!>>


可笑(おか)しそうにしながら、恐らく蒼竜様の声を真似て言った。

 私は、蒼竜様はそのような言葉は使わないだろうと思ったが、雫様は笑いを堪えているようだった。

 昔、似たようなことを蒼竜様が言っていたのかもしれない。

 私は慌てて、


「佳央様!

 そのような物言いでは、怖がるではありませんか。

 もう少し、丁寧にお願いします。」


と後半は(さと)すように言った。すると佳央様は、


<<でも、人間には()められちゃったらだめって教わったよ?

  ちゃんと、偉そうに話をしてみたけど、どうだった?>>


と言ってきた。雫様は、


「なんや、それ!

 それで、雅弘(まさひろ)の真似したんか。」


と今にも笑い出しそうにしていた。私は、


「佳央様はその姿ですから、舐められることはありませんよ。

 威張(いば)る必要もありません。

 ただ、そのままで大丈夫です。」


と言った。すると佳央様は、


<<?

  まぁ、私の姿を見れば、それもそっか。>>


と納得したようだった。

 田中先輩は宿の主人に、


「今日は、5人と1匹で頼む。

 あと、明日は早く出発するから、朝食は日の出の後、すぐに食べられると助かる。

 それと、昼に食べる弁当も頼む。」


と簡潔に伝えた。宿の主人は土下座したまま、


「ははっ。

 ですから、平に!」


と未だに萎縮(いしゅく)しっぱなしだった。



 宿に入った後、暫くして夕方になり、晩御飯の時間となった。

 今回は、竜の里とは違って人間の宿なので安心して御飯が食べられる。

 ただ、宿の主人が緊張気味なのと、前回泊まった時の晩御飯よりも豪華なのが気になった。


 私はご馳走を前にすっかりいい気分になっていたが、その時、ちょっとした事件が起きた。

 佳央様が、


<<山上、食べさせてくれる?>>


と言って、私に向かって口を開けてきたのだ。

 私は、甘え(ぐせ)はいけないと思ったので、


「甘えるのは駄目ですよ。

 ちゃんと、自分でお(はし)を使って食べて下さい。」


と言った。すると佳央様は両手を出して、


<<山上は、この手で箸が持てると思ってる?>>


と言ってきた。そう言われれば、佳央様の手は鋭い爪が出ていて、お箸を持てそうにない。

 私は、


「試してみたことはあるのですか?」


と聞いてみた。すると佳央様は、


<<無い。

  無駄だし。>>


と言った。

 私はふと思いたち、普段はお行儀が悪いので絶対にやらないが、重さ魔法で箸置きからお箸を持ち上げてみせた。

 そして、お箸でお茶碗の御飯をつまみ、なんとか持ち上げた。

 ものすごく集中力がいる。

 お箸を口元に運び、お箸の先ごと(くわ)える。

 そして、お箸を箸置きに戻す。

 やってみると出来るものだと思ったが、ものすごく細かな魔力操作が必要で、一口だけで疲れてしまった。


「佳央様、こんな事も出来ますよ。」


と言うと、佳央様は、


<<そんな曲芸みたいなこと、出来ないよ!>>


と返した。しかし、隣を見ると、田中先輩が器用にお箸を浮かせて御飯を食べていた。

 私は、


「田中先輩は流石(さすが)です。

 私は一口だけで、もう参ってしまいましたよ。」


とうっかり、正直に話した。すると田中先輩は、


「まぁそんなもんだ。

 しかし、これはなかなか面白いな。

 繊細な魔力操作の修行になっているぞ。」


と言うと、横山さんもお箸を中に浮かべて食べながら、


「そうね。

 これだけ細やかな操作が出来るようになれば、かなりの精度で魔法を当てられるようになるわね。」


と言った。すると佳央様は、


<<無理。

  これは細かすぎ!>>


と言った。私は、


「佳央様も、翼も使わずに器用に浮いているじゃありませんか。

 ついでにお箸も浮かせて、後はちょっと手を添えて口まで運んでみては如何ですか?」


と言ってみた。佳央様は、


<<分かった。

  一応、試してみる。>>


と言って、実際に魔力でお箸を浮かべながら右手の爪を添えた。

 そして、器用にお箸を(あやつ)って御飯を食べることが出来た。

 私は、


「流石、佳央様ですね。

 一発ではないですか。」


と言うと、佳央様は嬉しそうにして、味噌汁のお椀を浮かせて左手を添えた。

 そして、浮かせたお箸に右手の爪を添え、そのお箸で器用にお椀の中をかき混ぜ、味噌汁を飲んだ。

 私は、


「そのような器用なことは、私には出来ませんよ。

 佳央様は素質が違いますね。」


と言うと、まんざらでもない雰囲気で、


<<まぁ、血筋も良いしね。>>


と自慢気に言った。私は次兄に聞いた、『どれだけ血筋が良くても、本人が努力しなければ駄目になる』と言っていたのを思い出し、


「血筋と言うよりも、本人の素質ですよ。

 私なんかと違って、佳央様は集中力も上なのだと思います。

 なかなか、一発でこうも上手くは行かないと思いますし。」


と素直に褒めると、田中先輩から、


「それは(おだ)て過ぎだろう。」


と注意された。私は、


「自分にはこんなにすぐに出来ないから、(すご)いと言っただけですよ。」


と反論すると、田中先輩は、


「順位付けと言ってな。

 あんまり()めると、自分のほうが格上だと思って言うことを聞かなくなるんだぞ。」


と言った。私は竜も犬と同じなのだろうかと疑問に思ったので聞こうとしたが、先に佳央様が、


<<なんだ、(おだ)てれられてただけか。

  つまんないの。>>


と言ったので、聞きそびれてしまった。

 もっとも、本人を目の前にする話でもないので、先に佳央様が話してくれて良かったのかもしれない。

 (なお)、佳央様は『つまんないの』と言った割には、尻尾が満更でもない様子だった。


 しばらく、和気あいあいと御飯を食べていたのだが、いくら集中力があるからと言ってもまだ幼い佳央様には辛かったようで、半分も食べないうちに、


<<半分頑張ったから、あと半分は食べさせて?>>


と言ってきた。私は、


「はい。

 やはり、この食べ方は疲れますからね。」


と言って佳央様のお箸で食べさせてあげた。佳央様は嬉しそうだ。

 すると、隣の更科さんが、


「和人、和人、私も。

 はい、あ〜んして?」


と言ってきた。私は人前で恥ずかしかったのだが、更科さんが、


「ほら。

 佳央ちゃんだけじゃ、(ずる)いでしょ?」


と言ってきた。私には何が狡いのか分からなかったが、


「仕方ないですね。」


と言って、口を開けた。すると更科さんは私の口に御飯を運んでくれた。

 私は、


「じゃぁ、お返しに。」


と言って、胡瓜の(ぬか)漬けを私の使ったお箸で(つま)んで食べさせた。

 そして私は、


「後は、自分で食べますよ。

 佳織も、自分のを食べたら、交代して、佳央様に食べさせてあげてくれませんか?」


と聞くと、(ほほ)を膨らませながらも、


「分かったわよ。」


と納得してくれた。佳央様は、なんとなく不服そうだった。

 一方、正面では、雫様が、


明日(あした)合流したら、うちも雅弘(まさひろ)にやってもらおかなぁ。」


と独りごちていた。



 御飯が終わった後、風呂に入り、これから寝ることになった。

 今日は(かび)香る布団ではなく、お日様(ひさま)(にお)いだ。

 私が、


「やはり、こういう匂いは(うれ)しくなりますね。」


と言うと、更科さんも、


「うん。

 とまり木の布団はあまりに(ひど)かったから、自前の寝袋で寝ちゃったしね。」


と返した。しかし、布団を()き終わると、布団が5組しか出ていないことに気がついた。

 すると佳央様が、


<<ほんとうに仕方なくだけど、一緒に寝てあげるわ。>>


と言って、私の所に飛んできた。

 私は竜と人間だし、赤竜帝も親密な方が良いと言っていたので、


「はい。

 宜しくおねがいします。」


と普通に返したのだが、更科さんが、


「佳央様、それはやめて下さい。

 和人は私のなので。」


と何故か一緒に寝るのを()めてきた。

 私が、


「別に、目くじらを立てるようなことでもないと思うのですが・・・。」


と言うと、更科さんは、


「佳央様は女の子よ。

 一緒に寝て良いわけ無いでしょ?」


と言った。私は、


「竜と人ですよ?」


と返したのだが、更科さんは、


「佳央様も、そのうち竜人になれるようになるのよ?

 それで布団に入ってきたら、間違いの芽になるでしょ!」


と怒られた。私は、


「それは大丈夫ではないでしょうか。

 第一、佳央様はまだこんなに小さいですし。」


と言って、佳央様の頭を撫でると、佳央様も満更(まんざら)ではに感じだった。

 しかし横山さんが、


「佳央様。

 妻のいる男と一緒に寝るというのは駄目ですよ。

 別れて寝ましょうね。」


と言った。

 一瞬、更科さんが駄目だと言ったから説得しようとしているのかとも思ったが、どうもそういう感じではなさそうだった。

 雫様も、


「いくら山上が優しいから言うても、人様の(もん)手を(てぇ)出したらあかん。

 分かるやろ?」


と言っていた。

 私は佳央様とは竜と人で別種とは思っていたから、当然異性とは考えもしなかった。だが、どうも、女性陣は私とは違って十分に間違いが起こりうると考えているようだ。確かに、さっき更科さんも言っていたように、佳央様もそのうち竜人に成れるのだるおが、私は目の前の小さい竜を見てそういう仲になる気がしない。

 佳央様は、


<<けち。>>


と文句を言った。

 私は、更科さんが心配しているようなので、波風を立てないためにも、


「では、私は自分の寝袋を使いますので、佳央様は布団を使って下さい。」


と言って、この場は収まったのだった。


 次回は山上くんの朝の水浴びシーンから始まります。

 需要があるかどうかは謎ですが・・・。(--;)


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