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礼儀作法を指導してもらったものの

 役人と思われる竜人が、


「初にお目にかかる。

 小生(しょうせい)は、大月(おおつき) 大和(やまと)と申す。

 そなたが山上殿か?」


と自己紹介をした。私は、


「はい、私が山上 和人(かずと)です。

 ご丁寧にありがとうございます。」


と返事をした。すると、


「ふむ。

 昨日、話は聞いているとは思うが、これからの日程を説明(いた)す。

 質問があるようなら、遠慮なく聞くがよい。」


と言った。私が、


「はい、分かりました。」


と了承すると、大月様は一つ頷いて、


「これからそなたには、赤竜帝が直々(じきじき)に名付けの儀式を()(おこな)う。

 まずは、それに足る人物か力を示してもらう。」


と言った。私は体験することはなかったが、以前、里に入る時に行う儀式で地竜を使うと聞いたのを思い出し、


「地竜ですか?」


と聞くと、大月様は以外そうな顔をして、


「知っておったのか?

 なら、話が早い。」


と言った。私は内容も知っていると思われると困るので、慌てて、


「いえ、里に入る前に地竜と戦うという話がありましたので、そうではないかと思っただけです。」


と返した。すると大月様は、


「なるほど、そういうことか。

 なら、説明するぞ。」


と言ってから、


「まず、これから闘技場に行くので、そこで地竜と戦ってもらう。」


と説明を始めようとした。私は竜帝城に行くと思っていたので、面喰らってしまった。

 私は周りは女性陣だし、立ち話が長引くのもどうかと思ったので、


「申し訳ありません。

 話が長くなるようでしたら、先に支度をしてきても大丈夫でしょうか。」


と周りを見ながら言った。支度している間に、他の人の意見も聞けるかもしれない。

 すると大月様は、


「おお、すまんすまん。

 小生としたことが、(みな)待っておったか。」


と額をペちんと(たた)いてから、


「準備をしてくるがよかろう。」


と言った。それで私達は宿に入ると、着替えを済ませた後にこの話を受けるべきか少し相談をした。

 だが、田中先輩始め、みんなに行く一択だと言われてしまった。

 荷物をまとめて出て表に出ると、大月様が、


「大きな背負子だな。」


と指摘したので、私は、


「はい。

 本職は歩荷でして。

 これは商売道具です。」


と説明した。すると大月様は意外そうな顔をして、


「ふむ?

 冒険者ではないのか?」


と聞いてきた。私は、


「冒険者登録は一応していますが、その方が都合が良いことがあるからで、本業というわけではありません。」


と返した。ここで雫様が、


「その割には、ちゃっかり『拳骨(げんこつ)の』とかいう二つ名持ちやそうやで。」


と指摘した。私は、


「その、恥ずかしいので『拳骨の』は止めて下さい。」


と返すと、大月様は


「拳骨ということは、武器ではなく素手ということか?」


と聞いてきた。私は、


「本業ではありませんので、武器の扱いはからっきしでして。

 一応、(なた)は持っていますが、草刈りに使うぐらいで、拳骨で殴ったほうが強いのですよ。」


と苦笑いした。すると大月様は、


「ふむ。

 それは確かに分が悪いかもしれんな。」


と言った。すると田中先輩が、


「地竜とは見せかけだけか?

 それとも、本番か?」


と聞いた。すると大月様は、


「実際に戦って倒してもらうことになる。

 なに。

 拳骨でも、雷熊を倒したと聞いたぞ。

 地竜は雷熊よりも少し面倒なくらいであるからして、案ずることもあるまい。」


とやや心配そうな表情で言った。私は雷熊を倒したことはあるが、狂熊王を倒した直後、疲れたところを不意打ちで倒しただけだ。そのように心配そうな顔をされると、それよりも強い相手なだけに、私の力が通用するのか不安が募る。

 田中先輩は私の不安そうな顔を見たからか、


「雷熊の話は俺も聞いたぞ。

 油断さえしなければ、なんとかなるんじゃないか?」


と声を掛けてくれた。しかし私は、


「いえいえ。

 雷熊は運が良かっただけで、本来は私では倒せなかったかもしれません。

 それよりも格上となると、難しいのですが・・・。」


と倒せないかもしれない理由を説明した。しかし大月様は、


「弱気であるな。

 だがな。

 少しくらい格上をなんとか出来ないようでは、赤竜帝から名付けを受ける資格もないというものだ。

 赤竜帝は納得しても、周りがそうは行かぬからな。

 気合を入れるがよかろう。」


と言った。蒼竜様も、


「拙者も直接戦いを見たわけではないが、山上は傷らしい傷もなかったではないか。

 恐らく、雷熊は山上よりも格下であったのであろう。

 なに。

 やって命に関わりそうであれば助けに入るゆえ、心配せずとも良いぞ。」


と楽観的だった。私はとても不安だったが、更科さんはちゃんと察してくれて、


「和人、無理そうなら辞退する?」


と心配そうに下から顔を(のぞ)き込むように聞いてきた。私は、


「折角の機会なので受けたいのは山々ですが、地竜では命に関わりそうなので辞退したいです。」


と答えた。

 これを聞いた大月様は眉を(ひそ)めて、


「奥方の前であれば、虚勢を張ってでも『倒してくる』と言うところであろうに。

 少し、地竜に揉まれてきた方が良いのではないか?

 小生もそうであったが、時に根性だめしというものは必要であるぞ。」


と苦笑いされながら諭されるように説教された。私は、


「そのようなご無体(むたい)な。」


と言ったのだが、大月様は、


「無体も何もあるか。

 このような機会、もう二度と無いと心得よ。

 さっ、行くぞ。」


と私の心が決まる前に出発させられてしまった。


 大月様は、


「まず、地竜との対戦であるが、まずは闘技場正面から見て右側から出てもらう。

 大体、会場の三分の一の所に線が引いてある故、そこまで前に出られよ。

 司会が合図をするゆえ、それで止まったのでも良い。

 後は、司会に従って対決を開始してもらう。

 戦い方は、自由でよい。

 地竜と対決して倒した後は、正面に台があるゆえ、その前に行くが良い。

 赤竜帝がその台に登り、そなたに名付けを行う。」


と、次々と説明を始めてしまった。

 私は、


「そのように次から次へと説明をされましても。

 そもそも、私はやるとも言っておりませんし・・・。」


と言ったのだが、大月様は、


(くど)い。

 もう、諦めよ。」


我儘(わがまま)(しか)りつけるように言ってから、


「それで名付けが始まる時なのだがな、既に謁見したゆえ分かるとは思うが、しっかり頭を下げるようにな。

 くれぐれも、途中で周りが気になって顔を上げる、などということは無きように。」


と、また説明の続きを話し始めてしまった。私は、地竜に万が一勝った後、礼儀作法で首を落とされてはかなわないので、ここは観念(かんねん)してしっかり聞くことにした。

 大月様は、


「赤竜帝が直々に頭に触るゆえ、驚かぬように。」


と続ける。そして、


「名付けをした後、体が軽くなるであろうが、決して頭は上げぬように。

 できればここで一言、気の利いたお礼を言ってもらいたいものだが、思い浮かばぬなら、

 『確かに、お受けいたしました。』

 とでも言っておけばよかろう。

 その後、そのまま頭を下げておれば、赤竜帝が一旦お下がりになる。

 下がれば声がかかるゆえ、一度頭を上げ、正面、左、右の順に礼をし、また台の方に向かう。

 そうすると、真後ろにある扉が開くゆえ、一度会場の外に出よ。

 この時、正面を向いたまま三歩下がっては足を揃えて止まり、また三歩下がっては足を揃えて止まりを繰り返すように。」


と言った。私はよく分からなかったので、後ろ向きに歩きながら、実際にやってみて、


「こんな感じでしょうか。」


と聞いた。すると大月様が、


「そうではない。

 三歩下がって、四歩目で足を揃えるのだ。

 右、左、右、揃え。

 右、左、右、揃え。

 そうそう。

 そんな感じだ。」


と指導してくれた。

 その後、大月様から結婚の方についても大雑把(おおざっぱ)に説明をしてもらった。

 道中、大月様から、


「人間ゆえ、多少の作法の間違いは見逃してくれるであろうが、なるべくならビシッと決めるが良いぞ。」


と言って敷居をあげてきた。

 その後も、いろいろと細かな礼儀作法を聞いていたのだが、私が覚えきらないうちに闘技場に着いてしまった。

 闘技場のなにある、何か字の書いてある紙が()ってある扉の前まで来た時、大月様は立ち止まった。私は真ん中の『え』の字しか判らなかった。

 大月様は私達の方に振り返ると、


「ここがそなた達の控室になる。

 小生はここで一旦別れるが、大筋の流れは話したとおりだ。

 後は、成るようになるであろう。」


と、明らかに不安そうな顔で話した。私と更科さんが、


「「ありがとうございました。」」


と挨拶すると、大月様は、


「ふむ。

 では、上手くやれよ。」


と言ってこの場を離れていった。

 ひとまず皆で控室に入った後、蒼竜様が私に、


「まぁ、余程の失礼がなければ大丈夫であろう。

 足さばきなど、本来と違えば笑われることはあれど、命を取られることはあるまい。

 気楽にいたせよ。」


と声を掛けた。横山さんは更科さんに、


「そう言えば、結婚の衣装とか全然話を聞いていないけどどうするの?」


と聞いてきた。更科さんは青い顔になって、


「雫様、どうしましょう・・・。」


と言ったのだが、雫様は、


「まぁ、このような場を用意したんや。

 (なん)しない(せーへん)言ゆうこともない思うで。

 なぁ、雅弘(まさひろ)?」


と蒼竜様に確認した。蒼竜様は、


「ふむ?

 まぁ、そのままでよいのではないか?」


と言った。雫様は、


朴念仁(ぼくねんじん)に聞いたうちが阿呆(あほ)やったわ。」


と眉間に人差し指を当てて頭を痛そうにしている。雫様は、


「まぁ、うちからも聞いたるから、ちょっと待っとってな。」


と言ってから、すぐに、


朴念仁(ぼくねんじん)早く(はよぅ)しないと(せな)いけない(あかん)から行くで。」


と言って、蒼竜様の腕を引っ張って部屋を出ていった。田中先輩と横山さんも、


「じゃぁ、俺達も行くからな。

 まぁ、頑張れよ。」


と言ってから部屋を出た。

 残された控室で私は、何か粗相(そそう)をやらかさないかと緊張していせいもあって、考え事をしながら水を飲んだら、変なところに入って(むせ)てしまった。

 更科さんは昨日の赤竜帝との食事会の時と違って割と平気そうだったので、少しは慣れてきたのかもしれない。

 私は、その順応性の高さと胆力(たんりょく)を少し分けて欲しいものだと(うらや)ましく思ったのだった。


〜〜〜杉崎村を出た所にて

久堅さん :レモン、朝から甚平餅か。

      さっき、朝飯(あさめし)()ったところだろ。

レモンさん:いや、これは別腹だろ。

      ごま油というのがまた格別だしな。

ニコラさん:レモンはすっかり(はま)ったようだな。

レモンさん:ああ。

      だが、仕方ないだろう。

      このような食べ物はハプスニルにはなかったぞ。

韮崎さん :それにしても、()りないですね。

      昨日、庄屋様のお屋敷でお召し上がりになってから何本食べているのですか。

レモンさん:別に良いだろ。

      それより、葛町まではどのくらいかかるんだ?

韮崎さん :だいたいおやつ時(15時)ちょっとになります。

レモンさん:最初、出かける時は2日半と言っていなかったか?

韮崎さん :それは卯の刻(6時)に出かければの話です。

久堅さん :レモンが昨日、甚平餅を食べすぎて一泊することになったんだろうが。

      少しは自覚しろよ。

ニコラさん:そうだぞ。

      いい歳なのだから、もう少し食い意地が汚いのを直せよ。

レモンさん:いや、すみませんでした。


──ということで、こちらは急遽、杉崎村に泊まっていました。


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