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赤竜帝と寿司屋に行った

* 2020/08/15

 誤記を修正しました。

 あと、一部読みづらいところを意味が変わらない範囲で修正しています。

 後書きの段落も、途中からずれていたので修正しました。


 ──偉い奴らは、周りにぞろぞろ人を連れて行列を作りたがる習性を持っている。


 昔、次兄が言っていたことである。

 が、しかし、赤竜帝は蒼竜様と二人で並んで歩いているだけで、他にお供らしい人はいなかった。

 私は蒼竜様に、


「行列ではないのですね。」


(たず)ねた。すると蒼竜様は少し考えてから、茶壺(ちゃつぼ)ではないが手をポンと打ち鳴らし、


「一応、お忍びという事になっているからな。

 ただ、普段であっても里の最高戦力なのだ。

 護衛など、不要であろうよ。」


と返した。田中先輩も、


「まぁ、そうだろうな。

 人間の王様は、ちょっと城を出るだけで護衛から救護まで不測の事態に備えて何十人もの行列を作って移動していたが、それと比べると不用心に見えるのは分かるがな。」


と言って、護衛を付けても意味がないことを肯定した。しかし雫様が、


「めっちゃ強いやつに襲撃されたらどないするんや?

 危機感なさすぎやろ。」


と指摘した。すると蒼竜様は、


「そうか?

 (むし)ろ、護衛を付けるほうが失礼に思えるが。

 護衛など付ければ、『うちの赤竜帝は大して強くありません』と公言しているようではないか。」


と反論した。雫様は、


「いや、いや、いや、いや、いや。

 例えば、田中みたいなんが刺客で来たらお手上げや。

 そやけど、雅弘(まさひろ)くらいのが不意打ちしてきたらどうや?

 周りに誰もおらんかったら殺られてまうけど、(あいだ)に人がおって、ちょっと邪魔できたらそれだけで対処する時間も稼げるやろ。」


反駁(はんばく)した。田中先輩はちらりと蒼竜様を見て、


「まぁ、確かに蒼竜くらいの力があれば、油断している広重(ひろしげ)にも一撃入れられるか。

 しかしそんな(やつ)、そうはいないと思うぞ?」


と言い返した。雫様は、


「まぁ、確かに雅弘くらいになったらそうはおらんけどな。

 ()()()()里からの刺客なら、無名でおっても不思議はない思わんか?」


と言った。裏の家業を里全体で(いとな)むような竜の里があるのかもしれない。赤竜帝が、


「明石殿の言う通りかもしれぬな。」


と言ってから、


「田中、今度護衛でもやらぬか?」


と聞いた。すると田中先輩は、


広重(ひろしげ)でかなわぬなら、俺なんて壁にもなれんぞ?」


と返事をした。私は謙遜(けんそん)し過ぎだろうと思った。

 他の人もそう思ったようで、蒼竜様が、


「田中は広重様よりも強いであろうに、何を言っているか!」


と突っ込みを入れた。私は赤竜帝よりも強いということは無いだろうと思ったので、蒼竜様の冗談に違いないと思った。だが、普通に考えれば、赤竜帝を相手に言っていい冗談ではないと思う。だが、当の赤竜帝も何故か(うなず)いていた。

 赤竜帝は、


「まぁ、実際にどちらが強いかは置いておくとして、そろそろ店屋に行かぬか?

 予約もあるであろう?」


と移動を(うなが)した。

 蒼竜様が、


「ふむ。

 今夜は、港鮨(みなとずし)の予約ですゆえ、そろそろ行くとしましょう。

 さぁ。」


と言って歩き出した。蒼竜様も赤竜帝には敬語を混ぜるようだ。使い慣れていないようではあるが。

 私は、


「銭湯だったのでは?」


とつっこんでみた。すると、蒼竜様は、


「さっき、広重様が予約を入れたそうなのだ。

 すまぬが、風呂はその後で頼む。」


と返した。さっき、蒼竜様が予約したのだろうと思ったのだが、赤竜帝が(みずか)ら取ったようだ。

 田中先輩が、


「蒼竜、ここには港はないぞ?

 なんで港鮨なんだ?」


と聞いた。すると蒼竜様は、


「名の由来(ゆらい)か。

 確か、今日上がったばかりの魚を王都の港から竜化して直送しているゆえに、港鮨なのだそうだ。

 この辺りでは珍しく握りも出るゆえ、楽しみにするがよい。」


と答えた。横山さんが、


「流石、竜の里のお寿司屋さんは凄いわね。

 でもここ、王都からかなり離れているわよね。

 飛んでくるだけでも、一日かかるんじゃないの?」


と聞くと、蒼竜様は、


「うむ。

 これは昔聞いた話なのだがな。

 例えば鯖の押し寿司は、水揚げされた魚をすぐに(さば)いて〆鯖を作り、酢飯と一緒に簀巻(すま)きにして鯖寿司にしてから運んでいるそうだ。

 空輸している時間は発酵(はっこう)するゆえ、夕方、竜の里に付いた頃にはしっかり馴染んでいるそうだ。」


と言った。空輸ということは、竜化して飛んで運んでいるのだろう。発酵は何かわからないが、調理の手法の一つに違いない。

 横山さんが、


「それなら王都で食べたお寿司の方が、新鮮で美味しいかもしれないということね。」


と身も蓋もないことを言っていたが、蒼竜様は、


「人とは年季が違うゆえ、そのようなことはあるまいよ。」


と自信たっぷりだった。


 私達は四半時(30分)ほど歩いて、港鮨に着いた。

 店屋では個室が用意されており、(とこ)()には立派な竜の掛け軸が飾られていた。

 上座に赤竜帝が座り、蒼竜様、雫様、田中先輩、横山さん、私、更科さんの順位で座った。

 座布団は、半間(90cm)ほど離れて置いてある。

 お(ぜん)には字の書かれた紙が置いてあり、蒼竜様がひと目見て懐にしまっていたので、漢字は読めないが私もそれに習った。

 床の間の竜についてお店やさんに聞くと、最初にこの里を開いた()竜帝の肖像画(しょうぞうが)なのだと説明してくれた。

 店員さんが下がってから赤竜亭が、この絵に描かれている竜の魂が脈々と継承され、今は私の中に入ろうとしているのだと説明をした。私はとても恐れ多く感じ、緊張してきた。田中先輩が、


「今更緊張しても、仕方ないだろう。

 それよりも、せっかくの高級寿司だ。

 しっかり堪能(たんのう)しておけよ。」


と言った。私は、


「はい。

 そうします。」


と言ったが、そんな言葉で収まるような緊張ではない。雫様が、


「薫ちゃん、さっきから全然(しゃべ)ってへんけど大丈夫か?」


と聞いた。すると更科さんは、


「いえ、私みたいな者が話をする場でもないと思いまして。」


と言って、こちらもかなり緊張しているようだった。普段物怖じしない更科さんが、赤竜帝の前ではかなり緊張していて、とても新鮮に感じる。こういうのは本当はいけないのだろうが、自分だけじゃないと思うと安心して、不謹慎にも少しだけ緊張がほぐれた。

 それはそれとして私は、


「名付けだけでなく、結婚の儀式までやってくれるということで、本当にありがとうございます。」


と、赤竜帝に頭を下げた。すると赤竜帝は、


「よい。

 大体、こう言っては何であるが、里はわりと平和でな。

 やることもそうは無いのだ。

 暇つぶしだと思ってくれても構わぬ。」


と言った。すると蒼竜様が、


「そんな事はありますまい。

 今は他里と一戦交えるかもしれないわけですし、いろいろな所から大量の報告が毎日のように上がっているのではありませぬか?」


と反論した。だが赤竜帝は、


「なに。

 毎日進展があるわけでもないゆえ、(なら)せばせいぜい朝の四半刻(30分)というところよ。

 後は慰問だの、書類に判を押したりだの、退屈でかなわぬ。」


と楽しげに返した。赤竜帝にとって、蒼竜様も田中先輩も気のおけない親友なのだろう。赤竜帝の本音がダダ漏れのようだ。

 田中先輩が、


「ここには他にも人がいるんだぞ?

 少しは自重しろ。」


と苦笑いしながら注意をすると、蒼竜様が、


「まぁ、拙者も(しばら)く里を離れておったゆえ、息抜きする相手もあまりいなかったのであろう。」


(なだ)めた。これには赤竜帝も、


「それではまるで、友の少ない(さび)しがり屋みたいではないか!」


と眉をひそめた。しかし蒼竜様は、


「そうであろう?

 かといって、(かま)ってくれそうな()もおらぬではないか。

 拙者はもうじき、雫をもらうゆえ一抜けするぞ?」


と言ってからかっている。赤竜帝は、


「まぁ、昔からお前らは、くっついたり別れたり忙しかったからな。

 どうせ、またいつものように喧嘩(けんか)をして分かれるのであろう?」


と逆にからかい返した。

 蒼竜様は、


「今回はそうはならぬぞ。」


と自信満々に言った。しかし赤竜帝は、


「今の時勢(じせい)だ。

 雫の里が攻めてきたら、(かば)()ても出来ぬぞ?」


と指摘した。蒼竜様は、


「その時は、雫が危険な目に会うかもしれぬゆえ、二人で逃避行をすることになっておる。」


と言った。赤竜帝は、


「ならば、里の守りはどうするのだ?」


と聞くと、蒼竜様は、


「なに。

 田中が来るのなら、心配するだけ無駄であろう。

 それゆえ、拙者は雫だけ守るつもりだ。」


と言い切ったが、演技じみていいるようにも感じる。赤竜帝は嬉しそうに、


「まぁ分かったが、お前が里に戻った時、白い目で見られるぞ?」


と指摘した。すると蒼竜様は、


「いい女と人生を共にするのだ。

 多少周りから白い目で見られようが、大した問題ではない。」


と胸を張った。だが、田中先輩は、


「これだけ啖呵(たんか)を切っているにもかかわらず、こいつら、別れるんだよな。

 確か、似たようなことを以前も聞いたぞ?」


と不愉快そうだった。しかし雫様は、


「まぁ、確かにな。

 雅弘、頭がカチンコチンやから融通が利かんで、つい別れてまうんや。

 けど、他のんより居心地はええから、やっぱり戻ってしもうてな。

 そやからうちも、そろそろ決めてもええか思うとんのや。」


と言った。田中先輩がニヤニヤしている。赤竜帝が、


「正式に結婚するなら、儀式をしてやるぞ?」


とこちらもニヤニヤしている。

 なぜか蒼竜様だけ、冷や汗が浮かんでいるようにも見えたが、ここは突っ込まないことにした。


 ここで店員がやってきた。

 まずは吸い物。

 次に、手まり寿司というものを運んできた。

 お皿の上には、小さくて丸い握り寿司が4個ずつ4列に綺麗に並んでいる。

 店員さんが、赤身と言うにはあまりに桃色の(まぐろ)、白身の(たい)、柿を明るくしたような鮭、茹でて赤くなった海老(えび)、薄焼き卵を巻いて胡瓜(きゅうり)を松の葉に見立てて乗せたものと順番に説明してくれたが、あまりに多くて覚えきれなかった。

 どの寿司も素晴らしかったが、鮪は口に入れると上品な(あぶら)旨味(うまみ)を残してすっと溶けるように消えていったのには驚いた。

 中には歯ごたえのあるもの、()むとつぶつぶが弾けるものなどもあって、食感の違いも楽しい。

 私は、これが高級寿司かと感心しっぱなしだった。

 隣の更科さんを見ると、寿司を食べるに従い緊張が解け、幸せそうな顔になっていった。私は、


「薫、幸せそうですね。」


と声をかけると、更科さんは、


「うん。

 こんなに美味しいお寿司は初めてかも。」


とご満悦(まんえつ)だった。

 私達が一通り手まり寿司を食べると、次は1辺が三寸(9cm)ぐらいの正方形で、具で綺麗な絵が描かれた押し寿司が出てきた。

 店員さんの説明によると、里の朝を描いたのだそうで、錦糸卵、細く切られた海苔、そぼろ、飾り切りした(さより)の酢漬けをシャリの上に乗せて押し寿司にし、最後にイクラというキラキラ輝く魚卵(ぎょらん)を乗せて完成させたそうだ。

 私は味だけでなく見た目でも楽しめて、高級寿司店というところの料理はどれも凄いなと感心したのだった。


田中先輩:今更緊張しても、仕方ないだろう。

     それよりも、せっかくの高級寿司だ。

     しっかり堪能(たんのう)しておけよ。

山上くん:はい。そうします。

     (とは言え、竜の里を開いたほどの偉人の魂ということなら、私には荷が重いと言うか・・・。)

雫様  :薫ちゃん、さっきから全然(しゃべ)ってへんけど大丈夫か?

更科さん:いえ、私みたいな者が話をする場でもないと思いまして。

     (というか、赤竜帝の前だし、ちゃんとしたお作法をしないと。)

山上くん:(更科さんも赤竜帝の前だし、流石に緊張しているのかなぁ。

      珍しい。)

更科さん:(さっき蒼竜様は『握り』って言っていたけど、あの握りよね。

      確か、上品に食べる場合は手づかみじゃなくって・・・。

      そうそう、横に倒して箸で摘んでネタにお醤油をちょこっと付けてから食べるんだっけ。)


ーーー

 そういえば人によって呼び方が違うので、名前を整理しておきます。


・赤竜帝(赤竜(せきりゅう) 広重(ひろしげ))

 田中先輩は「広重」と呼ぶ。

 蒼竜様はTPOで「広重様」と呼ぶが、基本は「赤竜帝」と役職で呼ぶ。

 ※なお、役職で呼ぶ時は様は付けません。

  役職が敬称となるからです。

  例えば「田中主任」と役職を付けて呼ぶと「主任の田中様」と呼んでいるのと同じ意味になります。

  これに「様」をつけて「田中主任様」と呼ぶと「主任の田中様様」と呼んでいるのと同じです。

  「〜様様」と呼ぶのは失礼になりますから役職名に様を付けるのはNGという訳です。


・蒼竜様(蒼竜(そうりゅう) 雅弘(まさひろ))

 雫様は「雅弘」と呼ぶ。

 竜の里では「先生」と呼ばれることがある。


・雫様(赤石(あかし) (しずく))

 蒼竜様は「雫」と呼ぶ。

 山上くん、更科さんは最初に苗字を聞いていなかったせいもあって「雫様」と呼ぶ。

 横山さんは更科さんにつられて「雫様」と呼ぶ。

 赤竜帝と田中先輩は「赤石」と呼ぶ。

 出身の竜の里(今いる里とは別の里)ではお嬢と呼ばれることがある。


・田中先輩(田中 厳吉)

 山上くんと更科さんは「田中先輩」と呼ぶ。

 横山さんは「ゴンちゃん」と呼ぶ。

 竜の里での通り名は「尻尾切り」。

 民宿の番頭さんは「田中様」と呼ぶが、時折「尻尾切り様」と呼ぶ。

 葛町、大杉町では「先生」と呼ばれることがある。


・横山さん(横山 実美佳(みみか))

 田中先輩は「実美佳」と呼ぶ。

 蒼竜様、雫様は「横山」と呼ぶ。

 山上くん、更科さんは「横山さん」と呼ぶ。


・山上くん(山上 和人)

 赤竜帝、蒼竜様、田中先輩は「山上」と呼ぶ。

 更科さんは「和人」と呼ぶ。

 更科さんの弟の(おさむ)くんは「和人さん」と呼ぶ。

 葛町、大杉町の冒険者の間での通り名は「拳骨の」。


・更科さん(更科 (かおり))

 山上くんは「薫」と呼ぶ。

 横山さん、雫様は「薫ちゃん」と呼ぶ。

 田中先輩は「更科」と呼ぶが、赤竜帝は旧姓で呼んでいるのに違和感を感じている。

 蒼竜様は「(山上の)奥方」と呼んでいる。

 一部の大杉町の冒険者と山上くんの2番めのお兄さん(次兄)は「でく」と呼ぶ。


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