赤竜帝と直接話をした
「ああ。
間違いない。」
凛とした声の竜人の問に、田中先輩が答えた。
その竜人は、
「ふむ。
この件は認めるか。
では、お主に対して処罰を与えることになるが、覚悟は出来ておるな。」
と言った。田中先輩は、
「まぁ、多少ならな。」
と答えた。問をした竜人が明らかに不快そうな声で、
「ふむ。
では、本来であれば打首であると言いたいところではある。
が、今回は隣の里からの襲撃が疑われておるゆえ、これに備えることで刑とする。」
と、以前聞いた予想のとおりに話が進行した。
田中先輩は、
「そのくらいなら、仕方ないか。」
と言ったが、続けて、
「ところで、期間はいつまでだ?」
と確認した。すると刑を伝えた竜人が、
「特に無い。」
と言った。
期限がないということは、終身刑なのだろうか。
そう思ったのだが、赤竜帝が
<<期限は、隣の里からの襲撃の可能性がなくなるまでとする。
襲撃が始まった後、1日で駆けつけられる範囲から出なければ良い。>>
と言った。複数の布の擦れるような音が聞こえてくる。ひょっとしたら、事前に決められた刑罰とは違うのかもしれない。
暫く小声で竜人たちが相談した後、先程の竜人が、
「ゴホン。
では、以下に訂正する。
一つ、期限は本里への襲撃の可能性がなくなるまで。
一つ、本里が襲撃された場合、いかなる理由があれ、1日以内に駆けつけること。
一つ、駆けつけた後は敵対勢力を排除すること。
以上を申し付ける。」
と言った。私は、それなら今まで通りに過ごせるのではないかと思ったのだが、田中先輩が、
「分かった。
が、俺からも条件を付けるぞ。」
と言った。刑を申し付けた竜人が、
「そのような事が許されると思っておるのか!」
と怒鳴ったのだが、田中先輩は、
「伝達方法についてだ。
緊急事態だからな。
ちんたら歩かれたらたまらん。
必ず竜形態で、それも全力で半日飛べる範囲と言うのでどうだ。」
と言った。私は思わず、
「竜形態で半日飛んでも、田中先輩がどこにいるか分からないと駄目じゃないですか。」
とつっこんでしまった。田中先輩は明らかに苦笑いしながら、
「御前だぞ。
発言は控えろよ。」
と注意したが、
<<よい。
なかなか利発ではないか。>>
と赤竜帝が直々に褒めてくれた。田中先輩は、
「事務的なことは後で詰めたら良いだろう。
とは言えお前ら、念話を三人同時通話することで、概ねの場所を特定する術は持っているよな?
それで方向が特定できるなら、半日で迎えに来て残り半日で竜の里まで連れてくることはできるだろう。」
と言った。私は念話や三人同時通話が何なのか知らなかったが、今質問するのも不味いので後で確認しようと思った。
最初に怒鳴った竜人が、
「非常事態ぞ?
竜形態で半日全力で飛んで後、帰りも同じ速度で飛べる者など差し向ける余裕があるわけがなかろうが。
少しはこちらの事も考えよ。」
と尤もな文句を言ってきた。すると田中先輩が、
「半日というのは言葉の綾だ。
日が昇って落ちるまでの半分くらいという意味だ。
お前らなら、半日もあればここから大宮くらいまでは行けるだろ?
そこから少し休んで、里まで飛べばいいだろう。」
と訂正した。私は、これは流石に田中先輩の後付けなのだろうと思った。
だが、1日という範囲が日が昇って落ちるまでか、翌日同じ時刻までかで、行動範囲が違うのもまた事実である。後の話で、この辺りはもっとしっかり詰めるのかもしれない。
だが、文句を言った竜人は、
「緊急事態だぞ?
こっちだって日が昇ってから落ちるまでの1日に決まっておろうが!」
とこちらも後付ではないかと思える文句を言った。赤竜帝が、
<<そのようなことは、後から決めれば良い。
今重要なのは、すぐに駆けつけられるかどうかの点のみである。
そもそも念話が使えるゆえ、一人、田中に速く飛べる竜人を付ければ済む話であろうが。>>
と不快そうに言った。竜人たちが、
「「御意。」」
と同意した。
そして最初に伏せろと言った竜人が、
「では、次の案件に移る。」
と言って、一区切り着けた。そして、
「山上 和人。
お主は黒山殺害の現場に居合わせ、魂を継承したということで相違ないか?」
と質問してきた。私は、
「そのような大それた事があったかどうかは判りません。
ただ、蒼竜様はそのようにおっしゃっておりました。」
と言った。すると田中先輩に刑を伝えた竜人が、
「ふむ。
お主、【魔力色鑑定】があるようだの。」
と指摘した。私を鑑定したのだろう。
私は実験台にされるのは嫌だなと思ったが、蒼竜様もすぐにどうやったのか仮説を話していたので、どうせすぐに同じことに思い至るのだろうと考え、
「はい。
確か蒼竜様が、【魔力色鑑定】は竜の眼の力を分割して与えたのではないかとおっしゃっておりました。」
と回答した。鑑定の竜人が、
「ふむ?
いや、しかしそれはありえぬのだが。
いや、しかし・・・。
あぁ、なるほど、なるほど。」
と独り言を続けた後、
「この点はどうしてそのような結論に至ったのか蒼竜と議論したいところだが、蒼竜は来ておらぬな。」
と、今更ながら指摘した。私は、
「先に竜の里に入った筈なのですが、私達もまだ見かけておりません。」
と答えた。すると、声が小さくて誰が話したかは分からなかったが、竜人同士で何か話し合いをした後、一人の竜人が退席した。そして、独り言を言っていた竜人が、
「蒼竜がおらねば話も進まぬ。
他にもいろいろと聞きたいことはあるが、続きの審議は明日することとしよう。」
と言った。ここで赤竜帝が、
<<本日は以上である。
そち等はこれで下がってよい。
個人的に田中と話があるゆえ、一行はまだ帰らずとも良い。>>
と締めると、残った竜人が、
「「御意。」」
と言って下がっていった。
扉が閉まる音がした後、威圧感がなくなり人の声がした。
「堅苦しい挨拶はもうよかろう。
ここからは個人の赤竜 広重として話をするゆえ、面を上げよ。
あ、いや、普通に面と向かっても良いという意味だ。
胡座で良いぞ。」
どうやら、赤竜帝が竜人化して喋っているようだ。
田中先輩が、
「本来はあってはならんらしいが、どうせ普通の竜人も、赤竜帝になる前に顔を合わせて見知っている。
ここで顔を知っている人が増えたとしても、特に問題もないだろう。」
と発言した。どうして田中先輩が仕切りだしたのか、謎である。が、赤竜帝はそれとは別のことに関心が向いたようで、
「『あってはならん』ということも無いとは思うが、そういう事になっているのか?」
と確認した。田中先輩が、
「門番から、そのような仕来りだと聞いたぞ。」
と言った。すると赤竜帝は、
「む。
まぁ、相わかった。
が、いつも思うのだが、どうしてこう変な仕来りが出来るのか、本当に不思議なことよ。
いっそ、作り変えてやろうかと思うぞ。」
とニヤリと笑った。が、田中先輩が、
「お前は仕来りを守る側だろうが。
面倒など、言っておれんだろう。」
と宥めていた。赤竜帝は、
「まぁ、権威づけの一環なのやもしれぬが、厄介なことよ。」
と苦笑した。
そういえば、赤竜帝の話し方が徐々に砕けてきたように感じる。
赤竜帝は私に向くと、
「時に、山上と言ったか。
あと、そろそろ面を上げても良いのではないか?」
と指摘した。恐る恐る頭を上げると、他の人はとっくに頭を上げていた。
赤竜帝は私が頭を上げたのを確認すると、
「ふむ。
本日は蒼竜を呼ぶために明日まで持ち越しとなったが、先に見せてみよ。」
と言った。私は田中先輩に小声で、
「これ、直接答えてもよいのですか?」
と確認したが、赤竜帝が直々に、
「聞こえておるぞ。
そういう仕来りが、面倒だと言っておるのだ。
直にでよい。」
と言ったかと思うと、体がゾワッとした。そして赤竜帝は、
「ふむ。
まだ中途半端なようだが、名付けでもすれば定着しそうだな。」
と言った。私は緊張しながらも、
「蒼竜様も、似たようなことをおっしゃっていました。」
と返した。すると赤竜帝は、
「であろうな。
あやつも良い眼を持っておる。」
と言った後、ニヤッと笑い、
「良いことを思いついたぞ。
直々に名付けをしてやろう。」
と言った。すると田中先輩は、
「そうだ。
こいつら、親族も認めているのに、まだ神社に行っていないらしんだ。
ついでに結婚のあれもやったらどうだ?」
と私達を見てニヤニヤしながら赤竜帝に言った。私は、
「そのような、恐れ多いです。
勘弁して下さい。」
と背中から冷や汗を掻きながら答えた。更科さんも、冷や汗を掻いているようだった。
すると赤竜帝が、
「なに。
別に大したことはないぞ?
まぁ、あれだ。
黒山は昔の黒竜帝の血縁ゆえ、その魂の継承者である山上なら側近連中もゴリ押しできるはずだ。
なにせ、山上が竜人であったなら、そのくらいは当然であるからな。」
と言った。私は、次の継承は出来ないのではないかと思ったので、
「そのような由緒正しい魂を継承していたのですか。
でも、私はこの魂を次に繋げる術を持ちません。
どのようにすればよいのでしょうか。」
と質問をした。すると赤竜帝は、
「それについては、明日話をするが、お主には【魂の移譲】というスキルを身に着けてもらう。
これを身につけるためには、人間にしては相当なレベルが必要なのだが・・・、まぁ、田中の例もある。
到達し得ぬこともなかろう。」
と言った。私は以前うっかりで見てしまった田中先輩のレベルを思い出し、
「確か、田中先輩は魔法レベルが100を超えているのでしたっけ。」
と確認した。すると赤竜帝は、
「?
それでは高級冒険者くらいではないか。
田中なら、確か、魔法レベルは1000を超えていたはずだが。」
と言った。田中先輩が不味いことを言われた顔をしている。横山さんが、
「ゴンちゃん?
鑑定の時、スキルで隠蔽してたの?
あれ、確か公文書だから嘘、偽りは駄目よ?」
と言った。だが、田中先輩が、
「あの時、ちゃんとスキルに【ステータス隠蔽】も出ていただろ?
誤魔化してないぞ。」
と反論した・・・のだが、目が泳ぎ気味だ。そこで横山さんは、
「ゴンちゃん、専門家にそういう嘘は駄目よ。
【ステータス隠蔽】を使ったら、見えなくなるじゃない。
そうじゃなくて、自分の好きなステータスに出来る【ステータス操作】と、その【ステータス操作】のスキルを隠すために【スキル隠蔽】を使ったんじゃないの?」
と指摘した。田中先輩が、嘘を指摘された子供のような顔をしている。私は田中先輩に、
「山上、余計なことを言うなよ。」
と睨まれてしまった。私は、
「すみません。」
と素直に謝ったが、赤竜帝が、
「誤魔化した田中が悪い。」
と言った後、続けて私にも、
「あと、山上とやら。
田中が高級冒険者と同じくらいなら、里の防衛は竜人で十分である。
仮に足りていなかったとしても、田中には頼まず、冒険者組合から超級冒険者を出すように命令しておるぞ。」
と話した。ごもっともである。
私は、
「それでは、田中先輩の本当のステータスはどのようになっているのでしょうか。」
と聞いた。すると横山さんも、
「そうね。
【ステータス操作】で下げるにも限度があるから、まぁ、あれの10倍くらいじゃないかしらね。
そうすると、赤竜帝の言っている少なくとも1000を超えるという話とも辻褄が合うでしょ?
でも、そうなると超超級冒険者でも軽くあしらえることになるわね。」
と言った。すると赤竜帝は、
「まぁ、その1000というのも疑わしいのだがな。
田中が、どれほどの竜の尻尾を切ったと思っておる。
普通の竜ですら、人間は束にならねば倒せぬというのに、その上を行く竜人化できる竜人をああもバッタバッタと切ってあしらうのだ。
同じレベルでも竜人と人では力が違うゆえ、人間の1000やそこらでは話が釣り合うとは思えぬ。」
と言った。しかし田中先輩は、
「あれだ。
普通、冒険者のステータスを詮索するのは駄目だからな?
それと、山上はもう冒険者に片足をつっこんでいるんだ。
本業が歩荷と知らない冒険者も多いだろうから、場合によっては口封じされてもおかしくない。
だから、軽々にそういうのを聞くのは止めとけよ。」
と注意された。私は、
「すみません。
気をつけます。」
と謝ったものの、やはり田中先輩の本当のステータスがどのくらい高いのか、一度くらい見てみたいなと思ったのだった。
以前にも、山上くんが田中先輩のステータスを詮索して注意されていますが、また聞いてしまいました。
他、横山さんもそうですが、この辺りの忘れっぽっさは登場人物の仕様ですのであしからず。。。(--;)




