竜の里の門番さんと話した
私達は竜の里に入ったのだが、家が上に向かってちょっとだけ縦長になったような作りになっている他は、大杉町とたいして変わらない町並みが広がっていた。
私は、竜がそのままの姿で闊歩していたり、その竜がそのまま入るような縦にも横にも大きな建物が並んでいるのではないかと想像していただけに、なんとなく肩透かしを食らったように感じた。
更科さんが表情無く、
「普通だね。」
と言ったのだが、私も表情無く、
「はい。
普通ですね。」
と返した。
私は横山さんもがっかりしているだろうなと思いながらそっちを見ると、予想に反して目が輝いていた。横山さんは、
「ゴンちゃん、建物が少し高いわよ!
それに、蒼竜様もそうだけど、やはり竜人は大柄の人が多いのね!
それに、あれ!
あそこで遊んでいるのは子供だと思うけど、もう人の形態になれるのね。」
と、見たもの全部が新鮮なようで、田中先輩に一方的に話しかけていた。田中先輩はと言うと、答える前に次から次に横山さんに話されてしまい、相づちを打つのが精一杯のようだった。
雫様が、
「そういえば、竜の里に入ったのに、雅弘、どこにおんのやろか。
というか、門でも出てこんかったし、なんかあったんやろか。」
と蒼竜様の心配をしていた。私は、
「蒼竜様も自分の里ですし、いろいろと挨拶とかがあるのかもしれませんよ。」
と言ったのだが、雫様は、
「それなら、えぇんやけどな。」
と声に勢いがなかった。田中先輩が、
「まぁ、これから赤竜帝に謁見するなら、そこには来るんじゃないか?」
と楽観的だったが、横山さんから、
「ゴンちゃん、こういう時は心配になるものよ。
見知った人も少ないし、不安なのは当然じゃない。」
と言った。しかし、雫様は、
「うちは、そんなたまちゃうから、人見知りでとはちゃうけどな。
ここでは、雅弘がうちの身元保証人みたいなもんやろ?
なのに近くにおらんかったら・・・、な?」
と心中を説明した。すると田中先輩は、
「まぁ、そうか。
でも、まぁ、王都みたいに広いわけでもなし、直ぐに会えるはずだぞ。」
と言って、安心させようと気を使ったようだった。横山さんが、
「王都は、まぁ、ともかくとして、大杉の町よりは大きそうよね。
あれ、そう言えば竜種は子供が少ないはずなのに、いるところにはいるものね。」
と言った。すると引率てくれていた門番さんが、
「確かに、我々竜人は子供はあまり生まれぬ。
が、長寿ゆえ、それなりに竜口も多いのである。」
と言った。私はふと蒼竜様の食べっぷりを思い出し、
「なるほど、そうなのですね。
でもそんなに多いと、食料とかは大丈夫なのですか?」
と質問した。すると門番さんは、
「ふむ。
竜人化しておる時は少しの力で動けるゆえ、食事の量も竜の姿の時の1割以下で済むのである。
そうだな・・・。
人間に比べて、少し多めに食べれば十分ということである。」
と答えてくれた。蒼竜様は、普通の人の倍以上食べているような気がするので、少しどころではない気もしたが、黙っておくことにした。横山さんが、
「なるほど、そういう事なのね。
でも、それならもっと小さくなって、子供の大きさになってしまえばもっと節約できるわよね。」
と確認した。すると門番さんは、
「確かに、その気になれば子供の姿になることも出来る。
が、子供の姿では、他の者に舐められるであろうが。」
と返した。どうやら、威厳を保つための見栄らしい。だが、確かに竜の里に入って子供ばかりだったら、御伽噺の小人族の村にでも迷い込んだ気分になってしまいそうだ。
横山さんは、
「そういうことね。
でも、見ている限り、子供の竜人もいるようだけど。
あれはやはり、子供の竜が竜人化したからなの?」
と質問した。すると門番さんはやや遠い目をして、
「あれは、個人的な趣味でしか無いのである。
竜人化する時は、当人の理想が反映されるゆえな。」
と返した。更科さんが、
「ということは、門番さんの今の容姿も、門番さんの理想像が反映されているということですか?」
と聞いた。門番さんは、
「まぁ、そういうことになのである。」
と、少し照れくさそうだった。私はちょっと気になったので、
「そうすると、今年の流行の顔とかもあったりするのですか?」
と聞いてみた。すると門番さんは、
「流行であるか。
あえて言うなら、学校の先生に似たやつは多いのである。
ただ、これが流行かと言えば、そうではないのである。」
と答えた。更科さんは、
「学校の先生ですか。
・・・ということは、これから会う赤竜帝の顔も似た人が多かったりしますか?」
と聞いた。すると、門番さんは、
「赤竜帝は唯一無二の顔である。
・・・と言う事になっているのである。」
と、苦笑いしていた。田中先輩が訝しげな顔で、
「広重・・・、じゃなかった。
赤竜帝はそのような事は言わないはずだが。」
と指摘すると、門番さんは、
「昔からの伝統なのである。
これは、誰がなったからというわけでもないのである。」
と言って返した。もう少し詳しく聞いた所、どうやら、昔そういう事を言う赤竜帝がいたそうで、それ以来ずっと唯一無二とういう事になっているのだそうだ。
田中先輩は、
「そういう事か。
まぁ、今となっては仕来りということか。」
と納得したようだった。
そうこう話しているうちに、私達は里の奥にある大きな門に着いた。
門番さんが、
「俺はここまでなのである。
ここからは、こちらの門番についていくが良いのである。」
と言って、次の門番さんに引き継ぎを行った。
次の門番さんも筋骨隆々で巨漢であるが、さっきの門番さんとは違い、清廉な顔つきをしている。
私達は最初の門番さんにお礼を言って別れたのだが、折角いろいろと話してくれたので、名前くらい聞いておけばよかったなと後悔した。ここにどのくらい滞在することになるのかはまだ未定だが、今度会ったときには、名前を聞くのを忘れないようにしないとなと思ったのだった。
レモンさん:ようやく杉崎村か。
今日はこの村で泊まるのか?
久堅さん :ああ。
レモンさん:ここはどんな名物があるんだ?
久堅さん :知らん。
レモンさん:知らんって、この国の住人だろう。
韮崎は知っているか?
韮崎さん :いえ、申し訳ありません。
いくらこの国のことでも、一から十まで知る人はいませんよ。
ただ、前にここで泊まった時、甚平餅は美味しかったと思います。
久堅さん :それなら聞いたことがあるが、あれはどこでもあるだろう?
韮崎さん :はい。
名物とはちょっと違うかもしれませんね。
久堅さん :まぁ、団子とか、似たようなものはいくらでもあるからな。
韮崎さん :そうですね。
(というか、そんな当たり前のこと聞かないでよ。)
ニコラさん:餅ということは、米を炊いて丸めたものか?
韮崎さん :はい。
まず、細長く丸めてから棒に挿します。
次に、餅のところを平に均したら味噌を塗ります。
そして最後、火鉢で炙ったら出来上がりです。
ニコラさん:おお、なるほど。
だが、そんなに簡単に出来たら商売にならないんじゃないか?
韮崎さん :それだけだと、難しいでしょうね。
レモンさん:団子屋みたいに専門店はないということか。
韮崎さん :はい。
レモンさん:でも、それなら大したことはなさそうだな。
韮崎さん :いえ、単純だからこそ、店主の腕の見せ所なのだと思います。
私が食べたお店でも、味噌にごま油を塗って炙ってありました。
ニコラさん:ごま油というのは?
韮崎さん :ごまから作った油なのですが、この味覚ばかりは一度食べて貰ったほうが良いと思います。
ちょっと、他の味で例えるのが難しいので。
ニコラさん:なるほど。
では、ごま油があったら教えてくれ。
レモンさん:こんなところで油なんか買ったら、持ち帰りが面倒ですよ。
どうせなら、王都に戻ってから買いませんか?
久堅さん :まぁ、そうすべきだろうな。
ニコラさん:その土地にしか売っていないものでないのなら、それでいいが・・・。
久堅さん :そこは、王都で売っているから心配するな。
ニコラさん:分かった。
では、そうしよう。
※甚平餅は五平餅のことです。
名前を微妙にずらすと紛らわしいし、管理も面倒だし、良いことありませんが・・・。




