竜の里の儀式
* 2020/02/15
カトラリーの綴りが間違っていたので修正。
田中先輩が里の門に向かって普通に歩いていってしまったので、私達もそれに続いて歩いた。
竜の里の門番さんが、
「お主たちは何者ぞ!」
と低い大きな声で呼びかけてきた。田中先輩が立ち止まり、右側に順に並ぶように促した。そして、小声で、
「更科、口上な。」
と言った。なんだか手順と違うが更科さんは数歩前に出て、
「我、赤竜帝に呼ばれて参ったものなり。
開門を願う。」
と呼びかけた。すると、門番は、
「暫し待たれよ!」
と言って、一人が門の中に入っていった。
少し待たされた後、さっきの門番さんを含め8人ほど出てきた。
門番は定位置に戻り、白髪で威厳のある竜人が先頭に立った。残りの6人は白髪の竜人の後ろで横一列になって控えていた。
白髪の竜人が地に響くような声で、
「王の使者でもあるまいに、その物言いは無礼千万じゃ!
並の人間の分際で、己の分を知るが良いわ!
者共、成敗せい!」
と言って、6人の竜人をけしかけた。私は田中先輩に、
「何かおかしくないですか?」
と小声で聞いたのだが、更科さんは構わず、
「いざ」
と言って、錫杖を掲げた。しかし案の定、6人は止まらずこちらに駆けてきた。
田中先輩は一瞬眉間に皺を寄せ、
「山上、やってこい!」
と言った。私は、
「そんなの、無理ですよ・・・。」
と気弱に言ったのだが、更科さんが、
「嫌ぁ!」
と悲鳴を上げながら私の後ろに隠れたので、思わずめいいっぱい威嚇しながら睨みつけ、
「コラッ!」
と叫び、右手を横に出して、更科さんを庇う仕草をした。
空気が震える。
先頭を走っていた竜人がビクリとし、足が止まった。そして、残りの竜人も揃い、3間挟んで対峙した。竜人達は、一応私達が門に向かえないように威圧するも、さっきと違い明らかに腰が引けているようだった。
竜人の一人が、
「貴様ら、何者だ?」
と質問した。私は、
「赤竜帝から、竜の里に来るように招待状が届いていまして。
蒼竜様が、手続きをして下さっているはずです。
昨日の打ち合わせでは、昼頃着くと連絡してくださるとのことでしたが、連絡を受けていませんか?」
と確認をした。すると竜人の一人が、
「そう言えば、先生の姿を十年ぶりくらいで見かけました。
先生の苗字も知っているようですし、ひょっとすると、本当に客人ではありませんか?」
と身なりから隊長らしき竜人に確認した。が、しかし白髪の竜人が、
「何をしておるのじゃ!
とっとと、成敗せぬか!」
と雷のような声で怒鳴りつけた。目の前の竜人は6人とも戸惑っていたのだが、一人の竜人が、
「お主、赤石ではないか!
確か、隣の竜の里だったな!
よもや、真正面から入れると思ったか?
馬鹿にするのも、いい加減にしろよ!」
と切りかかってきた。だが、田中先輩が一瞬で雫様の間に入り、
「まぁまぁ。」
と言いながら、剣を持っている方の手首を掴んだかと思うと、そのまま地面に組み伏せてしまった。後ろの雫様はやる気だったみたいで、黄色い魔法を使って準備万端だったが。田中先輩は、
「もう少し、穏便にはならんか?
俺は、別に尻尾を切ってもよいのだがな。」
と言ったかと思うと、ただ一睨みしただけで、他の竜人を牽制してしまった。対峙している竜人から汗が流れる。白髪の竜人が更にいろいろとけしかけているが、田中先輩の視線が動いただけで竜人が動けずにいるようだった。
更科さんが、
「手紙を見せたら良いんじゃない?」
と聞いてきた。私は、
「確か、手紙を渡すと、そのまま持っていってしまう可能性があるから、謁見するまでは出さないほうが良いと言っていましたよ。」
と返事をしたのだが、田中先輩に組み伏せられている竜人が、
「そのようなセコい小細工などせんわ!」
と言った。更科さんが、
「えっと。
じゃぁ、和人。
田中先輩の下にいる竜人様に、和人が手に持ったままで見せたらどうかしら。」
と提案した。私は、
「それなら、大丈夫ですね。」
と言って、背負子を降ろし荷物から手紙を取り出して、田中先輩の下の竜人に文字が見えるように開いてみせた。
すると更科さんが今度は、
「和人、手紙の最後の捺印も見せて。」
と言ったので、捺印がどれかは分からなかったが、とりあえず手紙の最後の部分を見せた。
その竜人の顔色がみるみる青くなっていった。そして、組み付されていた竜人は、
「玄翁様!
この方達は、本当に招待を受けております!」
と大きな声で報告した。さっきまで怒鳴り散らしていた竜人の玄翁様は困った様子になったが、急に手紙めがけて魔法で火矢を放った。私は距離があるとは言え驚いてしまい、慌てて飛び退いて火矢を避けると手紙をポケットに仕舞った。
田中先輩がなにか思い出した仕草をしてから、
「久しいな!
玄翁。
そういうセコいところは変わらないままか?」
と、組み伏せている竜人の言い回しを真似て聞いた。すると玄翁様は何かを確認するようにじっくりと田中先輩を見て、
「・・・ぁあ!
貴様、歳を取ったがよく見れば尻尾切りの田中ではないか!
なるほど、今の時期に赤竜帝が呼ぶはずじゃ!
えぇい、こやつとやっても仕方がない。
引き上げじゃ!
あぁ、鬱陶しい。」
と言って門に引き返そうとした。田中先輩は、
「『歳を取った』は余計なお世話だ!
そっちは、数年経っても中身はそのままのようだな。
あぁ、残念だ!残念だ!」
と子供の喧嘩じゃあるまいに言い返していた。玄翁様は右側を守る門番に、
「尻尾切りらを赤竜帝のいる御所の門まで案内するのじゃ。
あぁ、忌々しい!」
と言って、門の中に消えていった。
こうして、私達は無事、竜の里に入ることが出来たのだった。
なお、私達が門の前で竜人と対峙していた頃、蒼竜様は土竜の手配などの儀式の準備に追われていたらしいが、玄翁様が許可を出して私達を中に入れてしまったので、いらぬ苦労となったのだとか・・・。
レモンさん:見渡す限り畑だな。
韮崎さん :いえ、あれらは田んぼと言います。
レモンさん:田んぼ?
久堅さん :ああ、そう言えば教えていなかったな。
この国の主食は米だが、この米は田んぼで作っている。
レモンさん:米?米とは何だ?
久堅さん :?
さっきも(握り)飯を食っただろうが。
レモンさん:飯?
昼食のことか?
久堅さん :!
いや、白い粒のやつだ。
さっきも握って丸めたのを食っただろ?
パンの代わりだと説明したやつだ。
レモンさん:あぁ、あれはいいな。
あの持ちにくい、ハシとやらで食べるのは面倒だ。
久堅さん :箸のほうが、手づかみよりも衛生的だと思うが?
ニコラさん:確かに、庶民にはcutleryも普及しておらんしな。
韮崎さん :カトラリーと言うのはどのようなものでしょうか?
ニコラさん:cutleryというのは・・・、この国にない食器だから説明が難しいな。
久堅さん :まぁ、こっちにはforkもknifeも無いからな。
レモンさん:あれは俺も未だに慣れん。
手で食えばよいだろうに。
久堅さん :いやいや、直接手で食うのは病気の元らしいぞ?
レモンさん:?
さっき、握り飯を手で食っただろうが。
久堅さん :だから、先に手を洗ったろうが。
レモンさん:なんか、言っていることに一貫性がないな。
ニコラさん:レモン。
要するに、汚れた手で食うと病気になりやすいという土着の風習だ。
韮崎さん :土着って・・・。(--;)
※レモンさんは庶民出身(紳士服屋の次男)なので、実家にカトラリーセットはありませんでした。
一応、ニコラさんに雇ってもらってからは、フォークやナイフの作法も習いましたが付け焼き刃です。
※カトラリーは食べる時に使うフォークやナイフ、スプーンのセットです。
(自分みたいな安月給のおっさんにはあまり縁のないやつです)
※ハプスニル王国に病原菌の概念はありません。
※竜和国では、竜人は病原菌の概念を持っています。
(小さいものを拡大して見る魔法等も持っているので、細菌について長年研究している竜人がいる)
しかし人間側は、竜人から
『手づかみは病気の元だから箸で食べよ』
『握り飯も手を洗わねば不衛生である』
という形で教えてもらい、庶民にもこの話が浸透しているだけで、病原菌の概念はありません。
〜〜〜
そういえば山上くんの今の格好は冒険者向けの洋服なので、大きめのポケットがついています。




