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烏の夜明け 作者:春葵
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兄貴分の存在意義

今回、登場人物が過去から現在に渡って自傷行為を行っていた描写と男性キャラが男性キャラを抱き締める描写が御座います。
前者におきましては登場人物の過去の重さを出すため、後者におきましては友情や兄弟間の信頼関係からの行動ですが、苦手な方は御注意ください。
「大将の話をしてもええかな?」

白の言った大将というのは、俺や三羽烏だけではなく、昨晩の様に『何か』と戦い続けなければいけない人々を束ねる人だ。三羽烏は大将と呼び、俺は紆余曲折(うよきょくせつ)を経て主将に落ち着いた。

「あの御方はまだ二十歳(はたち)にも満たない。精神も強いとは言えない。けれど、俺達も兄さんもあの人は強いと思ってる。あの御方は成人していないから当然迷う。なのに迷いないと俺達は信じて疑わない」

言われてみて気付いたが、確かにそうだ。俺達は決して主将の生き方と、それに付属する考え方を疑ってこなかった。単純に、本能的に信じて疑いやしなかったのだ。

cogito,(コギト)ergo(エルゴ) sum(スム)

「……え?」

白が言った言葉があまり耳馴染みがなくて、鸚鵡(おうむ)返しも出来ずにただ疑問符を投げかけた。

「彼の方の、座右の銘やねんけど。ラテン語で、直訳すると『我思う故に我あり』。哲学的な思考やねんけどね」

「我思う故に……?」

「思うに、兄さんは自分の存在意義から自分の存在自体疑い始めたんじゃないかと、俺は思うねん」

ずばり当てられて、息を呑む。

「自分は本当に存在しているのか。誰もが悩むよな。でも、今自分は存在しているのかって考えは存在してる訳やん」

「お、おう……?」

正直哲学的すぎて良く分からない。得意教科は確かに社会科だが、俺は学者でも何でもない。そんな俺を見て、白は緩く笑った。

「つまりはね、兄さんは確かにここにおるんよ。存在意義が例えなくとも」

「例え、ってあたかも今はあるみたいな言い方やな」

つい捻くれた言い方になってしまった。自分が自分を悩むあまり。気付いているのに白を(ないがし)ろにした事実に唇を噛んだ。
白は薄く笑った。

「俺達じゃ駄目?」

「……えっ?」

白が一歩下がって寒が俺の前に出てきた。袖を(まく)って左手首をさらけ出すと右手で握る。暫くして右手を話すと、無数の自傷痕が現れた。

「これな、大将に消してもらったけど、(いまし)めとして俺の霊力流し込めばいつでも見れるようになってんの。これ本当に、癖になってしまった。今もたまにやるんや、死ぬ気ないからアムカやけどさ、心が軽くなるから……でも明夜が生きてくれるなら、少しずつ回数を減らすよ」

空も自傷痕を再び消した寒の隣から身を乗り出す。

双極性(そうきょくせい)障害(しょうがい)Ⅱ型(にがた)……やんかぁ、俺?でもな、明夜がおると鬱状態に入るのがちょっと遅くなって、抜けるのがちょっと早くなってる気がすんねん。やから明夜、俺の為を思って生きて」

そして最後に白が俺を抱き締めた。俺の頭を胸に押し付ける。何だか俺の方が年下みたいやし、歴然とした身長差を見せ付けられてるようでちょっと悔しい。
余談だが、170半ばの俺に対して白は181cmある。ここまでくると身長の暴力じゃないか?と思う。

明兄(めいにい)

「何や?」

「明兄おると、俺、失声症も喀血もちょっとましになんねん」

「そうなん?」

「やからおって」

生きてではなく、居てくれ。それはストンと俺の心に落ちてきた。だが俺の心はそれを拒んだ。

『兄貴分を(かた)っておいて、よくもそう易々と弟分の言葉を受け入れるよな?お前は三羽烏を騙してるも同然だぞ。どうせ兄貴分は騙りなんだからさ』

「ありがとうな、皆。今夜もよろしくな」

そう言って俺は笑ってみせた。

じゃあ帰ろうか、と部屋を出ようと俺に背を向けた三羽の背中が目に焼き付いた。勇ましくて、かっこいい背中。俺はどうして年上なのに頼ってしまうのか。俺は心臓の辺りを抑えた。

(俺は兄貴分としては、最低やな)

そっと目を閉じた。そしてすぐに開けて鍵を握って三羽の後を追って鍵をかける。
自分のデスクに着いて鍵を握っていた手を開くと、数箇所が赤くなっていた。握る力が強すぎて、鍵の痕が着いたのだ。

俺は三羽に話すことでただ自己満足したかっただけ。これで親についても俺についても余計な詮索(せんさく)はされないだろう。俺が存在していようが、存在意義があろうが、俺は結局軽薄(けいはく)な存在である。そんなこと、もう十歳の時(十五年も前)に俺に刷り込まれた最も大きい俺の(かせ)だ。俺が無理に外そうとした所為(せい)できつく(はま)ってしまった(ごう)だ。

「ごめん、せっかく……」

誰にも聞こえない声で呟いた。せっかく、何なんだろう。

嗚呼、俺はやっぱり小さい存在だ。

その想いは夜になっても消えはしなかった。

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