エピローグ
その後、二人はまず最上家に婚約の報告を行った。以前交際を報告した時以上に狂喜した華に突進され抱き付かれた怜だが、そこはもう慣れてしまったらしい。同様に飛び付いてきた咲も纏めて、にこやかに対応した所は流石としか言いようがなかった。そして司は前回同様、何故か全員から、怜を幸せにしないと許さない、と釘を刺される羽目になった。これではどちらの家族に挨拶をしているのか分からない。
次に行われたのは、雪原家への報告を兼ねた怜の母と継父の墓参りだった。こちらの家族も大変喜んでくれ、特に九年前の罪悪感があったらしい三人は、涙を流して怜の幸せを祈ってくれた。
最後は漸く容態が安定した雅樹の見舞いを兼ねた、藤堂家と怜の父への報告だった。長生きはするものだな、と目を潤ませながらも堪えつつ、しみじみと口にした雅樹だったが、怜がバージンロードでのエスコート役を依頼すると、即座に涙腺が決壊し、絢子と共に声を上げて泣いていた。
そして現在、純白のウエディングドレスに身を包んだ怜は、白のフロックコートを完璧に着こなしている司の隣に立っている。
「おめでとう~怜さん!!凄く綺麗!!」
「ありがとうございます、咲さん!」
怜に抱き付き、満面の笑顔を向ける咲に、怜も心底嬉しそうな笑顔を見せた。
「本当に似合っているわね~!綺麗よ、怜さん!!」
「ありがとうございます、お義母さん!」
お義母さん、と怜に呼ばれた華は、顔を紅潮させて目を潤ませると、嬉しそうに怜を抱き締めた。
「おめでとう、怜さん。これからも公私共に、司を支えてやってくれ。」
「はい、お義父さん。こちらこそ、これからも公私共に、宜しくお願いします。」
怜に柔らかな笑みを向けられ、聡も破顔して怜と握手を交わす。
「怜ちゃん、司、二人共おめでとう。怜ちゃん、もし司に泣かされそうになったら、遠慮なく俺を頼ってくれて良いからね。」
「そんな事は絶対にないから安心しろ。」
軽口を叩きながら怜の手を取る明に、司はムッとして明の手を捻りながら怜を後ろに庇う。
「酷いな、司。冗談に決まっているだろ。」
「お前の冗談は冗談に聞こえない。」
飄々とした笑顔を見せる明を、司はじろりと睨み付けた。
「最上!結婚おめでとう!」
「畜生~羨ましいぞ最上この野郎!絶対雪原さんの事、幸せにしろよな!」
「ああ。来てくれてありがとうな、菊池。皆も。」
司の大学時代の友人達がわらわらと押しかけて来た。そのうちの一人、菊池に何故か八つ当たり気味にヘッドロックをかけられながらも、司は苦笑しつつ礼を言う。
「まあまあ菊池、そう不貞腐れるなって。また合コン開いてやるから。」
「本当か西条!?絶対だぞ!!」
「ああ。ってかお前、昔大谷の事タイプだって言っていなかったっけ?あいつ今フリーの筈だし、あいつが狙っていた司も結婚した事だし、今アタックすればひょっとしたら上手く行くんじゃね?」
「マジで!?行けるかな!?」
「さあ?頑張れ。」
何とも無責任な明の励ましに、菊池はがくりと肩を落とし、友人達はどっと笑った。司も笑いながら怜の方を気にしてちらりと視線を送ると、今では会長秘書となっている神崎をはじめとした会社関係の人々に囲まれていた。今日、怜の素顔を初めて知った彼らに驚かれたり冷やかされたりで、怜も照れ臭そうに微笑んでいる。
やがて友人達と入れ替わるように、司の所に来た神崎達と挨拶を交わす。その一方で怜は雪原家の人々に囲まれて祝福を受けていた。ぶっきらぼうだがきちんと怜に祝いの言葉をかけた海斗は、怜に嬉しそうに礼を言われて照れているように見える。微笑ましそうに見守っている洋輔の傍らで、政輝と一代と灯は涙ぐみながら顔を綻ばせていた。
その奥には雅樹を囲む藤堂家の人々が集まっている。雅樹は先程、花嫁のエスコート役を目を潤ませながらも無事終えた直後から、涙が止まらなくなっているようだ。雅樹の手を取る絢子も一緒になって涙ぐんでおり、あやすように二人の背中を撫でる直樹と美奈子の横で、悠樹と悠奈が苦笑している。
「皆さん、写真を撮りますので、こちらにお集まりください!」
スタッフに誘導され、一同は式場をバックに整列していく。笑いあり、涙ありと色々な表情が咲き乱れているものの、誰もが新郎新婦の門出を心から祝福していた。
撮影の準備が進む中、司は隣に立つ怜を盗み見た。今日の怜は誰よりも幸せそうに、心からの明るい笑顔を見せており、司も自然と嬉しさで表情が緩んでいく。
「怜、一緒に幸せになろうな。」
司は怜にしか聞こえない程度の小声で耳打ちした。
「はいっ。一緒に幸せになりましょう。」
今日一番の笑顔を返してくれた怜に思わずときめき、司も相好を崩す。
「撮りますよー!はい、チーズ!」
この幸せが何時までもずっと続きますように。二人は同じ事を願いながら、揃って最高の笑顔になった。
これにて完結です。
最後までお付き合いくださった皆様、本当にありがとうございました!