↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
8/8

第七話 逃げないで、前を向いて。

「凛……!」


 応答はない。

 ただそれは、動かない。動く気配すらない。


「「ドオォンッ!!」」


「グハッ……!!?」


 次の瞬間。湊は殴り飛ばされ、ビルの壁面に叩きつけられていた。

 怪物となった凛。黒い鎧のような外殻に、赤いラインが入った、人型の怪物。凛の面影のある怪物。


「凛ッ!!」


 凛が湊への攻撃を止めることはない。


「やめっ──」


「「ドォォォンッッ!!!」」


「ぅあ゛ッ……」


(クソ、クソクソクソ聞いてないっ!!凛、凛は助かるのか!?)


 湊は深呼吸をする。そして改めて凛を見る。


(……もう、手遅れか、もう、諦めるしか……ない)


「……虹彩爆翔(こうさいばくと)」


 湊の瞳の色が淡い虹色に変わる。


『……』


 相変わらず凛の返答はない。

 湊はインカムに手を当て、支部に通信する。


『特別警戒個体ゼーファに、凛を怪物にされました。民間人を避難させてください』


 湊はそう告げると、感情の乗っていない声で続ける。


『……エンカウンター。凛を駆除する』


◆◇◆◇◆


 湊は凛と激闘を繰り広げている。

 怪物となった凛は、さらに強い炎と、怪物らしい治癒能力や身体能力を持ち合わせていた。まさに、湊と互角。


「凛っ!!」


 応答はない。


「お前と戦いたくないんだ凛!!」


 凛が喋ることはない。


「白虹(はっこう)ッ!!」


 湊が凛に向けて撃ち飛ばした白虹は、凛に叩き落とされてしまった。


「それ叩き落とすのかよッ!」


 大きな音と共に、ビルが白虹により崩壊する。

 一歩も譲らず、互角な攻防を続ける両者。

 湊の虹と、凛の炎がぶつかり合う。


(凛、人だった時よりもずっと強くなってる……)


 凛は湊を殴り飛ばす。

 そして湊は受け身を取り立ち上がろうとするが、すでに凛に首で攻撃を寸止めされていた。


「焦らしてるつもりか」

『……』

「……殺(や)れよ」


 凛は寸止めしたまま。湊がその隙を見計らい抜け出すと、凛と再び攻防を再開する。

 湊は凛を殴る。だが止められてしまった。凛にカウンターをされ、湊は顔面を殴られる。そして首を掴まれ、投げ飛ばされてしまう。だが湊は、壁面に打ち付けられる前に受け身を取る。


(このままじゃ手詰まりになる……)


 湊は、遂にある決断をする。


「虹彩爆翔(こうさいばくと)・超過(オーバー)」


 湊の頭髪が虹色に変わった。

 凛はあからさまに警戒する。


「凛」


『……』


「ありがとう」


 湊は凛に感謝を告げる。そして湊の腕は、凛の腹を貫いていた。


『……!?』


 凛は抵抗しようとした。だが、すぐさま湊は凛の頭を殴り、腹から腕を引き抜く。

 凛が倒れ込む。

 湊はインカムに手を当て、告げた。


『鹿嶋凛。駆除しました』


 湊は、凛を見る。すると、凛の肉体は人間のものに戻っていた。


「凛……?」

「あ……み、なと……?」


 掠れた声で凛は湊を呼ぶ。

 すぐさま湊は膝をつき、凛を抱き寄せる。


「凛……!大丈夫だ、喋らなくていい」

「ふふっ……ごめん、ね……」


 湊は涙を流す。


「いいからっ、喋んな……まだ、救かるかもしれない」

「もう、ダメ、だから……最後に、言いたいことが……ある、の……」

「いいから、喋らないでよ……っ」

「……私、ね……ブックカバー、嬉しかった……」


 凛は吐血する。


「!大丈夫か?凛、もういいよ……」

「あと……あと一つだけ。お願い……」

「……わかった、ゆっくりで良いよ」

「私……最後……最後に、湊の、腕のっ……中で、死ねて、良かった……ほんと、ありがとう……」


 凛の目から涙が流れる。


「湊……逃げないで、前を向いて……」


 掠れた声は凛の最期の力を振り絞って出したものだった。


「凛……?凛!……凛ッ!!」


 湊の腕の中で、凛は最後を迎えた。


◆◇◆◇◆


 湊は、DB支部に帰還し、慎の部屋へ行く。


「湊くん……」

「慎さん」


 慎はとても気まずそうだ。


「湊くん。君は正しい」

「いや。正しくない」

「情を持ち込まず、凛さんを殺すことができた。そのおかげで一般人の死者はいませんでした」

「凛が死んだ」

「……はい。凛さんは死んでしまいました。それは事実です。でもね。湊くん。正しい行動だったことは事実だよ」

「……」


 慎はまっすぐに湊を見つめた。


「凛さんは、きっと救われた」


 湊は膝から崩れ落ちる。その湊の背中をさする慎。


「湊くん。一週間ほど、休んでください。今の君は、心が疲れすぎています」

「はい……」


 湊は慎の送迎のもと、寮の自分の部屋まで帰った。

 自分のベッドに座り込む湊。


「逃げないで、前を向いて……」


 湊は静かに独りごつ。


 ◇◆◇◆◇


 凛との激闘の現場は、壊滅状態。迅速な避難のおかげで凛以外の死者はいなかった。

 現場の復興は次の日から始まった。そして、凛の葬式は、さらに次の日に催された。

 凛の葬式は、湊と、慎、そして凛の親族の少数で行われた。

 そして凛の遺骨を回収し、湊は帰路に着く。


「ここ、海か」


 湊の前に広がる暗い海。どこまでも、どこまでも沈んでしまうのではないかと思うような、暗い暗い海。

 凛が今まで、何回「湊」の名を呼んだだろうか。孤独だった湊に、どれだけ沢山の思い出をくれただろうか。

 逃げないで、前を向いて。その言葉が湊にどれだけの勇気を与えただろうか。


「……っ」


◆◇◆◇◆


 湊は休養期間に入ると、寮にいる時間が減った。街を歩くことが増えた。


『速報です──』


 都内の街頭ビジョンでとあるニュースが流れる。

 それは、凛の死の報道だった。ただ、人としてではなく怪物としての凛。

 世間に人間が怪物化するなどと報道するわけには行かないため、凛は特別警戒個体の怪物として報道された。そして、それを単独で駆除した湊も報道された。


「……」


 そんな一週間は、あっという間に過ぎた。

 

 最強の原石は、磨かれて輝く。彼女の死は、その原石を磨いた。

孤独少年:最強の原石、お読みいただきありがとうございます。翔嵐です。

ストーリーがひと段落つき、ストーリーの続きの執筆、投稿までまた時間がかかると思います。

いつ頃投稿を再開するかは未定ですが、できる限り早い段階で投稿を再開したいと思っています。

もしよろしければ、評価、ブックマーク、ここまでの感想をお聞かせ願えれば幸いです。

これからも、孤独少年:最強の原石をよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。