第七話 逃げないで、前を向いて。
「凛……!」
応答はない。
ただそれは、動かない。動く気配すらない。
「「ドオォンッ!!」」
「グハッ……!!?」
次の瞬間。湊は殴り飛ばされ、ビルの壁面に叩きつけられていた。
怪物となった凛。黒い鎧のような外殻に、赤いラインが入った、人型の怪物。凛の面影のある怪物。
「凛ッ!!」
凛が湊への攻撃を止めることはない。
「やめっ──」
「「ドォォォンッッ!!!」」
「ぅあ゛ッ……」
(クソ、クソクソクソ聞いてないっ!!凛、凛は助かるのか!?)
湊は深呼吸をする。そして改めて凛を見る。
(……もう、手遅れか、もう、諦めるしか……ない)
「……虹彩爆翔」
湊の瞳の色が淡い虹色に変わる。
『……』
相変わらず凛の返答はない。
湊はインカムに手を当て、支部に通信する。
『特別警戒個体ゼーファに、凛を怪物にされました。民間人を避難させてください』
湊はそう告げると、感情の乗っていない声で続ける。
『……エンカウンター。凛を駆除する』
◆◇◆◇◆
湊は凛と激闘を繰り広げている。
怪物となった凛は、さらに強い炎と、怪物らしい治癒能力や身体能力を持ち合わせていた。まさに、湊と互角。
「凛っ!!」
応答はない。
「お前と戦いたくないんだ凛!!」
凛が喋ることはない。
「白虹ッ!!」
湊が凛に向けて撃ち飛ばした白虹は、凛に叩き落とされてしまった。
「それ叩き落とすのかよッ!」
大きな音と共に、ビルが白虹により崩壊する。
一歩も譲らず、互角な攻防を続ける両者。
湊の虹と、凛の炎がぶつかり合う。
(凛、人だった時よりもずっと強くなってる……)
凛は湊を殴り飛ばす。
そして湊は受け身を取り立ち上がろうとするが、すでに凛に首で攻撃を寸止めされていた。
「焦らしてるつもりか」
『……』
「……殺れよ」
凛は寸止めしたまま。湊がその隙を見計らい抜け出すと、凛と再び攻防を再開する。
湊は凛を殴る。だが止められてしまった。凛にカウンターをされ、湊は顔面を殴られる。そして首を掴まれ、投げ飛ばされてしまう。だが湊は、壁面に打ち付けられる前に受け身を取る。
(このままじゃ手詰まりになる……)
湊は、遂にある決断をする。
「虹彩爆翔・超過」
湊の頭髪が虹色に変わった。
凛はあからさまに警戒する。
「凛」
『……』
「ありがとう」
湊は凛に感謝を告げる。そして湊の腕は、凛の腹を貫いていた。
『……!?』
凛は抵抗しようとした。だが、すぐさま湊は凛の頭を殴り、腹から腕を引き抜く。
凛が倒れ込む。
湊はインカムに手を当て、告げた。
『鹿嶋凛。駆除しました』
湊は、凛を見る。すると、凛の肉体は人間のものに戻っていた。
「凛……?」
「あ……み、なと……?」
掠れた声で凛は湊を呼ぶ。
すぐさま湊は膝をつき、凛を抱き寄せる。
「凛……!大丈夫だ、喋らなくていい」
「ふふっ……ごめん、ね……」
湊は涙を流す。
「いいからっ、喋んな……まだ、救かるかもしれない」
「もう、ダメ、だから……最後に、言いたいことが……ある、の……」
「いいから、喋らないでよ……っ」
「……私、ね……ブックカバー、嬉しかった……」
凛は吐血する。
「!大丈夫か?凛、もういいよ……」
「あと……あと一つだけ。お願い……」
「……わかった、ゆっくりで良いよ」
「私……最後……最後に、湊の、腕のっ……中で、死ねて、良かった……ほんと、ありがとう……」
凛の目から涙が流れる。
「湊……逃げないで、前を向いて……」
掠れた声は凛の最期の力を振り絞って出したものだった。
「凛……?凛!……凛ッ!!」
湊の腕の中で、凛は最後を迎えた。
◆◇◆◇◆
湊は、DB支部に帰還し、慎の部屋へ行く。
「湊くん……」
「慎さん」
慎はとても気まずそうだ。
「湊くん。君は正しい」
「いや。正しくない」
「情を持ち込まず、凛さんを殺すことができた。そのおかげで一般人の死者はいませんでした」
「凛が死んだ」
「……はい。凛さんは死んでしまいました。それは事実です。でもね。湊くん。正しい行動だったことは事実だよ」
「……」
慎はまっすぐに湊を見つめた。
「凛さんは、きっと救われた」
湊は膝から崩れ落ちる。その湊の背中をさする慎。
「湊くん。一週間ほど、休んでください。今の君は、心が疲れすぎています」
「はい……」
湊は慎の送迎のもと、寮の自分の部屋まで帰った。
自分のベッドに座り込む湊。
「逃げないで、前を向いて……」
湊は静かに独りごつ。
◇◆◇◆◇
凛との激闘の現場は、壊滅状態。迅速な避難のおかげで凛以外の死者はいなかった。
現場の復興は次の日から始まった。そして、凛の葬式は、さらに次の日に催された。
凛の葬式は、湊と、慎、そして凛の親族の少数で行われた。
そして凛の遺骨を回収し、湊は帰路に着く。
「ここ、海か」
湊の前に広がる暗い海。どこまでも、どこまでも沈んでしまうのではないかと思うような、暗い暗い海。
凛が今まで、何回「湊」の名を呼んだだろうか。孤独だった湊に、どれだけ沢山の思い出をくれただろうか。
逃げないで、前を向いて。その言葉が湊にどれだけの勇気を与えただろうか。
「……っ」
◆◇◆◇◆
湊は休養期間に入ると、寮にいる時間が減った。街を歩くことが増えた。
『速報です──』
都内の街頭ビジョンでとあるニュースが流れる。
それは、凛の死の報道だった。ただ、人としてではなく怪物としての凛。
世間に人間が怪物化するなどと報道するわけには行かないため、凛は特別警戒個体の怪物として報道された。そして、それを単独で駆除した湊も報道された。
「……」
そんな一週間は、あっという間に過ぎた。
最強の原石は、磨かれて輝く。彼女の死は、その原石を磨いた。
孤独少年:最強の原石、お読みいただきありがとうございます。翔嵐です。
ストーリーがひと段落つき、ストーリーの続きの執筆、投稿までまた時間がかかると思います。
いつ頃投稿を再開するかは未定ですが、できる限り早い段階で投稿を再開したいと思っています。
もしよろしければ、評価、ブックマーク、ここまでの感想をお聞かせ願えれば幸いです。
これからも、孤独少年:最強の原石をよろしくお願いします。




