ep2-それは、旅立ちの④-
「さて、じゃあアタイ達の街へ帰ろうか!ペゼリア、しっかり本国への連絡頼んだよ。」
「うぅ…お風呂入りた〜い…」
エウレリアの横を通り、艦長席へと戻るコルネリス。
そして相変わらず文句を言いながら椅子でクルクル回るペゼリア。
これがこの船のいつもの光景なのだろうとカイルは感じた。
「あの!」
艦長席に腰掛け一息つくコルネリスに、真剣な眼差しでカイルが声を上げる。
「ん?なんだい?」
カイルの大声に、ブリッジ中の人が注目し、センサー類の機械音が聞こえてくる程に沈黙した。
ペゼリアすらも動きを止めて目を丸く見開いている。
「俺に機械体の扱い方を教えてもらえませんか?俺…家族をやつらに…だから!」
先程までの軽い空気が、その一言で一気に重くなったのがわかった。
だが、ここがカイルにとっての分岐点となる事は、ベクレルの街に行ったメンバーからすれば明らかだった。
逃げることはできた。
軍の保護の下で、何も知らないふりをして生きることも。
しかし、カイルはそれを選択しなかった。
昨日までの日常が、そして約束を守れなかった2人の存在が。
カイルの脳裏に焼き付いた最後の光景が、その選択肢を許さなかった。
「あー…そうかい…」
コルネリスは困ったように頭を掻いた。
それはそうだろう。これが軍というものだ。
「残念ながらアタイ個人の判断では何とも言えないね…エウレリア様、どうだい?」
コルネリスはコンソールから身を乗り出して、階下に腰掛けるエウレリアに指示を仰ぐ。
「はい、問題ありません。」
エウレリアからして背後にいるコルネリスを見上げ、軽く頷く。
それは予想だにしない一言だった。
もしかするとこの国の軍は、自らの想像しているより緩い存在なのかも知れないと、カイルは横目でペゼリラを見た。
「そんな簡単に…エウレリア1人の意見で決めていいの?」
カイルへと視線を戻したエウレリアは、再び静かに頷いた。
「貴方を救出したのは、私達の戦力となってもらうためです。当初の予定とは違いますが、今の貴方にはそれが最適解でしょう。」
感情が籠っていないと感じる程に抑揚の無い言葉。
しかしその一言はカイルにとって心に刺さる一言になった。
「えっと…ありがとう。だけど何で俺なの?」
エウレリアは予想して無かったとばかりに、ほんの僅かに瞼が上がる。
今までほとんど感情を理解出来なかったが、よくよく観察すると少しだけ表情に表れるのだと理解した瞬間だった。
「それは貴方が選ばれし者、の1人だからです。」
「1人?って事は他にも俺みたいな救出対象が?」
「詳細を話す事はできません。ですが、私もその内の1人です。」
どうしてベクレルの街が襲撃されたのか。
先程の一言でカイルにとって、核心には程遠いが、予想する事はできた。
決して当たって欲しくは無い予想が。
「その選ばれし者…って?」
その答えが全ての芯になる。
カイルはまだ幼いが、その精神にはアル父様とクレアママ、そして兄弟や街の人々との生活で培った物がある。
それはカイルの心を年齢以上に成長させていた。
1人の人として、この戦争に対する責任の取り方を考えられる程に。
その答えが、自らが個々にいる理由であると考えて。
「ん?あぁ〜……姐さ〜ん、この先に昨晩の戦場があるみたい〜…。」
しかしその重苦しい空気は、ペゼリアの緩い一言で断ち切られた。
何もせずただくつろいでいるだけに見えたペゼリアが、どうしてここに配属されているのか分かった気がした。
「ロンド共和国の陽動部隊とベクレルの防衛隊のかい。」
「どういう事ですか?」
そう言えばそうだ。
思い返せば一昨日2人の友達と遊んだ際に、普段と比べ物にならない数の機械体がいたはずた。
昨日の襲撃を想定しての出来事であれば、街に侵入される前に対応する事は容易かったはずだ。
「一昨日にベクレルにはディダの一個中隊を追加で配備しましたが…指揮官は余程頭が悪かったのでしょう…簡単に陽動に引っ掛かったみたいです」
「そう、それで急遽私達がベクレルに赴いたってわけっすよ」
エウレリアの一言に、こうも言葉に感情を乗せずとも人を馬鹿にする事ができるのかと感心してしまったカイル。
そしてようやく自分がこの場所にいる理由に合点がいった。
「どうします〜?まだ残存部隊がいるかもしれませんけど〜。」
「そうだね、念の為偵察を出すかね。第2小隊に出撃を要請しな。」
「は〜い。」
決して軽いやり取りで成立する会話では無いはずだが、ペゼリアが会話に混ざっているだけで空気は重く感じない。
これも天性の才能というやつなのかも知れないと感じた。思わず表情を綻ばせるカイルの側で、エウレリアは少し考え込んでいた。
「…この艦には予備の機械体はありますね?」
エウレリアの一言に、ブリッジは再び沈黙が起きた。
彼女の存在の重さがこの艦の行方自体を左右する事ができるのだと、この瞬間理解した。
「ありますけど…エウレリア様には必要ないのでは?」
そう言えば、昨日自分を助けたのはエウレリアだったはずだ。
そして幻だったのか、白と緑の巨大な機械人形の姿を目にした気がする。
それの姿をあれから1度も目にしていなかった。
「カイル、エンヴィスは素人でも扱えるように出来ています。シンディナとフレンツェラを護衛につけますので、実戦の前に戦場の空気を味わって下さい」
「え?」
「え?」
「え?」
その一言が艦長の言葉をこえ、艦の方針を、そしてカイルの運命を決定付けるのだが、それだけ言うとエウレリアは、何事も無かったように瞼を閉じた。
カイルは、思わず飲み込んだ唾の音が、このブリッジ中に響いたと、そう感じたのだった…




