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TeX.Hacker  作者: 融暖
第1章
7/10

ep2-それは、旅立ちの②-

「お待たせしました。」


慣れない環境に少し戸惑うカイルを、まぁまぁ座って座って、とペゼリアが空いてる席に誘導する。


他に席の空きが無い事から、もともとエウレリアが来ないことは想定されていたのだろう。


用意されていた朝食は、根野菜たっぷりのスープと、葉野菜と肉を挟んだコッペパンのサンドイッチ。


孤児院で自分達が食べていたのと大差ない食事に、この場で用意できると思えず目を丸くした。



「ごめんね〜、あの子不思議でしょ?悪い子じゃ無いとは思うんだけどね〜。」

「あれでも私達の上司っすからね。」

「直属ではないから、私達もあまり詳しくは知らないのだけれど。」


3人は様々なソースをかけて朝食を頬張る。


皆食事には独特のこだわりがあるのだろうか。


その内2人は共に、焦げ茶色の匂いだけで辛さが伝わるソースを使っている。


これは美味しそうだと思い、カイルもそのソースを借りた。


だがウェーブ髪の女性はその上に、これでもかと真っ赤なスパイスを振りかけている。


それは少し離れた席にいるカイルですら、涙が自然と出る程の辛さのようだ。


どうぞと無言で差し出す女性に、カイルは両手を振って拒絶する。


残念がる女性の横で、ツインテールの女性は2人と似た色の、しかし甘い香りのソースを鼻歌を歌いながらかけている。


「それは…?」

「ん〜?チョコレートソースだよ〜?かける〜?」


カイルはこれには顔を引き攣らせて笑うしか無かった。


辛味のソースをかける前だったとしても、カイルにとってそれは、無謀な挑戦だと考えざるを得なかった。


その女性は美味しいのになと一口頬張り、お〜いし〜と溢れんばかりの笑顔で頬に手を当てた。


それを味音痴なのか異常に甘い物好きなのかと苦笑いしつつ、カイルもサンドイッチを一口頬張る。


意外な美味しさに食事の手が止まらなくなった。その時自分が空腹であったのだと、昨晩も食べ損ねていた事実に気が付いた。


食器の音を盛大に鳴らしながら無心で食べるカイルを見て、3人は顔を見合わせて微笑んだ。



「あ、自己紹介がまだだったっすね。」


ポニーテールの女性の一言で、カイルは自分が無心で食べていた事、3人が優しい笑みを向けて見守っていた事に気付き、耳を真っ赤に染める。


「私はシンディナ。べクラール国第二独立艦隊附属機械体小隊所属っす!」


カイルの横に腰掛けるポニーテールの女性は立ち上がって一歩引き、笑顔で元気よく敬礼してみせた。


今まで気が付かなかったが、カイルより遥かに高身長で、全体的にスタイルがよく、タンクトップ姿の為それがハッキリとわかった。


だがカイルの注目はそこでは無かった。


「え?べクラール国…第二?」


カイルの聞き及ぶところ、べクラール公国は王都が崩壊した事によって統率を失い、軍部も機能を失っているとの事だった。


それは間違いのだろうか。


所属はよくわからなかったが、第二という事は他にもいくつかの部隊は残っているという事だろう。



「あぁ、言ってもわからないっすよね。今は気にしないでいいっすよ。とにかく、以後よろしくっす」


説明を間違えたか、と少し動揺したシンディナだが笑顔で向き直り、次どうぞと対面に腰掛ける女性を両手で指し示す。


シンディナの向かいに座っていたウェーブ髪の女性が静かに立ち上がる。


「ボクはフレンツェラ。趣味は料理。よろしく。」


少し重そうな瞼の中にある淡い水色の瞳が印象に残る、寡黙な彼女の立ち上がった姿は、3人の中だと華奢な印象を受ける。


それよりも…


「料理…ですか?」

「ボクが料理するの…おかしい?」


悲しそうに首を傾げるフレンツェラに、カイルがそんな事無いとなだめる。


ただ、あれほど辛いものを平然と口にしていた姿を思い出し、どこか周りとは感覚が違うのかもしれない、とカイルは思った。


「時間があったら料理、作ってあげる。」


それだけ言うと静かに席に着き、横でどこからか取り出したチョコレートを、幸せそうに食べているペゼリアをジッと見つめる。


それに気づいたペゼリアは、ちょっと待って、と手で制止してチョコレートを噛んで飲み込んだ。


「最後はウチだね〜、ウチはペゼリア。好きなことは、ネイルと自撮りだよ〜。よっろしくね~。」


立ち上がると桃色の大きな瞳を瞑り、全開の笑顔でギャルピースをカイルに向ける。


2人と比べると小柄だが、少しふくよかな体形は本人が健康そのものである事を物語っていた。


ふっくらとした、発色の良いピンク色の唇の端についた溶けたチョコレートに気づき、ペゼリアはぺろりと舐め取って、少し恥ずかしそうに俯いた。


横でお腹を抱えて笑うシンディナを冷たい目で見て、フレンツェラはふぅ…と息を漏らした。



「あと、一応紹介しとく。彼女はエウレリア様。この軍ではナンバー2だと考えていい。」


1人離れて、遠くで未だ黒煙の上がる街を見つめている、エウレリアを見てフレンツェラが何とか聞こえる声で呟いた。


風で揺らめく、明るい髪と紺のドレス姿は、後ろ姿でしか無かったが、やっぱり絵になるとカイルは息を呑んだ。


そんなカイルの視界の端で、今なお笑い転げているシンディナの後頭部を、フレンツェラは軽く掌で叩いた。


「いてて…、あー、彼女は普段単独行動ばっかりっすから、実はよく知らないんすよねー。」


そうそう、と俯いていたペゼリアも頷いて同意する。


遠い存在とカイルは感じていたが、それは彼女たちにとっても同様なのだろうと、カイルは理解した。



「今回は彼女の指示でベクレルの救援に向かったけど〜、ウチらは到着遅くなっちゃったんだよね〜。」

「ボク達がもう少し早く到着できていたら、街の被害も軽微だったと思う…ごめんなさい。」


3人がカイルに向かって頭を下げる。カイルにとってそれは不本意な事だった。


直接彼女達の戦闘を見たわけでは無かったが、今ここに自分が無事でいる事が全ての事実なのだろう。


「3人が謝る事じゃない!あいつらが襲撃しなければ…みんなは…」

「そろそろ出発します。準備をして下さい。」


暗い空気になりそうなところで、タイミングを見計らったように、エウレリアはゆっくりと歩いて来る。


ヤバいと思い皆は急いで食事を再開する。こんな明るいメンバーだが、軍隊である以上、上司の指示は絶対なのだろうと再確認したカイルだった。



その後慣れた手付きで片付けを始める3人。


カイルも手伝おうとしたのだが、ゆっくりしてて、と3人に余計な気を使わせてしまったと、反省するしかなかった。


10分もしない内に食事、テーブル、はたまたテントまでも片付け、唯一側に停まっていた大きな軍用車の荷台に収容する。


その時にはエウレリアは1人、車の後部座席で目を瞑っているのだった。


「え?2人はどこへ?」


運転席に乗り込むペゼリアに付いてきたカイルは、残りの2人が鬱蒼と生い茂る山林に駆けて行くのを見た。


「ん?あぁ、2人は機械体で来てるから、車の運転はウチに任せて〜!」


ホラホラと助手席にジェスチャーで案内するペゼリアは、たどたどしく車のエンジンを始動する。


黒煙を上げて走り出す車の後方で、10メートル程に見える2体の機械体が、モーター音を唸らせて立ち上がる。


挿絵(By みてみん)


その白銀色の機械体は、今までカイルが見た事の無いモデル。

ただ他国の機械体には見えなかった。


「あの機械体、旧べクラール公国軍のディダに似てる?」


カイルの浅い機械体の知識の中で、最も近い機械体は、昨日も見た旧べクラール公国が開発した機械体のディダ。


現在でも優れた汎用性の為、生き残りの機体が各街の防衛を担っている程である。



「そりゃそうだよ〜。あれはべクラール国軍の新型機械体、エンヴィスだよ〜!」


荒いハンドル捌きで酷く揺れる車は以外にも速度は十分であったが、遥か後方で起動したはずのエンヴィスは、ディダとは比べ物にならない程機敏な動きで車の左右に陣取る。


おそらく残党等から車を守る為なのだろうが、そこでこの2台の仕様が違う事に気が付く。


「少し形が違いますけど、これは同型機なんですか?」

「ん〜?あぁ、これはエンヴィス独自の換装システムの為だよ。フレンちゃんが通信と各部間接の強化をしたC型。本来は指揮官機として開発された仕様なんだけどね〜。で、シンディちゃんがそのC型を軽量化した高機動仕様であるA型。専用の識別色を肩に塗れるほど2人とも凄く強いんだから〜。」


2人の事を話したはずなのに、何故か自分が一番得意気のペゼリア。


フレンツェラのC型は左肩を黄色に、シンディナのA型は対象に右肩を橙に塗装していた。


カイルはこれだ、と運命的な物を感じた。


これが、この力を手に入れれば、これ以上大切な物を、周りの親切な人達を失わずに済む。


そう考えざるを得なかった。


「さぁ、ウチらの家に向かって出発するよ〜!とばすぞ〜!」


しかしその考えは、ペゼリアの荒ぶる運転のせいで、すぐにカイルの頭から抜けてしまうのだった。





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