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5. 時々、相談




うららは悔いていた。数分前の、己の安請け合いを。

目の前には、真剣な顔のファス。膝には、これまた真剣なパク。周りには、くつろいだ態勢であるが、耳を此方に向けているしらゆきたち。


 「どうぞ」


山盛りのクッキーを勧められる。パクの前にも置かれ、まんまるの目が輝く。

しらゆきたちにも抜かりなく用意されており、お茶のおかわりもテーブルにある。


 「わ、おいしそう!いただきます!」


…話が長くなると思われている、だと……?!

表面上はいつも通りに見えるよう装っているが、内なるうららは驚愕の余り白目を剝いている。とりあえず落ち着く為に、さくさくさくと三枚食べ、お茶を一口。


 「……で、えーと、デートに誘われたんだっけ。カイに」


 「は、はい。その、……今までそういう人が居なかったので、」


知ってる。と、うららは頷く。

ファスははっきりとは言わないが、幼い頃に虐待を受けていた節がある。瀕死の重傷だった子供を、躊躇いなく魔物が居る森に捨てた大人達だ。人間以下、虫以下な存在に囲まれていたファスは、恐怖を植え付けられてしまった。人を好きになる方が難しい。

が、そんなファスから信頼を勝ち取り、恋人という座を手に入れた者が居る。言わずもがな残念美形、もとい、カイである。


 「何をしたらいいのか分からなくて…。なので、教えて欲しいんです」


ワタシモワカラナイヨ。

表面上は考えるふりをしながら、冷や汗だらだらな内心。

確かに過去、ちょいちょい助言みたいな事を口にしたが、それは超絶鈍感なファスに少しでも気付いて欲しかったからだ。うらら自身は誰かと付き合った経験は無い。美形二人とパーティ組んで旅もしているが、それは違うだろう。様々なパーティを渡り歩いた過去もあるが、これも違うだろう。


 「私よりトオヤが……今居ないか…」


丸投げしかけたが、何かと冷静に意見してくれるトオヤは、助っ人で出ている。

パクが幸せそうにクッキーをかじっている。いつもこうして、おいしいものと癒しを提供してくれるのだ、力になりたいという思いに嘘はない。しかし、圧倒的知識不足。

こうなるならもっと恋バナとか聞いておくんだった。内なるうららは申し訳なさで泣く。


 「いや、諦めるのはまだ早い!!」


 「っ?!」


 「ファスさん、ファスさんはどんな感じなのがデートだと思う?!」


分からずとも考えるのだ。意見を出し合っている内に、なんとかふわっとしたイメージは掴めるのではなかろうか?!

……そんなうららの必死な様子に、ファスは察した。

安易に教えを乞うのではなく、己で考えて行動しろと言われているのだ、と。

いつだったか、トオヤが教えてくれたではないか。冒険者は基本、自分でなんとかするものだと。一から十まで教えてくれる人間は皆無、実戦で学ぶのだと。


 「…あ、甘えてました……ごめんなさい…」


 「甘える?!いいんじゃないかな!?」


 「え、でも、」


 「ううん、甘えてなんぼだと思う私は!あ、ちょっと待って。食べる食べる、パクちゃん、それ私の」


手が付けられていないので、いらないのかと判断したパクが、うららのお皿から自分へ移していた。むぅっとした顔もかわいいが、これは譲れない。お皿を自分の方へ寄せて、しっかり確保。

ファスが傍らに用意していたカゴからおかわりを取り出すと、パクの機嫌は直り、しらゆきたちもおかわりを求めて集まった。そんな優しい世界を眺めながら、うららは考える。

デート。自分がデートするなら、何をするか、何がしたいかだ。

顔の見えない相手を隣に置き、場所は王都にしておく。この日は完全にお休みで、一日彼と過ごすのだ。張り切っておしゃれなんかしちゃったりして。

楽しみ過ぎて、約束より早い時間に着いてしまって、でも待つ時間すら楽しくて。彼の姿が見えたら、飛び切りの笑顔で迎えて……。


 「最初はやっぱり、散歩しながらのお店巡りかな…。王都は広いし、まだ行けてない場所もあるし…」


ファスはメモを取り始める。


 「いや、見晴らしのいい場所で王都を一望なんてのいいかも。あえて行く場所は決めず、そこで気になったトコに向かうのも楽しそう。あ、でも間違っても治安の悪いエリアには行かないようにしなきゃ……絡まれたら、台無しになるもんね」


ファスはコクコクコクと頷きながら、二重線を引いた。


 「デートなら、やっぱりおいしいもの食べたいよね。相手の好みも大事だけど。それを考えるならどのお店がいいかな…。量がたっぷり、お値段も優しい食堂?それともちょっと背伸びして、普段行かないおしゃれなレストランもいいかも、あ、そういえば大通りにあるレストランって割と優しい値段なんだよね。正装じゃなくても入れるとこで、いつ見ても人がいっぱいで二時間待ちは当たり前。ん-…でも並ぶのかぁ」


パクたちがお茶のおかわりを求めてきたので、順番に入れていく。


 「……並ぶのはやっぱ無し!二時間も縛られるのは勿体無い。ここは……そうだ!路地入って右手に、可愛いカフェがあった!あそこのケーキセットおいしいんだよね……!確か軽食もあったし、余り待たずに入れるし!うん、そこでお昼にして、それからお店巡りだ!」


大通り並ぶ、路地右手並ばない、と書き取るファス。


 「でも最近散策できてないし、冬も近いからほとんど閉まってるかも。だったら、市場?うん、市場がいいかも。聖誕祭も近いから可愛い飾りとか売ってるし、保存食も結構あるんだよね。そして何と言っても、屋台!年内最後の屋台にはあったか料理が並ぶんだよぉ…!」


うららは想像で、屋台をはしごしている。ファスはメモを読み返した。

お店巡り、散策、ごはんはレストランかカフェ、お店巡り、市場で屋台……。


 「?」


あれ、とファスは首を傾げる。

これは、普段カイとやっている事だ。恋人になる前から、買い物に付き合ってくれたり、王都を案内してくれたりと、色々お世話になっている。デートというのは特別なものと思っていたが、違うのだろうか。


 「それでね、屋台だとメニューが被っちゃう時があるから、値下げしてくれる所もあってー……」


うららはデートそっちのけで、屋台料理に夢中になっている。顔の見えない恋人は、彼女の食欲に翻弄されている事だろう。

ファスは最後に、屋台の料理がおいしい、と書いて終えた。実際に見て、食べて、作り方を教えてくれたなら、パクたちにも作ってあげたい。そう決めると、ワクワクしてきた。


 「うらら、ありがとうございます。御蔭でやりたい事決まりました」


 「え?そ、そうなんだ?力になれてよかった!」


 「はい。あ、りんごのパイ作ったんですけど、食べますか?」


 「ください!!」


パクたちも、にゃあにゃあ声を上げる。昼下がりのお茶会は、それは賑やかであったそうな。






……後日。デート当日。


 「ん?市場?」


 「はい、今しか見れない、華やかな飾りがたくさんあると聞いたんです。それに、屋台の料理がおいしいと」


 「あー、聖誕祭の…」


 「是非、行きたいです」


 「喜んで。人多いから、手は離すなよ」


恋人となっての初デート。王都散策は程々に、アパートにてイチャつこうとしていたカイの目論見は、ファスの満面笑顔の提案で消え去った。

しかし、こうして自分から言うのは珍しい。その希望、裏切れる訳もない。カイは、存分に楽しんでもらおうと切り替え、ファスの手を握った。







 「……という事があってね、大丈夫かなって」


見守り組は、ファスの憂いを少しでも無くすべく、巣にて留守番をしている。二人が居るなら、帰りが遅くなっても安心できるだろう。

トオヤは悩み顔のうららを見遣り、図鑑をめくった。


 「なんで言わなかったんだ」


 「何を?」


 「カイに任せておけと。あいつの事だ、ファスを喜ばせる為に何通りもの策を備えているだろう」


 「……、」


 「それが絶対の正解とは言わんが、少しの参考にはなる。とりあえず、ファスが行動するのは回数を重ねてからでいい。俺はそう思うぞ」


 「…お、おう……、」


トオヤが居れば、一言で終わる話であった。

頑張って考えたが、どうやら遠回りをしていたらしい。うららはテーブルに突っ伏した。慣れない事はするもんじゃない。

パクたちはそんなうららを、ポンポン肉球で叩いて慰めていた。






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