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オマケの魔猫と人の子   作者: 原田 和


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12/12

12. 時々、魔除け花





 「もものはな、」


 「ええ、そうなんです。さくらより濃い、ピンク色の花を咲かせるんですよ。紅や白の色違いもあって……そうそう、花言葉知ってますか?」


うららは、まだ固い蕾をちょんと触り、店員に向き直った。

此処、王都にある花屋は中々大きな構えをしている。店主が無類の花好きとあり、変わった花が咲いていたと聞けば、魔物が居ても何のそのと突撃してしまう。それで何度か命の危機に晒され、行きずりの冒険者に助けられたりしているとか。その中にはカイも入っていたりする。

家族に怒られ、従業員には泣かれる日々が続き…。その情熱が実を結んだか、気付けば貴族御用達にまで上り詰めていたという異例の花屋である。

とはいえ、無類の花好きであるのは変わらない。彼等は今日も気さくに愛想良く、季節の花々を人々に勧めていた。


 「花言葉って、あるのは知ってるけど、詳しくはないなぁ」


 「種類が多くて迷ってしまうという方は、花言葉で決める時もありますよ」


へぇぇ、とうららはもう一度ももの花を見る。


 「この子は、どんな言葉があるの?」


 「愛らしい、気立ての良さ、私はあなたのとりこ、ですね。あとは……」


 「それから考えると、可愛い花が咲くんだろうなぁ」


 「天下無敵、がありますね」


 「突然の頼もしい言葉が!え、どうして?」


 「魔除けの効果があると云われているんです」


それを聞き、うららはまじまじと、まだ蕾ばかりのももの枝を見つめる。特に浄化されている感じはない。けれど、パクたちの手土産にと考えていたので悩んでしまう。可愛くモフモフで癒しそのものだが、パクたちは魔物なのだ。

贈ったものが癒したちの害になってしまったら、申し訳ない所ではない。天下無敵なんて、咲いたらとんでもない浄化を発揮するのではなかろうか。


 「…あれ、でも待って?」


妖精の羽の一件を思い出す。あの花も、浄化の力を持っていた筈だ。だから、魔物も近付いては来なかった。パクたちはその中でも平気そうに、楽しそうにしていた。

ならば、この花でも平気なのでは。


 「……えっと、これ一枝と。他のおススメありますか?」


しかし、万が一に備え。うららは一枝だけにしたのだった。






んにゃあぁぁぁ……!と、ソラがキラキラの目で花束を見つめ、全員で御礼のすりすり。

これだから、手土産を持っていくのがやめられない。うららは幸せに浸りながら、どういたしましてと緩んだ笑顔を向ける。


 「ありがとうございます、うらら。お茶、入りましたよ」


 「ありがとう!それで、大丈夫かな?花畑の時は、平気そうにしてたけど…」


ファスはパクたちと一緒に、ももの枝をじぃっと観察。ソラが持ってきた図鑑を見た。そして、頷き合う。


 「大丈夫みたいです。ももの花も、浄化能力を持っているようですが、これなら平気だと」


 「よかったー…!可愛い花が咲くんだって、楽しみにしててね」


強い魔の気配を持っていないパクたちには、何の事はないらしい。こうして側に居て、香りを楽しんでいても弱る様子はない。ソラはもう一度御礼を言い、うららの腕にぎゅうと抱き着いた。


 「はうあっっ」


 「今日はケーキを焼いてみたんです、どうぞ」


 「んにゃっ!」


 「みんなのもあるよ、準備するね」


時間を掛けて、勝ち取った信頼。うららはモフモフと肉球のぷにぷにの感触を嚙み締める。けれど、ケーキの存在も忘れない。

今日は珍しく、うらら一人である。男二人はそれぞれで出ており、戻ってくるのは明日だと聞いている。

家族におやつを配るファスに、寂しそうな様子はない。なんやかんやで毎日のように通っているようなので、偶には離れてもいいだろう。此方が気を使っていると、癒しが半減してしまうのだ。


 「これも、どうぞ」


 「えっ!いいの?!」


今日のおやつはパウンドケーキ。ジャムがマーブル状に練り込まれ、独特な模様を描いている。しっとり生地に甘酸っぱいジャムがぴったり合い、思わず満面笑顔。


 「うららはいつも嬉しそうに食べてくれますから、俺も嬉しくてつい、たくさん作っちゃうんです」


 「だっておいしいんだもん。こうしてあまいの食べられるのって、本当に幸せ!」


ファスたちと知り合う以前は、甘味を我慢する事が多かった。少しでも手助けをしたくて、その分は孤児院に回していた。

でも偶に、僅かでも余裕があるとそれを握りしめ、甘ければなんでもいいと、買って食べて。

確かにおいしかったけれど、幸せとも思ったけれど。それはすぐに消えて、残るのは罪悪感。子供達は我慢しているのにと、自分を責めていた。

うららはケーキに目を落とす。テーブルには、ファスとパクたち。にゃあにゃあと賑やかに、嬉しそうに食べている。

此処で食べるおやつは、違う。最後の一口までおいしくて、ずっと幸せな気持ちで満たされる。

何が違うのだろう。そう、ずっと考えていた。

あの時は、一人だったのだ。いつも。

こうして誰かと、テーブルを囲んで、おいしいねと笑い合って。


 「…、え、あれ?ファスさん、ケーキ増えてる、よ?」


 「頑張り屋のうららに、パクたちから贈り物です」


 「にゃあ、にゃ!」


器用に切り分けられた、小さなケーキがうららのお皿に盛られ。これもどうぞ、とファスからは包まれたケーキを渡される。今食べているのとは違う味だという。


 「ももの花は、女の子の成長を願ってのお祭りに飾られる花でもあるんだそうです。少し違いますけど、いつも明るくて優しいうららに御礼をしたくて。いつも、ありがとうございます」


にゃー!と、パクたちも御礼を言っているのか、ゴロゴロ喉を鳴らす。


 「……っ!」


うららの涙腺は崩壊した。ぶしゃあ、と音が聞こえたかと思う程の崩壊ぶりに、ファスとパクたちは慌ててタオルを山と抱えて走り回るのだった。









 「……んにゃ!」


ソラはももの花が咲いているのに気付いた。喜々と駆け寄り、ゴロゴロと愛でる。そして、側にふよふよと浮いているものに気付く。ももの精だ。

濃い桃色の髪の勝ち気そうな目をしている、ももの精。ソラより小さなその精は、ピシッと天を指さした。


 『てんか……むてき!』


 「んにゃ?」


首を傾げるソラに、ももの精はもう一度、ピシッと天を指す。


 『てんか、むてき!』


 「んにゃにゃあー」


とりあえずソラは、余っていたケーキを献上した。








ひな祭り。遅れましたね…。

子供だけでなく、日々頑張っている女性達にも、こんな贈り物があってもいいじゃない。

楽しんでいただけたら、幸いです


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