1. 時々、お月見 芋名月
今年のお月見は十月六日だそうです。
「今日は晴れるかな」
「にゃあ、にゃー」
王都裏山。
強力な結界で守られたそこは、鬱蒼としながらも魔物は余り出ない。出たとしても、初級冒険者でも対応できる。外といっても、割と穏やかに過ごせる場所だ。そんな裏山に、木々の間に隠れるようにひっそりと建つ古びた小屋がある。戸を開けて出てきたは、六匹の魔猫とファスだ。此処が、みんなの大事な家……もとい、巣である。
全員で空を見上げ、雲の流れを見る。喉を鳴らすパクの予報は、晴れのようだ。みんなの予報は外れた事がない。ファスは良かったと微笑む。
今日は約束していたお月見の日。楽しんでもらう為にも、おいしいものを作るつもりだ。
「レオたちに会うのも久しぶりだね。喜んでくれるように、たくさん作るからね」
「んにゃ!にゃあにゃにゃ?」
「うん、おやつも作るよ。ケーキかな、それともクッキーの方が…うーん……」
尻尾をピンと立てる、ダイチとオネムとソラはパトロール。しらゆきとはやては、巣の点検。ファスとパクで、倉庫を探る。今年の秋も、有難い事に豊作だ。御方サマが豊穣の土地へ連れて行ってくれたので、食料もたくさんある。
「にゃ!」
パクが目を輝かせて抱えているのは、おいもだ。みんなの好物で、それはレオたちも一緒。ファスは頷くと、カゴに入れていく。
「…そうだ、今日の月は、芋名月ともいうんだよね?おいもを使って色々作ろうか」
「にゃあ!にゃにゃ、にゃー!」
「うん、揚げいもも」
パクは尻尾をピンと立て、おいもを嬉しそうに抱える。カゴいっぱいに入れて、巣へ戻るとテーブルに広げ、メニューを考える。パクたちもレオたちも、好き嫌いなく何でも食べてくれるが、やっぱり久しぶりに集まるのだから、好きなものを出したい。悩むファスに、点検を終え戻ってきたしらゆきとはやてが首を傾げる。
「にぃ?」
「おいもの料理なんだけど……お月見らしい料理ってどんなだろう」
「なー……、なぅ!にゃにゃ!」
まんまる!とははやてだ。お月見をしながら、まんまるなごはんが食べれたら面白い、と。パクとしらゆきは顔を見合わせ、まんまるごはんってあるの?とファスを見上げる。
「丸く切ったら、作れるかも。あ、でも……」
目に留まったは、小さなじゃがいも。売り物にならないからと、おまけでくれたモノだ。
「これに味付け衣をつけて、揚げてみよう。小さいからこのままでもできると思う。それと、こっちは茹でる……ううん、焼いてほぐして、お豆と和えてみようかな。夜は冷えるから、スープもいるよね」
パクたちの目が輝く。あったかいまんまるスープといえば、山の芋のおしるだ。
それでよくよく分かったファスは、笑顔で頷く。
「あともう一つ……丸い、目玉焼き作れるかなぁ」
「なぅ?」
「うん、黄身も丸いから、お月様みたいでしょ。でも、ゆで卵の方が失敗しないかな」
「な!にゃおう!」
任せて、とはやてが手伝いを申し出る。肉球が光り、小さな風の輪っかを作り上げた。それをフライパンの上に。割ってみて、と手招きするので、ファスは急いで卵を割り入れる。すると、風の壁で白身は広がらず、黄身と同じく丸い形を保っている。じゅうぅ、と焼けるいい匂い。
ささっと火を入れ油を準備していた、パクとしらゆきの素早さよ。思わず拍手を送るファスに、揃ってででんと胸を張る。
「ありがとうはやて、すごいよ!きれいに焼けそう!」
できた目玉焼きは、ハーブソースをかけて三等分に。味見だ。
にゃあにゃあと食べるパクたちに笑顔を向け、ファスはごはん作りに取り掛かった。
レオたちは、わくわくしていた。
今日は約束していた満月の日。夕方にお邪魔するので、勉強を早めに切り上げて巣の掃除をしている。
自分たちの巣は、自分たちで。レオたちも中々のキレイ好きだ。
専用の小さな箒やハタキを手に、隅々まで清めていく。纏めておいた本や道具、お気に入りのモノは、決まった場所に片付けて。そして最後にそれぞれの寝床を掃除して、完了だ。ささっとゴミやホコリをちりとりで集め、ゴミ箱へ。
「にゃいぃぃ……!」
全員、満足気にゴロゴロ。空を見上げ、天気も大丈夫と確認し、……時間が余ってしまった。
「……にゃ、…にゃあ」
「に?みっ、みみっ」
きっと、おいしいごはんを用意してくれている。それは楽しみなレオたちだが、何か持って行った方がいいかな、とトバリ。クリームは首を傾げた。
「な、にゃおう、にゃー」
「みにゃ?みにゃあにゃ、にー…」
いつも、差し入れもしてくれる。確かに、と頷くかきとくり。何かお返しがしたい。でも、何がいいだろうと五匹は悩む。
「にゃい、にゃいにゃい」
お月見に誘われた時、何をするのか分からず、みんなで調べた事がある。何か書いてないかと、レオは本の間に挟んでおいた資料を引っ張り出した。
歴史と伝統の本は持ち出しができないので、図書室で頼んだら写してくれたのだ。レオたちは隅々まで目を通し始めた。
余談だが、レオたちのお願いは今回が初。喜びの余り荒ぶり、やる気に満ちまくった司書達は総出で一冊、丸々正確に写し取り笑顔で渡した。頼んでから一時間も経っていなかった。司書達の猫愛は本物である。
そんな愛が詰まった資料をみんなでめくっていると、かきが見付けた。
「な!にゃおにゃお」
秋の七草だ。レオたちの目が輝く。萩、桔梗、葛、藤袴、女郎花、尾花、撫子。文字しかないが、いくつかは此処の庭で見た事がある。
「みにゃ、にゃー」
全部あるかな、と不安気なくり。大丈夫だよ、とレオが頷く。
「にゃいにゃ、にゃいぃ」
「ににっ、みみぃ」
全部なくても、庭にある草花を代わりに七つ揃えよう。キレイなものを選ぶんだ。レオたちは頷き合う。パクたちも、ファスも喜んでくれるだろう。約束の時間が迫っている。レオたちは手分けして、庭へと飛び出していった。




