2.
「どこへ行ったのかと思っていれば……。準備はできたんだね?」
「にゃいい!」
一生懸命探していたら、時間に遅れてしまったレオたち。慌てて見付けた秋の七草を抱えて戻れば、シドが入口で待っていた。全員が持っている草花を見て、すぐに察したらしい。汚れてしまった毛皮を魔法で綺麗にしてくれた。
「僕が持とうか?……そう、自分たちで渡したいんだね」
レオたちは揃って頷く。シドは仕方ないなと笑うと、転移を発動させた。
日が落ちるのがすっかり早くなった。吹く風も冷たく、思わず身震い。
冷えてはいけないと、柔らかい敷物の上に毛布を何枚か用意。月が出るまで時間があるので、中で食べようかと悩んだが、パクたちの希望で外となった。みんなで準備を進めていると、近付いてくる気配にはやてとダイチが振り向く。
「ぶにゃ」
「こんばんは。今日はお誘いありがとう」
「なう!」
「シドさん、レオたちもこんばんは。来てくれてありがとうございます」
総勢十一匹となった魔猫たち。仲良くもふもふスリスリと挨拶を交わし合い、レオたちは秋の七草を贈る。にゃあにゃあと御礼を告げ、再びスリスリもふもふ。仲良しだ。
「ありがとうございます。もしかして、集めてくれたんですか?」
「レオたちがね。庭で探して、ギリギリまで頑張っていたよ。全部は揃えられなかったようだけど」
「それでも充分です……!ありがとう、早速飾るね。此処へどうぞ、お茶を持ってきます」
「にゃい!」
にっこりと微笑んで、ファスは花瓶を取りに巣へ戻った。七草を抱えたパクたちも続く。
シドとレオたちは、用意されていた敷物へ。
「ソラ、飾るの任せてもいい?」
「んにゃ!」
「パクとダイチは、お弁当を運んでくれる?」
お弁当にできそうなおかずは詰めて、運ぶだけにしている。パクとダイチは力を合わせ、ゆっくり持っていく。その顔は真剣だ。
「オネムはパンを頼んでいい?」
「にゃむー」
ファス手作りのパンが盛られたカゴを、これまた真剣慎重に運ぶオネム。戻ってきたパクが手伝い、ファスはお茶を持っていく。
「どうぞ。お弁当をつまんで待っていてください、温かいのを用意しますので」
「手伝おうか?」
「にゃいにゃあ」
「大丈夫ですよ、後少しですから。ゆっくりしててください」
ファスは空を見上げる。星が見え始めていた。
よし、と腕まくりすると、台所に立つ。
「はやて、大変だけどお願いね」
「なう!」
はやての肉球が光り、フライパンに風の輪っかが三つ。そこに卵を割り入れ、じっくり焼いていく。それを人数分繰り返し、出来上がり。はやてには労りのなでなでとお茶を。それから、しらゆきが絶妙な火加減で見ていてくれたおしるに、擂った山の芋を掬って入れて、フタをする。それをこれまた人数分。しらゆきにも、労りのなでなでとお茶を。
「ありがとう、しらゆき」
「にぃ!」
「はやても。じゃあ、運ぼうか」
「なー、にゃ!」
揃って外へ行けば、ソラが活けた七草を鑑賞しているところであった。周りには、レオの魔法だろう、小さな光玉がふわりと浮かび、明るく照らしてくれている。
「わぁ、キレイだね……!」
「んにゃ、にゃー!」
好評だったのが嬉しいらしく、ソラの喉は鳴りっぱなしだ。そんなソラにも、労りのなでなで。どうやら全員揃うのを待っていてくれたようで、誰もお弁当に手を付けていない。ファスは急いで、おしると目玉焼きを配った。きれいなまんまるに、レオたちの目が輝く。
「お待たせしました、どうぞ」
いただきます!とスプーンを手にする魔猫たち。レオたちは、おしるに手を伸ばす。まずは優しいおだしの香りを嗅ぎ、白いまんまるにそっとスプーンを入れ、柔らかさに驚く。ふうふう冷まして、ぱくり。
「にゃいいぃぃぃ……!!」
ふわふわもちもちあったかい!……レオたちも気に入ってくれたようだ。ファスが安堵している横で、パクたちもゴロゴロと山の芋を堪能している。
「これは……おいしいね。スープの優しい味とも合ってる。疲れていても、これは食べられる気がするよ。それに、面白い食感だ」
「よかったぁ……パクたちもお気に入りなんですよ。山の芋が手に入ったら、必ず作るんです」
ファスの料理には、溜まった疲れをそっとほぐしてくれるような、そんな効果がある。だから、偶にあるお誘いを心待ちにしてしまうのだろう。シドは満足気に器を空にした。
次はさつまいもと豆の和え物。しっとりとした甘さに、豆の軽い塩味と固めの食感がいい。
「ににっ、み?」
「なお、にゃおにゃ」
クリームは、かきに揚げものを温めてもらっている。量があるので、しらゆきも手伝う。
ほかほかになった揚げいもを均等に配り、先生の分も、とトバリが手渡す。
「ありがとう。…それはそうやって食べるのかい?トバリ」
「……にゃ、にゃにゃ」
トバリのお皿には、目玉焼きのサンドイッチ。器用に作ったらしい。こうしたらおいしい、と何回かのお食事会で覚えたトバリ、静かに頑張っていた。上手だね、とファスも微笑む。
葉野菜にかりかりベーコン、それにハーブソースを挟んで、目玉焼きをどんと乗せ、完成。
「……にゃ、にゃあ、に」
ぎゅ、と押さえてかぶりつく。トバリの尻尾がピンと立った。それからは、はむはむはむと止まらない。
それを見ていた魔猫たち、にゃあにゃあにゃいにゃいとパンを手に作り始めた。
「器用なものだね」
「そうですね。パクたちも最近、こうして好きな具で作ったりするんですよ」
作ってみようかな、とパンを取ったが、……もう具が無い。
シドはサンドイッチは諦め、そのまま食べた。それでも充分、満たされたのである。
……夜空には、まんまるお月様。大きくて、優しく照らしてくれている。
毛布に包まりながら、魔猫たちは仲良く眺めていた。時折、尻尾が揺れる。
虫の声と、風の音。カサカサと木々が揺れる音。自然が出すそれらは、不思議と心地いい。クルクルと喉が鳴る音も。
シドも、ぼんやりと月を眺めていた。
思えば、こんな風にのんびり過ごすのは久しぶりだ。魔研に居たら、仕事を終えたらすぐに休む。空を見上げるなんて、何年もしていなかったように思う。誘われなければ、今日の月はこんなに明るいとは気付かず、朝を迎えていただろう。
「お茶が入りましたよ、どうぞ」
「にゃあ!」
「にゃいにゃ!」
「ありがとう。お月見というのも、いいものだね。こんなに綺麗なものなんだ」
「そうでしょう?綺麗で優しくて……なんだか安心感があります」
にこりと笑ったファスも、一緒に見上げる。何を話すでもない、けれど心地良い時間。
膝の重みに視線を下ろせば、レオがちょこんと乗っていた。
のんびりと、ゆったりと。此処はレオたちの息抜きには丁度いい場所だと思っていたが、いつの間にやら自分にも、そうなっていた。如何に日々が忙しかったかを、教えてくれる。客観視するには必要な空間だった。
「…また、誘ってくれると嬉しいね。レオたちも楽しかったようだし」
「ほんとうですか?じゃあ、来月はどうですか?」
「思いの外早いな。てっきり来年かと…」
「今日は十五夜、次は十三夜、その次が十日夜。三回あるんだそうです」
へぇ、と相槌を打ちながら、レオたちが持っていた資料の中身を思い出す。
十三夜は正確には満月ではないが、十五夜の次に美しいといわれる月。別名、『栗名月』と『豆名月』。
十日夜は豊穣に感謝し、また次の豊作を祈る日である。お月見というより、収穫祭といったほうがいいか。
「三月見、というそうです。知ったら、みんなでやってみたくなりまして…。よければ、またどうでしょうか…」
先の予定は分からないが、五対の期待の眼差しは無視できない。なるべく参加できるよう、調整はするつもりのシドだが。ちら、とパクを撫でるファスを見る。
今回、勿論弟子達も参加予定であった。
指折り数え、心待ちにしていた三人に、冒険者ギルドからの非情な緊急依頼。当然ながら、どんなに急いだとて、三日前だと間に合わない。
うららは号泣し、トオヤは少し肩を落とし、カイはギルマスに怨嗟の呪詛を投げ……旅立って行った。
ただただ、タイミングが悪かったとしか言いようがない。ギルマスは完全なとばっちりである。
「そうだね。次は、みんなで」
「……はい!」
楽しみにしてるよ。にゃいにゃいと喜ぶモフ弟子たちの声に囲まれながら、シドは微笑んだ。
「おい見ろよ、流石カイさんだぜ…魔物の動きが全て見えてるみてぇだ……!!」
「待って待ってトオヤさん一撃で何体吹き飛ばしてる??」
「やべぇやべぇやべぇ!!うららちゃんの魔法がこっちにぃぁぁぁ??!!」
ああああぁぁぁぁ……。
Sランクパーティのえげつない猛攻により、やる事がなくなった為ガヤに徹していた精鋭冒険者達。
彼等もまた、とばっちりを喰らっていたのである……。




