第17話 フィオナの過去 1
フィオナは半地下の長い通路を歩いた先の部屋に連れて行かれ、エメルトとファルに、ゴミのよう放り投げられた。鍵をかけられて、自由は無くなりその部屋で数日過ごす事になった。ガンガンと内側から叩く音がドアから聞こえて、ファルは「食事に睡眠薬を混ぜようかしら」と聞こえるように冗談を言うと音は止まった。
フィオナの部屋から、毒の本がみつかり目撃者のメイドも現れた。フィオナは自分の部屋で過ごす事をヴァイオレット家の人間は許さず、問題を起こした使用人を軟禁する部屋で処分を待つ身となった。フィオナは自分は無罪だと主張していると、食事を持っていったディハニヒがげんなりした顔で、シオリに報告した。
マレインの治癒は、アマリリスの体調を考えて今週は休みとなった。
騒動から翌日。マレインがアマリリスから頼まれたフィオナの鍵を持ってきた。フィオナの部屋の鍵は、シオリが預かって引き出しに入ったままで簡単に鍵は手に入った。
シオリの部屋に入る人間は家政婦とシオリの侍女3人に、ルーシーとティートリーとマレインしかいないため警戒していないせいだ。
「変わった面白い遊び?」
「ありがとう。違うけどね」
マレインはそれ以上聞く事なく、鍵を開けて部屋に入る。
「フィオナの持ち物でなるべく古い物がいいんだけど。持ち物の記憶を正確に入れるから」
「それならメイド服はどう?結婚する前は着ていたし」
「まだあるかな?」
「メイド服は大抵、自腹で用意するから、フィオナの性格だと勿体ないと多分捨てないはず」
アマリリスとマレインはクローゼットを開き、洋服を漁るとメイド服が2、3着ハンガーに掛けられていた。アマリリスは、1着借りる事にしてメイド服をクローゼットから出して、2人はアマリリスの部屋に向かった。
マレインは毒見役の件でアマリリスが部屋で眠っている時に、初めてアマリリスの部屋に入った。慣れない足取りで歩くマレインに、カルミアが「アマリリスの部屋に入ったの初めて?私はよくアマリリスの部屋に遊びに行ってるけど」とぷーくすくすと煽った。シッシッと手で払いバルバラが「仲良く」と喧嘩になりそうだった2人に割って入った。少し頭が冷えて気を利かせたマレインは、空気を変えようとカルミアの眉の形と微妙に色が違うのを聞くと「眉の化粧をしたので」と素っ気なく答えた。
アマリリスに部屋に入っていいよと、招待してもらい役得だとホクホクした。パステルカラーの少女趣味の部屋で、2人は天蓋付きベッドに腰掛ける。
「私が相手の体に触ってその人の持ち物を握ると過去に入れるの。」
「どうやってやるの?」
「いつもの治癒みたいに手を握って横になって、目を瞑ればいいから」
アマリリスの言われた通りにする。いつもと違うのはフィオナのメイド服をアマリリスは開いた片手で握った。
「マレインちゃん目を開いて」
マレインが目を開けると、部屋は薄暗く淀んだ空気が籠もっている。誰1人使わない部屋なのか、家具には大きな布が被せてあり、薄っすら埃が溜まっている。
「うちの家じゃないね」
「マレインちゃんは驚かないの?知らない部屋に、いきなり飛ばされて」
「うちは色々あるから、驚かなくなった。」
色々の中に、アマリリスはもちろん含まれている。アマリリスは、色んな家庭がありますとファルの言葉を回想していた。
マレインは、息苦しくないと、アマリリスの耳元で聞こえるか聞こえないかの声で呟く。マレインとアマリリスは、埃の塊が転がった部屋で咳き込まない。記憶を覗く存在として、肉体は影響されない。
「これは大事な事だけど、私達は記憶を覗いてる存在だから、周りに見えないし、過去に干渉もできないよ。」
「過去は変えられないのか」
「過去の物も持ち帰れないし、食べられないよ。その代わり調べる事はできるみたい。誰もいないし、別の部屋に行こうか」
「鍵がかかっているかもしれないし、出られるかな?」
「私が記憶を覗ける操作をしているから、私がやれば鍵が開くかも」
マレインは、試しにドアを開けようとすると、施錠されていた。アマリリスが、代わるとドアは開き部屋から出た。別の部屋から声が聞こえて、引き寄せられるように2人は部屋に入る。
ティートリーの、向かい側に男性が親しげに話している。ティートリーにグランと呼ばれた男性は、炭のような黒い髪に糸目で笑うとえくぼが出て人の良さそうな顔をしている。椅子に寛いでいるティートリーは、屋敷の廊下に飾られていた写真通りの姿だ。若い頃のようだ。
グランはうちは代々医者だが、と前置きする。
「伯父は桜良国の夕霞で紅霞専門の医者をしているだろう。この間、伯父が帰ってきた時に聞いた話だが」
「何かあったのか?」
「純血の子供を診たんだ。親は紅霞の人間じゃなくておかしいと思って話を聞いたら、治癒係として紅霞の純血の子供を養子にしたと。子供が大人の治癒という無茶をして病気になったと、伯父は怒っていたよ。」
「紅霞は病気になるのか?」
「誤解されがちだが、紅霞も人間だから無理をすると病気になる。痛覚もある」
アマリリスは、関係ない記憶に入ってしまったと気づく。
「初めてだから、間違えたみたい。ごめん」
「いいよ。ここは多分、ソレイユ家の屋敷だね」
「来たことあるの?」
「ないよ。母さんから、フィオナとソレイユさんの話を聞いていたから、多分そうかなって」
ティートリーとグランが話していた所で、フィオナが足をひきずるように歩きながら、盆に乗せた紅茶とマドレーヌを持ってきた。エプロンには、泥がついていて不衛生だ。当たり前だが、フィオナも若い。
「君は厨房で働いているはずだろう。これで2度目だ。家政婦に叱られる前に、早く自分の持ち場に戻りなさい」
グランは睨み、フィオナはティートリーをチラリと見る。ティートリーは、頂くよと紅茶を飲み、色々質問して楽しそうだ。フィオナは足が悪いため前の屋敷ですぐにクビになり、家政婦が同情して女主人に掛け合いお情けで雇ってもらった。厨房で椅子に座りじゃが芋等の皮むきをしていたり、調理していると話す。
「彼女を雇った後、また何人か雇って厨房は少し多いくらいだ。彼女が気に入ったなら、ヴァイオレット家で雇うのはどうだ?」
「グランが言っているが、君はどうかな?うちのコックは腕がいいから、食事は美味しい。厨房のメイドが、辞めて人が足りない。もちろん、体に負担が無いように椅子に座って作業できるようにコックに頼む」
グランは冗談で言った。ティートリーは、冗談を真に受けてフィオナに聞くと、喜んですぐに頷いた。
グランは茶を吹き出して無かった事にしてくれと言うが、フィオナはティートリーに質問して2人は聞いていなかった。グランは家政婦に何て言おう…と目を見開き頭を抱えた。
マレインは無言で額に手をあてて、非常識な交渉が成立する場面を眺めていた。勝手に採用するのは、アマリリスが初めてでは無かった。女主人でも厨房に気軽に入れないため、フィオナの採用はしばらく経ってから知ったのだろう。
カルミアがアマリリスの部屋に遊びに行ったのは、2、3回くらいです。カルミアは見栄を張りました。
アマリリスがマレインを今まで部屋に招待しなかったのは、無理をさせちゃまずいと気を使ったからです。




