5 地獄
「ハア...ハア...」
息が切れてきた。勉強が取り柄だった僕に当然シャトルラン3桁など無理である。せいぜい60回くらいだろう。
「ドーレーミーファー...」
もうすぐ60回目だ。思っていたよりも疲れていない。
「ドーシーラーソー......60」
やっと60回目だ。
「痛...」
目標を達成して油断したのかころんだ。おそらくもう往復はできないだろう。一足先に地獄から抜け出した。高みの見物である。僕は一度体育館の床に倒れ、体力を回復させた。
「キーンコーンカーンコーン」
気づけばチャイムが鳴っていた。まだ走っているのは2人。野球部に入った後ろの席の大林くんとサッカー部に入った女子人気の高い西園寺くんだ。外でハンドボール投げをしていた女子が体育館の中を除き歓声を上げている。もうそろそろ終えてほしい。
「あーーーー無理無理」
先に音を上げたのは大林くんだった。西園寺くんは最後のウイニングランを走ったあとしたり顔でシャトルランを終えた。
「大林〜自販機でコーラな」
西園寺くんが言った。
「わざわざ自販機じゃなくていいだろ」
大林くんが呆れたように言った。
どうやら二人は賭けをしていたらしい。僕には考えられない遊びだ。原初から足が早かったり、ボールを遠くに投げれるやつがモテると決まっている。高校に入ってもその理は変わらなかった。まあ僕には一生関係のない色恋話なのだけれど...
教室に戻って結果を記録した。昨今は電子機器で結果を記録するから紙をなくす心配をしなくて助かる。
「え〜お前100超えてんの〜俺98回だわ〜」
結果の品評会をしている同級生を横目に結果を書き終えた僕は本を読んでいた。
「その小説読んでるの?俺も俺も」
いきなり大林くんが話しかけてきた。いきなり話しかけられたから声が一回喉でつっかえる。なんて言えばいいかわからず一度黙ってしまった。
「俺もその本読んでるんだよねー。俺等席近いのに全然話してなかったからさ。共通の話題探して話そーッて思って...嫌だった?」
完璧だ。人への気遣いが。コミュニケーション能力がずば抜けている。
「あっ、僕も最近この本読み始めたんだよね。大林くんは全部読んだの?」
「いやー?俺ほんとかすぐに飽きちゃって。まあ気が向いたときに読んでるかな。まーお互い仲良くしようぜ。席近いんだしさ」
イメージが覆されるpart2だ今までの野球部のイメージはオラオラ系のイメージだったがここまで繊細な気遣いができるとは。偏見は持たないようにしようと反省した。




