4 春時雨
昼ご飯を食べ終わり午後の授業が始まった。中学の時とは難易度も進行スピードも段違いの数学は苦手教科に昇華しそうである。先生が黒板に文字を書くチョークの音が教室に響き渡り、その音に追随するようにペンの小さな音が僕の耳に入る。チャイムの音がなるのが待ち遠しい。けれど授業は受けたいという相反する感情に挟まれ、苛まれている。後ろの背の高い大林くんが先生に指名され、問題を即答するのを聞くと自分の学力の脆弱性を自覚させられた。チャイムがなった。今日は5限までしか授業がなかったので家に帰れる。もちろん部活に所属していない...いや帰宅部に所属している僕は他の人より早く帰れる優越感に浸りながら下駄箱に向かった。下駄箱に着いたときに気付いた。雨が降っている。春時雨というものは風情があって屋内から見ている分には気分がいいが、帰り時に降るのは面倒だなと思う。あいにく傘は持っていない。だがまだ霧雨だったので帰れると判断し坂道を下って駅に入った。
やはり春時雨はいいものである。電車から眺めているとそう思う。葉混じりの桜の色が少し薄く見える。色のコントラストの境界線が曖昧になり神秘的な光景が見える。窓の外には雨粒がつき外は明るさを失っていた。電車のアナウンスで自分の最寄り駅の名前が呼ばれると忘れ物をしていないかを確認し、自分が乗っていた鉄の塊から降りた。雨脚は強まっていて、結局近くのコンビニの透明な傘を買った。
帰ってから少したった頃。ちょうど部活が終わる頃に雨はやんでいた。こんなことなら部活に所属しているべきだった...。と後悔していると母親に晩御飯に呼ばれ、思考が食に支配されたおかげでそんなアンハッピーな思考から抜け出せた。
翌日の学校は空気が淀んでいた。天気の晴れ晴れしさとは対象的に暗く、重い空気が場を支配していた。クラスメイトに理由を聞くと「体力テストがだるい」とのことだ。そうかだから後ろの席の彼は太陽のような晴れ晴れとした顔をしていたのか。体力テストというものは体を動かすことが好きな変なやつ以外にとっては地獄だ。だるいし、疲れるし、暑いし、といろいろなデメリットが浮かぶ。特に恐ろしいのはシャトルランだ。そのシャトルランが今始まろうとしている。
「5秒前ー。3、2、1、スタート」




