28話 全員で行く
遊園地で七つのアトラクションの制覇を目指す西浦あかりたちは、最後の施設に到着した。それはお化け屋敷。脱出できればクリアだが、先に並んで挑戦している人の中で、脱出つまり出口から現れた人を見ていない。
他のチームで制覇したという報告が上がっていないこと。閉園時間はまだ先なのに園内の客が減っていること。そんな遊園地に突然招待されたこと。アカリは数々の疑問から、この施設を警戒している。だが一緒に来た能力者仲間と協力すればクリアできるかもしれない。そんな期待を込めて、慎重に挑戦する案を出した。
「最初に二人、間を空けて四人が二組に分かれるのはどう?」
この施設の勝負は対決。四人ずつ挑戦し、屋敷内の妨害を乗り越えて出口を目指す。一位抜けでなくてもいいが、途中でお化けに襲われ、一番逃げ遅れた人は脱落と注意書きがある。これまで通りチーム内の四人で参加すると確実に脱落者が出て、その人がどうなるか分からない。かといって代表一人で行くのも危険だ。クリア報告がないことから、生半可な難易度ではないだろうから。
「最初の二人は一番重要。よその人と勝負し、揃って脱出する」
「でも最後はその二人での勝負になるんじゃ」
「……うん」
川口青空澄の言う通りアカリの提案の懸念点は、お化けの襲撃が三回あった場合にチームメイト同士での競走になる点だ。外から中の様子は見えないので、二回以内で済むと断言はできない。その点は一人で挑めば解決するが、それで突破できるのならとうにクリア者がいても不思議ではない。
「そうなったら仕方ない。一人で行って失敗するよりは良いはず」
「まあそっちの方がリスクあるよね」
一人に背負わせるのは危険だと美南哀月は思う。お化けから逃げ遅れた人がいるはずなのに外へ戻ってきていない以上、迂闊に挑戦しては同じ目に遭うだけで、再挑戦したり残りのメンバーに情報を残したりできない。
それなら二人で挑み、協力して乗り越える。その後に二人での潰し合いが待っていたら、それは仕方ないと割り切る。見捨てるのではない。勝ち残った一人が脱出し、中で何があったかを残りのメンバーに伝え、助けに行く。
「脱出した人は後の四人に話して。そうすれば何とかなるはず」
「……なるほど。つまり四人は、最初の二人が出てくるのを待つのか」
脱出して連絡しようにもその前に残りのメンバーが突入してしまっては手遅れだ。だからアカリは間を空けて並ぶと提案したのだと、大森憩は気づく。並ばなくても連絡できるが、もしも先発が一向に脱出できなかったとき、慌てて並ぶのでは待ち時間が長い。前もって並んでおけばすぐ入れるし、問題なければ列から抜ければ済む。
「スタンバイしていれば、なかなか出てこないとき最小限の時間で増援に入れる」
「そう。中で合流できれば何とかなるかも」
ピンチに駆けつけられたら協力して脱出できるかもしれない。間に合わせるために、入って何分経っても出てこなかったら様子を見に行くかを決めておき、それを実践するべく後発は並ぶタイミングを見計らう。
かといって四人揃って入っては道中の勝負でチームの中から脱落者が出てしまう。そこで先発組と同様に二人ずつに分かれる。見ず知らずの人を負かして脱落させる分には何とも思わない。
理想は先発の二人でクリアすることで、もしものときは中で全員合流する。そんな今回の作戦は、今までの施設に挑戦したときのものとは大きく変わっている。
「全員で行くなんて、楽しみだ」
「うん。まあ後ろ四人は出番なしの方が無難だけど」
四人で挑戦すればメダルは手に入る。これまではそうだったから、常に五人以上いたこのチームは毎回留守番の人が出ていた。だから誰が出るかを決めるところから始めていたが、今回は違う。二人ずつ突入し全員でクリアを目指す可能性があり、何が起こるか予測が立たず、イコイは期待が高まる。
アカリもその展開を今までと違う毛色で面白そうとは思うものの、それはあくまでも最終手段。最初に入ったペアがクリアしてくれる方が安心なので、四人で留守番になったとしても不満はなくむしろ安心する。
そしてそのためには、一番心強いペアを組んでもらう必要がある。どの二人かは、彼女の中で決まっている。
「そんなわけで先頭の二人を決めます」
「まずラクアは駄目でしょ」
誰が、あるいはどの二人が適任か。六人の中から選ぶにあたり、第一声は立候補でも推薦でもなく、アスミによる候補の除外だった。思いがけず名指しされ、その理由に見当もつかない三郷楽阿は戸惑っている。
「だって幽霊に触れないし」
「なんだ、最初のと同じ理屈か」
度胸や警戒心など、お化け屋敷攻略に適した力があるかは重要だ。だが彼らには特殊能力がある。性格や学力、運動神経とは違う、ある日宿した固有の力だ。
そちらの向き不向きを重要視したアスミは、霊に無力なラクアを真っ先に候補から抜いた。だがあくまでも彼女目線でそう見えるだけなので、異論があれば考えを改める。むしろこの点が解決するなら彼を推薦したいほどには、他の要素で信用している。
ラクアは理由を聞いて溜め息をつく。彼の能力は触れた相手を過労させるものであり、機械相手には無力だという話を、彼が合流して初めて挑戦した施設で告げられた。その考えは間違っていないが、能力抜きに体力には自信があるからと反論した。今回も同じで、能力そのものは効き目がなくても、それを活かすために鍛えて伸ばした力を使えばいいと言い返せば、役立たずのレッテルを剥がせる。
「最初じゃなくて五番目だよ」
「……そう思うくらい余裕あるってわけだ」
「でしょうね」
確かにその施設では体力切れを起こさず、能力抜きでも渡り合えると証明していた。だがそれが最初の施設だっただろうかとアカリは首を傾げ、少し経って思い出した。彼女らが七つのうち五番目に挑戦した施設での出来事であり、そこが最初の場所だったのはそれまで休んでいた彼だけの話だ。
そんな実態は誇れるものではないと悟った彼は、全体の半分を過ぎたときの出来事を最初のものと勘違いするくらい、疲れを知らないタフさとしてアピールする。
だが勝手に休んでいたのだから他の人より余裕があるのは当たり前だとアイリに呆れられる。そもそも彼はその施設ですら途中から手を抜き消耗を抑えていたわけで、それで持久力を誇示すること自体おこがましく思う。
「幽霊なんて居ねえ。どうせスタッフの変装だろ」
「夢のないことを……」
「いいから黙って聞け」
以前の怠けのせいで話は逸れて信頼も下がったが、ラクアは本題に入る。確かに幽霊には触れられない。だがそれは本物ならの話であって、正体が幽霊に扮した人間なら、普通と人間と同じように対処できる。そこで彼が先陣を切る意味がある。
ここは遊園地だから事実といえど、望まれている楽しみ方を否定する彼にアスミは溜め息をつく。だが彼にとってこの点は重要なので撤回せず話を続ける。話す内容は頭に入っていて一方的に伝えれば納得してくれると予想がついているので、話を遮り関係ないことで茶々を入れられるのはストレスになる。
「先に俺が触っておけば、皆が入るときにはバテバテだ」
「賢い……」
「え、入る前提なのね」
ラクアは自力でクリアする点で適任かは考えず、就くポジションとして自分はどこが適任かを考えて、一番乗りを選んだ。幽霊は存在せず、人間がそう見せかけている。そこへ突入してその人を疲れさせてしまえば、驚かす元気を失って、これから挑戦する人にとっては楽になる。
そんな視点と作戦にアカリは感心する一方でアスミはがっかりした。ラクアの狙いは後続のアシスト。つまり最初から二人だけでクリアするつもりはない。なかなか出てこなかったときに備えて後から入る四人の増援ありきの作戦だ。
「そもそも人とは限らないでしょ。機械かも」
五つ目の施設ではワニを模した機械との勝負だった。それと同様に幽霊の正体も機械という可能性があり、そうなら中に人はいないので、ラクアが触れても過労させることはできない。先に彼が行く利点が無いのだ。
あらゆる予想を立てるより、行って確かめてから必要な対策だけ練る方が楽だが、行って帰ってこられるか分からないせいで、その手は使えない。いくつあるか分からないパターンを洗い出しどれが飛んできてもいいように備えるのは、彼の苦手分野だ。
一方アカリは、他の施設では機械だった点からアイリの意見の方が正解に思え、彼が返しの意見はないかと期待した。
「人だろ。入ってまだ出てきていない人」
「じゃあやられたら幽霊に!?」
ラクアは思いつきで言った。幽霊の正体が人か機械かで、可能性が高いのは前者。その根拠は入口を通った客が出口から現れていないことから、この施設内には大勢残っている。彼らが幽霊として立ちはだかるなら未だクリア報告がないのも合点がいく。脱落者が幽霊になれば挑戦者が増える度に幽霊も多くなり、時間経過とともに難易度も上がっていくからだ。
その予想は当初彼が言った正体はスタッフとは異なるものだが、こちらは当たっているかもしれないと好評だった。同時に、やるなら早いに越したことはないと覚悟を決めさせた。
「……そうかも。だったら私も行く。地面に触れているなら足止めできるから」
アイリは彼の予想が的中していると仮定して、先発のもう一人を務めると立候補した。当初は浮遊する幽霊相手に、地面に糸を張って触れると粘着させる能力は効果がないと考えていたが、幽霊にされた人間なら話は変わる。本当に変わったわけではなく所詮は演出だろうから歩き回っているだけと考えれば、歩けなくさせるとだいぶ優位に立てる。
ラクアと協力して後続の負担を減らす役割は、自分が向いていると考えた。
「ラクアと一緒だけど大丈夫?」
「うん。もしものときは守ってくれるし」
アカリはアイリに尋ねた。能力の相性は心配していない。問題はラクアと二人でうまくやれるか。少し前までやる気を出さない彼に当たりが強かった彼女が、彼を信用して連携できるか気がかりだ。衝突した隙に幽霊に狙われてしまうなんて最悪の事態も考えられる。
だが彼女は心配要らないと告げた。もう彼のことは信頼している。幽霊の対処を人任せにしてこないし、見捨てることもない。だから彼と行くと決意した。
ただ彼と違うのは、アカリたちを巻き込むつもりはないこと。彼と協力し二人だけでクリアする。そうすれば彼女らが危険に踏み込むことはなくなる。
アイリは本当は最初から一番乗りを引き受けたかったが、どう立ち回ればいいか分からず立候補できなかった。だがラクアが、相手は浮いた機械でなく地に足着けた人間と気づかせてくれたから、それなら得意分野だと自信を持てた。彼の視点のおかげだ。
「……良かったね、ラクア」
「ああ、行こう」
アカリは友達がすっかり和解してホッとする反面、彼と距離を詰める機会は遠のいたことを悲しみつつ、笑顔で彼に呼びかけた。彼は好きな子を危険に近づけたくないとは思っていないのでアイリの同行を受け入れる。後から来る方が安全だが、一緒にいる方が安心できる。
これにて最初に行く二人はラクアとアイリに決まった。後は残り四人をどう分けるかだが、こちらはどんな分け方であっても差はない。行かずに済むか、行ってすぐ合流するかの二択だ。
先に列に並んだ二人を見送り、アカリたちは後から並ぶ客を見送りつつ、四人の内訳を考えた。
「二番目は俺が行く。目印になれるから」
日比谷興奈は自身の能力の活かし方を考え、真ん中を選んだ。オキナの能力は幻想空間を見せることで、暗闇のお化け屋敷を部分的に明るくできる。変わるのは見た目だけなので壁を無視することはできないが、一点だけ景色が変われば前のラクアたちや後ろのメンバーに、自分がそこにいることを知らせられる。
「イコイは最後を頼む。ペアの子を連れてきて」
「了解」
そして同性のイコイとはペアを組まず、彼は誰と組むかはさておき最後に回ってほしいと告げた。彼の能力は移動に適しており、目印の下へペアで揃って迅速に合流するには彼が居る方が望ましい。
となると残りはアカリとアスミ、どちらが先に行くかだ。
「じゃあ私が先に行く」
「私は最後ね。そんなに変わらないけど」
それはすんなり決まった。アスミがオキナとともに先に入る。この四人に関しては順番にさほど差はないのでアカリは異論なく、アスミも直感で先がいいと言ったのだろうからその判断を信じる。これにて順番は決まった。後は列に並びつつ、ラクアたちのクリアを願った。




