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26話 間に合ったからいい

  遊園地で七つのアトラクションの制覇を目指す西浦(にしうら)あかりたちは、六つ目の施設、宝集めに挑戦する。並んだ列が進み、レンタルの海賊衣装に着替え出港だ。といっても実際に海を進むわけではなく、安全に海賊気分を味わえる。


 四人はそれぞれ大砲の前に立ち、砲手として樽や敵を撃つ。樽は四列になって海面を漂っている。列の並びはどこも変わらず、砲身は正面しか向かない。つまり四人が一列ずつ担当し、同じように迫る的を狙う。どの列も同じだから、点数を左右するのは精度と体力だ。


「海賊らしく横取りできたらいいのに」


 美南(みなみ)哀月(アイリ)は物足りない。せっかくなら競争相手の樽を狙って取り合えたら、順位争いはもっとヒートアップする。周りに干渉できない今の形式では一人ずつ挑戦するのと変わらない。四人で一斉にやるならそれによってできることがあってもいいのにと愚痴を溢す。三郷(みさと)楽阿(ラクア)は聞こえていたが無視して砲撃に集中する。


「それ面白そう」

「そういうのは他でやれってことでしょ」


 残りの二人からは反応があった。アカリは同意し、川口(かわぐち)青空澄(アスミ)はアイリの案を肯定しつつ、その願いは別の施設で叶えるべきと意見した。この遊園地には様々な施設があり、競ったり協力したりしてきた。四人の中で一位になったりクリア条件を達成したりするとメダルを貰えたが、もう一度挑戦することは可能だ。これまで回った施設で気に入ったものがあれば、制覇した後の自由行動の時間に行けばいい。

 すべての施設で思い通りになるなんて、都合良くはない。


「だからここでしかできないことをする。四人で一位を取るんでしょ」


 だが逆に他の施設ではできないこともある。ここでは誰が一位かは関係ない。同じ船に乗って宝を集める仲間だから、ゴールまで進めば仲良くメダルを獲得できる。とはいえ彼らはチームを組んでいるので、同じメダルを複数集めても意味はなく、合計が高くても特典はない。

 けれども思い出になる。そのために今回はチームの中からこの四人で参加したのだ。



 しばらくすると巨大なイカが現れて、触手で水しぶきを上げてきた。船の上なので安全だというのは、列で待っている間に先に挑戦する他の客を見ていたのであらかじめ分かっていた。

 だが誤算だったのは、しぶきが邪魔で樽が見えにくくなることだ。


「的が見えないよ!」

「見えてる人は合図して、声に合わせて撃って!」


 樽を見失うと撃ち漏らして点数にならない。アカリは慌ててヘルプを求めると、すぐさまアスミが作戦を告げた。砲身は動かせないから代わりに撃つことはできない。けれどもカバーする手段はある。

 樽がどの列も均等に流れてくるから、四人の撃つタイミングも揃う。最初はフェアにするためと考えていたが、競うわけではないから意味があるように思えなかった。

 何か他に理由があるかもしれないと思考を切り替えた矢先に閃いたのは、フェアだからこそフォローし合えるという点だ。


 アスミの指示に従い、アカリたちは撃つときに声を出す。するとしぶきで樽が見えず撃つことも声を出すこともできないとき、仲間の声がヒントになる。見えなくても合図に反応して撃ったら、命中した。


「当たった! ナイスアイディア」


 アカリは発案者のアスミにお礼を言うと、こういった対処が協力プレイの一環だと理解した。

 この後はあのイカを皆で砲撃して、合計で一定数撃ち込むと倒す展開がある。誰が何発当てても入手する財宝は平等なので、その間は個人戦ではなく四人で一丸となる。そういう意味で協力タイプにカテゴライズされた施設だと思っていたが、それ以外の場面でも協力することができることを知った。


 しぶきの妨害に個々の実力で対応するのは限界がある。だから力を貸してもらう。それが高得点の秘訣であり、四人で挑戦する意味。


「良かったね、皆でやって」


 アカリはラクアに声をかける。当初は彼一人で挑戦し残りは最後の施設へ向かう案が出ていたが、この四人で挑戦する機会を手放すのはもったいないなどの理由で、四人で挑戦し終えて留守番メンバーと合流して最後の施設を目指すことにした。

 そして挑戦して気づいた、仲間四人で挑戦する利点。期待以上に得られるものが多かったことを喜ぶアカリは、彼も同じ気持ちであってほしいと願う。


 だが彼は違った。彼はさっきの作戦を聞いて、声が聞こえたら撃てばいいという短絡的な思考で撃っていたので、合図と関係ないアカリの声かけに反応してしまい、余計なタイミングで一発撃ってしまったことに気づくと慌てて撃ち直す羽目になった。


「……お手つき。ちゃんと聞いてから撃って。今は間に合ったからいいものの」


 そしてミスしたところをアイリに見られていた。そのうえなぜ撃ち間違えたのかさえも見破られている。今回挑戦した四人は三ヶ月前に特殊能力者に認定された同学年の仲。学校は違えど交流を重ね、どんな人か理解している。

 ラクアは横着者だ。合図があったら撃つという指示に対し、声を聞いて合図か否か判断して合図なら撃つのを、声を合図と決めつけて何か聞こえたら撃つものと割り切った。だから合図と違う会話にも反応してしまい、それをアイリに見抜かれた。そのおちょくる声も合図ではないノイズだが、さっき間違えたばかりで警戒していた彼は、今度は早とちりして撃たなかった。


「邪魔するな! 後でいいだろそんなこと」


 ラクアは我慢して慣れるより今反論してストップさせた方が楽だと考え、叫んだ。感想なんてリアルタイムである必要はなく、それで妨害されてミスするリスクを背負うデメリットが大きい。彼は一つのことに集中したい派で、作業中の雑談を嫌う。

 逆に他三人はわちゃわちゃした空気が好きで、しっかり重要な合図を聞き分けて手を動かす要領の良さがある。欠点は体力には不安があることだが、対策は講じてある。船にイカが迫り、しぶきに隠れる樽を狙うフェーズから、砲撃でイカを倒すフェーズに移った。今こそ対策を実践する場面だ。


「やるよラクア!」


 アイリはラクアに合図し、二人で一斉に連射する。

 倒す基準は四人の合計で当てた回数で、それぞれの撃つ回数に差があっても関係ない。加えて一番多く当てたとかトドメの一撃を入れたとかで四人に差が生まれることもない。

 だが駆け引きが要らないわけでもない。倒した後も航海は続く。張り切って連射すると疲れてしまい、残りの樽を撃ち損ねてしまいかねない。

 自分のミスを減らすには、連射フェーズは他の人に任せ、体力を温存する方がいい。かといって同じことを四人全員が考えると仕留め損ねて本末転倒だから、楽するにも一工夫必要だ。


 けれども今回は四人で高得点を狙うために挑戦している。自分が楽することより、チームで最大限の力を発揮することを優先している。そこで体力に自信がある寄りのラクアとアイリが、アカリたちの分までヒット数を稼ぐ。その作戦通り動くよう彼女は呼びかけたのだ。


 ラクアは応じる。早く倒せば早く終わるわけでもない。イカと戦っている間は樽は流れてこない。連射が遅く時間切れになった先客を見てきたが、イカの対処で樽を見逃すという事例はなかった。あらかじめ制限時間があって、過ぎると財宝入りの樽が流れてくる。

 頑張っても得はない。焦らず時間ギリギリに倒せば楽だ。そんなスタンスのラクアは最初は手を抜いた。


 制限時間と倒すのに必要な回数は事前に調べてある。後は他三人の撃つペースを把握し、自分はどれだけ撃てば事足りるのかを計算する。その計算を正しく行いたいが、全力で撃っていると頭が回らず失敗する。だからあえて力を抜き、計算とそれに必要なデータを集めることに意識を割いた。


 情報を集めたラクアは前を向き、適当に撃ちながら計算する。イカ筆頭に景色は計算に邪魔だから目を瞑る。連射は単純作業だから見えなくても困らず、暗算するのに手は要らない。

 そして計算が終わった彼は何秒おきに撃てばいいかだけを頭に入れ、目を開けた。焦るほどでもなくて安心している彼は、それなりに頑張って連射する。ギリギリ間に合う計算だから、仕留め損ねたら失速した仲間の責任だと割り切る。

 そもそも彼は失速を懸念していない。アカリとアスミは作戦通り体力を温存しているからバテる心配はなく、アイリは意地でも頑張るタイプだと信用している。実際彼女は無理にでもペースを維持していた。自分にも彼にも負けたくないから。



 そのときアイリの懐中時計のチェーンが切れ、時計が落ちた。彼女は首の違和感ですぐに気づくも、船の揺れでよろめいて反応が遅れ、時計は床を滑り、手すりの隙間から飛び出してしまった。


「大変! アイリの時計がっ」


 アカリは横を向いてすぐに事態を飲み込んだ。自分ではどうにもできないから、とりあえず声に出す。するとラクアの耳に届き、彼は船から飛び降りた。アカリたちは慌てて駆け寄り、けれども後追いする度胸はなく手すりの前から見下ろす。もう新記録どころではない。


 ラクアはすぐ水面から出てきた。ここは遊園地の施設。海のような池だから、イカに襲われることはない。中の広さも限られているから時計もすぐ見つかった。彼は泳いで端へと退避する。それからスタッフの救援を待つが、それまで粘るのは、体力的に余裕があった。


 じきに助けてもらい、飛び込みを注意されるも事なきを得た。ラクアは言い訳せず謝罪していた。時計を落としたのはアイリだが、飛び込んだのは自己判断であり、取りにいったのは正しくないと理解している。事情を伝えてスタッフに任せるのが正しかったし楽だった。だが体が勝手に動いてしまい、それを後悔してはいない。



「……大丈夫だった?」

「ああ。メダル没収されずに済んだ」


 ラクアが安堵したのは、罰としてメダルをお預けにされなかったことだ。最悪の場合、失格にされてこれまで集めた五つも回収されたり強制退園させられることも後になって頭を過っていてドキドキして説教が耳に入らなかったが、そういったペナルティなく解放されてホッとしている。


 アカリたちは呆れた。自分の体を一切気にかけていないラクアにとっては、あのくらいの行動は大したことでもないのだろうと改めて実感した。そんな度胸が彼が能力者として高く評価される由縁なのだろうと解釈する。


「……ごめん、ラクア。私がちゃんと持っていれば」


 アイリは後悔していた。普段通り時計を胸にしまっておけば、振り回さずに済んだはずだ。けれども今回は海賊の気分を味わうために、私物を盗品に見立てて気分を上げていた。見せびらかすように表に出していた状態で全力で砲撃していたせいで、時計が暴れチェーンに負荷がかかり、ちぎれてあの事態を引き起こしたのだと理解している。

 普段通り地味でいれば、目立たないよう振る舞っていれば、お気に入りの時計を落水させたり、それを拾うラクアに迷惑をかけずに済んだはずだ。不注意を反省する一方で、たまに自分の気持ちに正直になっておしゃれをアピールすると嫌な思いをする自分が悲しくて、涙が出そうになる。


 そんな複雑な気持ちを、ラクアは何となく察している。アイリとは今は他校生だが、家は近く小学校は一緒だった。それに好きだから、彼女がどんな風に思って思い詰めているかは分かる。


 アイリをアカリたちと同様、フォローされる側に回してその分彼が頑張っていれば、衝撃を軽減して未然に防げた。怠けていたから彼女からの信用を失い全力を出させる羽目になってしまった。そんな反省をするのは悪手だと勘づいているので、別の返答を考える。


「それまでサボっていて良かっただろ? おかげで溺れたりしなかったから」

「そういう話じゃ……」


 ラクアはすぐ拾いに動けた理由を、それまで体力を温存していたおかげだと言い張った。皆が前半の施設をクリアしている頃、彼はベンチで休んでいた。それは良く思われていなかったが、今の事態のおかげで正当化する理由ができた。素直に皆と行動していたらさっきのタイミングで飛び込む気力が湧かず、回収が遅れ時計をダメにしてしまっただろうから、いざというときに備えて休んでおくことの利点をアピールする。


 それは良くないように思えたアカリは、アイリが神経を逆撫でされてラクアと口論になるのを危惧し、割って入る。だが彼女は怒らなかった。彼が本気でそう言っているとは思っておらず、彼なりに気遣ってくれたのを理解している。


「……ありがとう」


 だからシンプルにお礼を言った。これまでの施設で手を抜いていたとか、そもそもここに来ることを直前まで隠していたとか、アイリはラクアへの文句がいっぱいある。けれども困ったら助けてくれる点は変わっていないことに安心感を覚え、その気持ちは素直に受け取っていることは、真っ直ぐ伝えたい。

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