表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
58/64

第58話:キミのための戦い(影山蕪太郎サイド)①

挿絵(By みてみん)

表紙:武頼庵(藤谷K介)さん


挿絵(By みてみん)

かぶちゃん(影山蕪太郎):コロンさん

 白装束を身に纏った影山さんが、派手な装束のおじさんに連れられて、緊張した表情で歩いてくる。目はいつも以上に鋭く、口は硬く噤まれている。

 

 新鮮な装いに『かわいい』って感情が溢れそうになるが、流石にそれを口に出来るような雰囲気ではない。


 山奥の廃校は、それを取り囲むように沢山の火が灯され、幾つもの太鼓の音が、土砂降りの雨音みたいに鳴り響いていた。



   *   *   *



 影山さんを連れ立った、いかにも『お祓い』っぽい出立ちのおじさんは、不貞腐れたような顔で僕たちの前に立った。

 太い眉に垂れ下がった目。分厚い下唇がおじさんの不満感を更に際立たせている。薄い頭髪を隠すように被った冠は、派手な装飾がキラキラ揺れている。


「あー、三浦君、久しぶりだね」


「は、はい」


 三浦さんはペコペコと頭を下げた。それを真似して僕と松原さんもペコペコする。百々さんだけは、品定めするような鋭い目つきでおじさんを睨んだまま、浅く頭を下げた。


「昨日紹介してもらった店、まあまあ美味かったよ。地酒も良かった。君にお酌してもらえたなら、なお良かったんだけどねぇ……」


 おじさんの視線は、スーツ姿の三浦さんの顔と胸元と足を、ムカデが這い回るように行き来する。


「すみません、神源寺(じんげんじ)さん。昨日はどうしても抜けられない仕事があって」


 この人が、神源寺さんか。

 今回の『ツキヒ討伐』を取り仕切る凄腕の霊能力者だって聞いていたけど、出立や発言はテレビに出てくるインチキのそれに近い気もする。生理的な嫌悪感がすごい……。


「あーあ、もったいない。だからそんな()()()()()なんてさっさと辞めて、ウチの専属になれって言ってるでしょ? 私みたいな大物にお酌出来る機会なんて、そうそうないんだから」


 コイツ、自分の事を大物って自称してるぞ?


「それに――」そう言いながら僕と松原さん、そして百々さんを見る。「こういう素人の見学者って、本当は規約違反だって知ってるでしょ? 今回は君に免じて許可してあげたけど、それ相応の対価ってもんが必要だよ?」


「はあ」


 三浦さんはオドオドペコペコしながら、どこか上の空な様子でネチネチした嫌味を聞き流している。きっとこれは、ブラック企業で生き抜くために身につけた処世術なんだろうな、って勝手に解釈して納得する。


「で、あんたが百々道子さん?」顎で百々さんを指す。「まったく、どえらいもんを生み出してくれたね」


「すまんな。よろしく頼む」


 百々さんは神源寺さんを睨みつけながらも、頭を下げた。


「いや、いいよ。先細りの霊能者の家庭に、先祖返りで異常な子孫が生まれて手に負えなくなるって、度々ある事だから」そう言って頷く。「今回はまさにトンビが鷹を生むってやつだ。鷹を操る役目は、鷹匠じゃなくちゃ荷が勝ちすぎる」


 その言い回しに僕はちょっとした違和感を覚えた。何がってのは言語化出来ないけど、なんとなく嫌な予感だ。

 百々さんもそれを感じ取ったかわからない。より一層鋭い視線を神源寺さんに向け――でも何も言わずに再び小さく頭を下げた。


 白装束の若い男が駆け寄り、神源寺さんに耳打ちする。神源寺さんの表情が一瞬で引き締まる。

 

「準備が整ったようだ。それでは、私は持ち場に着くとする」


 さっきまでの無能セクハラ上司みたいな雰囲気は一掃され、空気を震わせるほどの気迫が迸った。

 この人も、この一点においては紛れもなく『プロ』なんだって、そんな事に気付かされる。


 全てが完璧な存在が存在しないように、全てがクズな人間だって存在しない。僕は色んな悪霊(インキャ)と対峙して、そんな人の多面性を知った。


「みんな――」


 神源寺さんが去った後、ずっと押し黙っていた影山さんが口を開く。


「来てくれてありがとう……あたし、がんばるから……」


 僕は力一杯頷いた。


「かぶちゃん、応援してるから!」


 松原さんは胸の前で拳を握りしめる。


 僕たち普通の子供に出来る事は、出来るだけ影山さんの近くで、挫けないように声援を送り続ける事だけだ。

 応援なんて、なんの意味もない行動かもしれないけど、百々さんはその後ろ向きな考えを否定してくれた。悪霊と対峙する時、一番重要な心の強さなんだって。何がなんでも生きて帰るっていう、決意の力なんだって。

 

「おい、リュウジ」


 僕はカバンからリュウジを取り出し、手のひらに乗せる。リュウジは翅を広げて影山さんの肩に止まると、白装束の胸元に入り込んだ。

 

 念のため、内緒でリュウジに同行させる事を提案したのは、百々さんだった。

 マックでの打ち合わせの後、話の流れでリュウジを紹介すると、百々さんはえらく興味を持ったようだった。曰く、昆虫の悪霊でここまで自我が確立しているのは、かなり珍しい部類らしい。


 僕にとっては単なるエロカマキリなんだけど。

 

 自我の強さは、悪霊の底力に比例する。

 悪霊同士の単純な戦闘力で言ったら、リュウジは三浦さんや百々さんに引けを取らないほど強い。

 銀髪の鬼が弱体化してしまった影山さんの()()()ボディーガードとして、虫サイズのリュウジはうってつけらしい。


「何かあったら……影山さんを頼んだぞ」


『報酬、わかってんだろうな?』


「孵化前のカマキリの卵……」


『ああ。俺は生まれたばかりの雌に英才教育を施して、ヒカルゲンジ的なハーレムを作り上げる』


 僕がしぶしぶ頷くと、リュウジは頭をクイっと傾けた。



   *   *   *



 影山蕪太郎は、2階建の木造校舎の中央に位置する、4年1組の教室に通された。

 白装束の男から差し出されたパイプ椅子に座り、天井を仰ぐ。木目の幾つかが人の顔をしているような気がして、蕪太郎は小さく息を吐いた。


 ガラス窓をすり抜けて、太鼓の音と、管楽器の音色が流れ込んでくる。それに合わせて、男達が唱える祝詞の声。

 それらは遅れるでもなく早まるでもなく、機械のように一定の間隔で鳴り響く。頭の中が音で満たされるような、異様な感覚だった。


 日は、校舎の反対側に傾き始めていた。薄暗い教室の隅には、誰かが忘れていった使いかけの赤青鉛筆が転がっている。


 そして、鼻をつくラベンダーの香り。


 見えないけれども、今この校舎は強力な結界に包まれていらしい。蕪太郎にはその実感はないが、自分が日常からかけ離れた場所にいるような感覚はあった。


 もうすぐ、自分の『縁』に手繰り寄せられ、ツキヒがこの場所に迷い込んでくる。

 沈黙の意味を持つラベンダーの香りに満たされたこの場所では、ツキヒの『名付け』も抑えられると聞いた。しかし、それがどの程度のものなのか、蕪太郎には理解できないし、同時に信用もできない。


 自分はただここの場所に、釣り針に串刺しにされたミミズみたいな気持ちで座っていればいい。そうすれば外の連中が勝手にツキヒを閉じ込めて、勝手に成敗してくれるらしい。

 本当は、一発だけでも、その憎たらしい顔面をぶん殴ってやりたいが……。


「リュウジ――」


 囁いた言葉は重たく響いた。

 ニュアンスの重い軽いではない。物理的な意味合いで、言葉が重く感じるのだ。だから口を開くのが億劫になってくる。これが『名付け』対策の効果なのかと、蕪太郎は実感する。


 白装束の胸元からリュウジが顔を出した。

 そして何も言わずに、首を傾げた。


 黒板の上に掛けられた時計は、壊れていた。


 自分の周りの時間が、進んでいるのか、止まっているのか、それとも逆行しているのか、それすらもわからなくなってくる。


 単調な太鼓と祝詞の音は、逆再生したとて同じ音を鳴らし続けるだろう。


 打ち捨てられた小学校の教室の中で、蕪太郎は父親が来てくれなかった授業参観を思い出した。

 クラスメイト達が活気づく中で、自分だけは時が止まったように黙りこくっていたと思う。


 悲しみに暮れる小学生の蕪太郎は、一途の望みを託して、教室の後ろのドアを見つめていた。


 その扉が開いて、()()()()()()()()()()が顔を出すのを、ずっと願っていた。

 少し焦った顔で、申し訳なさそうに笑いながら――誰かが顔を出すのを、あの頃の自分は心の底から望んでいた。


 それは、父親かもしれない。


 もしかしたら、母親かも――



 


 教室のドアが開いた。



 


 隙間から覗くその顔を見て、蕪太郎は『お母さん』と呟きそうになる。


 でもそれは幻想だ。


 たとえその姿が、どれほど母と似通っていようとも――


 ここに立つのが、母であるはずがない。


「ツキヒ――」


 蕪太郎は、自分につけられるはずだった、母の愛が籠った名前を呟く。


 ドアの隙間から顔を出したツキヒは、青白く輝く月のような、妖艶な笑みを浮かべていた。



   *   *   *



「協会の動きに……どうもきな臭いもんを感じるんだ……」


 百々さんがボソリと呟いた。


 校舎を取り囲む数十人の白装束が、太鼓のリズムと管楽器のメロディーに音にあわせて舞っている。

 音楽の授業で習った雅楽のような、荘厳な音と画の融合。


 その鮮やかな絵画に墨を垂らすようにして、百々さんはポトリポトリと言葉を漏らす。


「あの男はさっき『鷹を操る』と言った……。それはつまり、ツキヒとやらを消滅させるんじゃはなく、あくまでも()()()()()()って認識から出た言葉なんじゃねえか……?」


 三浦さんが百々さんを見た。

 その目には戸惑いが揺れている。


「それって……ツキヒを生かしたまま、何かに封じ込めるだけ、って事ですか?」


「ああ。ここまでの大規模な儀式を行なって、協会の目的が『危険の排除』だけとは考えにくいだろ。あいつらはそんな慈善組織じゃないはずだ……。それにツキヒの持つ『名付け』の力は、消滅させてしまうには惜しい……そうだろ?」


 百々さんは白髪を掻きむしる。


「きっと、呪具に封じるんですよね……?」


 三浦さんの言葉は懇願にも聞こえた。僕も、考えたくない可能性で、頭が塗りつぶされていく。


「もう一つあんだろ。ツキヒと最も縁の深いモノが、あの中によ……」


 百々さんは校舎を睨みつけ、足を踏み出した。


「あいつら……あたしの孫の身体に、ツキヒを封じるつもりなんじゃねえか……?」

最終決戦です。

でもこれは『かぶちゃんの戦い』です。


引き続きどうぞよろしくお願いします(*´Д`*)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
う〜〜〜〜! いい! 赤青鉛筆の描写なんか、サイコー! (>▽<) 地の文で背景を描いて心理描写していくこと。これ、やれない人多いんですよね。 いや、ドラマやアニメなんかでもやれてない作品多いです。 …
着飾れば強くなれるなら。 動物界ではクジャクあたりが一番強いだろうね。 ていうか派手な格好のオヤジが白装束の女の子をそばに置いてる……ルキアちゃんの処刑時よりも絵面がヤバい事に(;゜Д゜) そんで…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ