19. 求めていた真実
「彼女の魔エネルギーはほとんど空っぽじゃぞ!」
「あー、魔女と出会ったし、今町にバリアをかけたからニャ」
猫が言った。
「それを早く言え!もう一回呪文を唱えてしまったら、魔動脈は燃え切っていた」
レーシーはイライラしている声で怒鳴った。
優奈は茫然とした眼で周りを見渡そうとしたが、景色は目まぐるしく舞を舞っていて、眼のピンはなかなか合わなかった。
「これを飲んで。毒じゃないから安心しな」
誰か彼女を地面に座らせた。
「少し休めば回復するぞ」
優奈は頷き、目を瞑った。確かにレーシーの言う通りだった。五分が経ったか経っていないうちに視力も正常に戻り、ふらふら感も跡形もなく消えた。
「君は魔法を使いすぎていた。それは一番のあるまじき行為じゃ」
──誰がそうさせたのか!?
「わしは作った薬はすぐに魔法の力を回復させるぞ。しかし一月、魔法を使ってはいかん」
とかくするうちに優奈は安堵して、柏の近くに倒れていた木の幹に登った。彼女に倣ってバユン猫も登って丸まった。背の低いレーシーが倒れ木の傍に椅子もどきを魔法で作って、低く呻きながら腰を下ろした。
「結局、守護者とは何なんですか?一体、何を守護するんですか?魔法の泉は何なのかは、検討はついていますけど、守護者のことはいまだにさっぱりわかりません」
優奈はレーシーに言いかけた。
「それにどうして鍵を握っているのはレーシーさんですか?」
「おー、かなり深く掘ったの」
森の主は感動した。
「君は魔法の泉は何だと思うのか?」
「この世界と神を生み出した神です。でも時を経て、人間たちはその神を忘れたしまったせいで、魔法の泉は無に去った。でも何で私なんかを……?」
優奈は本でも読み上げているような声調で話した。
「素晴らしいです!」
傍から猫の感動の声が響いた。
「さすがですニャ」
「あー、君の言う通りじゃ。この老いぼれの話聞いてくれ」
レーシーは微笑み、束の間考えた後に話し始めた。
「昔は島も、陸も何もなかった……」
古、ホルト島も陸も何もなかった。しかしある日、上下左右のない虚無の中に光が生まれた。小さくてもろい光だが、その光こそ魔法の泉となった。
その光から頂点に立ち、神々にとって父という存在──ロード神が生まれた。それに続き他の神々も生まれ、力を合わせて天、地や人間を造った。神々の手によって造られたものには、魔エネルギーが含まれていたせいで、神々以外な存在でも魔法を使えるようになった。
それから神々自分特有の地──プラ―ヴィを創造し、そこで世界を見守りながら、静かに暮らしていた。
時は経ち、ヤーヴィと名付けられた地では、精霊たちはどんどん進化を成し遂げて行った。ガラス細工のように脆い人間も強くなろうと、技術に励んだ。しかし、新しい機械を生み出せば生み出すほど、魔力は消えていき、やがて魔法を使える人間がほとんどいなくなってなってしまった。
魔法の泉の名残は眠るこの島だけに魔法は残った。
こうして魔法の泉の存在が忘れ去られた。しかし、彼女は消えたわけではなく、ずっと魔法を放ちつつ、静かに存在を続けた。
ある日、プロトルチェ町に除け者の運命を持つ、小さな女の子が生まれた。その女の子は皆と同じように魔法能力を持っていた。大きくなればなるほど、彼女の心の中に恨みが増していった。ある日、絶頂に極まった怒りは呪いに変形してしまった。復讐に飲み込まれた少女はプロトルチェ町民に死を願った。それから魔法を使った人はもがいて死んでいった。
魔法を使うことができなくなった町民たちが自分の罪を隠そうと、魔法のことや魔女のことを忘れることにした。だが魔女はそれでも安堵できなかった。彼女はこの島丸ごと消したいと思っただろう。それで彼女は魔法の泉のことを知った。その力があれば、復讐できる、彼女はそう思った。
「わしはずっとこの島を守り続けていた。島を、魔法の泉を。森の主として。しかし、わしは自分の宿命を果たせなかった。だから彼女は君を守護者として呼び出したのじゃ。君はこの島を守り、魔女を倒さねばならん。それは君の宿命だと思う」
「どうして魔法の泉は自分の力で守らないんですか?」
「神は人間にちょっかいを出すことができん。それが掟じゃから。それに今の彼女には人間に関する知識も、力もない。わしにもない。しかし君にはある」
「私の魔力が……」
優奈は呟いた。
「魔法の泉は自分の魔法を全て君に上げ、自分の後継者かつ最後の傑作にするつもりじゃろう」
最後の傑作。この島を守るために創られた神の力を含んでいる人間だ。それは優奈が求めていた答えだった。
「私は、いつか、地球に帰れるのでしょうか?」
少女は静かに囁いた。
彼女は質問を聞き、レーシーはゆらりと頭を振った。
「帰れないでしょうニャ。異世界までのテレポートを開けることは難しいからね。神の力を持っているあニャたにも無理です」
「じゃ、どうやって魔法の泉は私をここに移動できたの?」
優奈は必要以上にきつい声で聞いた。
「何年も準備していたでしょう」
代わりに猫が答えた。
「それに、君はここに必要じゃ、優奈ちゃん」
風の音と聞き間違えられそうなほど低い声でレーシーが囁いた。
異世界から来た少女は暫く虚ろな目で見るとなしに見ていた。彼女は答えを見つけた。ならどうしてこんなにも泣きたいのか?黒い瞳から塩辛い涙が出て、血色の頬を通してぽたぽたと土に流れていった。優奈は鼻をすすって、息を調えようとしたが、やがて溢れ出る感情の嵐に惨敗してしまい、おいおいとむせび泣きだした。
「お母さん、お父さん」
優奈はまるで子供のように拳で目を拭きながら、囁いた。
レーシーは促すこともなく、優奈の肩を撫でていた。立ち上がって、どうしたらいいか知らないバユン猫が戸惑いながら佇んで、呼吸を潜めていた。彼は泣いている生き物が苦手だった。泣いている少女たちは尚更だ。
暫くすると優奈は泣き疲れてしまい、茫然自失のまま前を見つめていた。
「私にはそんな任務が果たせるのでしょうか?」
やがて彼女はしゃっくりしながら聞いた。
「君はもう立派に果たしておる」
優奈は驚いた顔を上げて、老人の目を覗き込んだ。
「わからないのか?君はヴォジャノーイを救った時や、命がけでバユンを救った時は、君がすでに守護者としての使命を果たしておったじゃ」
レーシーが微笑んでから加えた。
「その他はわしが教える」
その日以来、優奈は時期森の主の訓練を始めた。