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八話 魔人、厄介事が続く

 決闘はバリーの勝利で終わった。

 副団長であるフィオルが負けるとは思っていなかったのか、彼の取り巻きたちはかなり慌てた様子であった。中には、勝敗に文句があったのか、バリーに対して剣を抜こうとしたものまでいる始末。

 しかし、抜こうとしただけであり、結局のところ、バリーが取り巻きと戦うことは無かった。

 結果、彼らは気絶したフィオルを連れて行きながら、バリー達の前から姿を消したのだった。


「あのよぉ。今更聞くけど、追い返して良かったのか?」

「本当に今更ね!?」


 決闘をした後にその台詞が出るとは。

 カタリナもそうではあるが、バリーもバリーで結構な行き当たりばったりなところで動いているのだろう。

 そういう点でみれば、二人は案外似た者同士と言える。


「……いいわよ、別に。どの道、私はセシルに会うまで帰るつもりないし。それに、永遠に帰らないってわけじゃないんだから」


 フィオルの取り巻き達が去っていく最中、カタリナは彼らに言った。

 やるべきことをやれば、自分は帰る。だから、どうかそれまでは放っておいて欲しい、と。

 何度も言うようだが、カタリナはセシルを探している。それだけだ。彼を連れ戻そうとか、彼と共に行くとか、そんなことは考えていない。ただ、会って話したいだけ。

 けれど、それが事実だとして、周りが理解してくれるとは限らない。


「とは言っても、それではいそうですかって了承される程、世の中甘くねぇだろ。特にオマエは立場が立場だしな。というか、よくギルドやら教会やらから承諾を得られたな。普通、幼馴染を探しに行きます、なんて超個人的なこと、受け入れられるわけないと思うんだが」

「ギルドに関しては別にそこまで難しくはなかったわ。結局あそこって、個人に仕事を配っているようなものだし。私がいないからって別に問題が起こるわけじゃない。まぁ、教会に関しては色々と小言を言われたけど。それこそ、聖女がそんな個人的なことで行動していいわけがない、とか何とか」

「つまり、さっきみたいな奴は、そう珍しくはなかったと」

「そういうこと。むしろ、ああ言う人の方が多いわよ……っていうか、アンタ、私の記憶見たんでしょ? だったらそれくらいのこと、把握しておきなさいよ」


 言われて、バリーは頭をかきながら、答える。


「あー、その指摘はご尤もだが、生憎とオレが見た記憶はごく一部だ。それこそ、オマエと幼馴染に関してがほとんどだ。だから、今の世の中の常識やら普通のこととかも、そこまで理解しちゃいないのさ」

「えぇ……なにそれ。人に常識云々言ってたくせに」

「別に、嘘は言ったつもりはないぞ。オレが知らないのはこの世界の常識。人としての当たり前のことくらいは、把握してるつもりだ」


 まぁ、彼がそれを考慮した上で行動するかはまた別の話だが。

 そもそも、だ。彼自身も言っていたように、人間としての普通であれば、そもそもバリーは魔人になどなっていないのだから。


「そういうわけで、今のオレには知らないことも多い。だから、色々と聞いていくこともあるから、よろしく」

「よろしくって、ノリが軽いわねぇ……さっき、あんな戦いしてたくせに」


 王国騎士団の副団長すらも一方的に倒した。言い方は悪いが、あれは完全に相手を弄んでいる状態だった。それだけ、バリーの力は強い、ということだ。


「あれで、力が弱まってるって言われても、正直納得できないんだけど」

「事実だ。実際、今のオレは力は大幅に下がってる。道具も七つしか使えないからな」

「道具を七つ……?」

「ああ。オマエも何度かみてるだろ。【ブラックソード】。あれは、オレが仕える道具の一つだ。本来は七十七の特殊な道具を持ってるんだが、今使えるのはその十一分の一。つまり、七つしか使えないってわけだ」


 本当の力、そして道具。それらを制限されている今の状態は、全盛期と比べて明らかに弱体化している。他人からしてみれば、強者だの、化物だのの類になるかもしれないが、少なくともバリー自身は絶好調とは言えない。


「ま、それでもオレが強いことには変わりないがな」

「その発言はどうかと思うけど……まぁ今のところ事実だし、否定はしないけど」


 バリーの強気な態度。しかし、それに見合った実力は本物だ。上級の魔獣、そして王国騎士団の副団長を倒したという実績。カタリナもその点に関しては、バリーの事を認めている。


「じゃあ、他にどんな道具があるの?」

「どんなって……【ブラックシールド】だろ? 【ブラックリング】に【ブラックブック】、あとは……」

「ちょっと待って。何で全部にブラックがついてんの?」

「仕方ねぇだろ。今のオレが使えるの、ブラックシリーズしかないんだから」

「え、何それ。ブラックシリーズ? ……超ダサいんだけど」

「喧しいわ! そんなの作った本人に言え。……まぁ、オレも少し、ネーミングセンスどうなんだろうって思ってはいるが」

「思ってたんだ……」


 当然である。流石に、色が黒だから全部の名前にブラックをつける、というのは、バリーでももうちょっと考えるべきだと思う。

 しかし、道具の名前がアレだからといって、能力も同じというわけではない。


「ブラックシリーズは、昔、ある錬金術師が作り出した、七つの道具だ。そのどれもが強力な力を持ってる。まだ封印される前のオレは、それらを全部探し出して、自分のモンにしたってわけだ。集めきるのに、結構な苦労はしたがな」


 それこそ、命を張る場面を何度もくぐり抜けて、ようやく彼はブラックシリーズを揃えることができたのだ。無論、他の道具も強力なものばかりで、それこそ全てを使用可能になれば、国の一つや二つ、簡単に落とせる自信はあった。

 しかし、それでもどれが一番思い入れがあるかと言われれば、やはりこのブラックシリーズだとバリーは断言できる。


「とはいえ、オレが使うのは基本【ブラックソード】だがな。一応オレ、剣士だし」

「そこで一応なんて言葉が出てくるのが、なんかアンタらしいわね……」

「何だ。ちょっとはオレのことが分かってきたってか?」

「こんな短期間でも、そりゃこれだけ性格が濃い奴を相手にしてたら、そりゃあね」


 言ってくれる、と言いながら、笑みを浮かべていた。

 すると。


「あ、あの」


 ふと、そこで自分達を呼ぶ声に気付く。

 振り向くと、そこには赤髪の少女がいた。歳は十四、五といったところか。服装は質素な感じであり、街の人間、というよりどこかの村から出稼ぎにきたばかりな雰囲気を醸し出していた。


「失礼ですが……その、そちらの方は聖女様で間違いないでしょうか」


 バリーはカタリナに視線を向けると、聖女と呼ばれた少女はどうしたらいいのか、などと言いたげな顔を一瞬だけする。

 しかし、流石聖女というべきか。困ったような雰囲気を一瞬で消し去り、落ち着き払った口調で言う。


「ええ。そうだけど。何か用かしら?」

「っ!? や、やはりそうですか。先程の騎士様がそう仰っていたので、もしやと思って声をかけたのですが……」


 そういえば、先程フィオルは公然の場でカタリナのことを聖女だと言い放っていた。

 全くもって傍迷惑な男であったが、まさかいなくなった後でもこうして面倒事を舞い込んでくるとは。

 いや、面倒事と決め付けるのはまだ早い。ただ聖女と聞いて、話がしてみたかったとか、そういう類のことなのかもしれない。

 しかし。


「あの、あったばかりでぶしつけだというのは重々承知です。ですが、どうかお願いします!! 私の村を救ってくださいませんか!?」


 現実はどこまでも非情なもの。

 少女の言葉によって、バリー達は、新たな厄介事に巻き込まれるのだった。

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