炎上する祭
-第52説 炎上する祭-
祖父母を見送ってからは、童心に帰るような遊びばかりを二人でやった。
田んぼでは蛙やタニシを、山ではカブトムシや蝉を捕まえて、川では水切り。
馬鹿馬鹿しいと思うかもしれないが、これが中々に楽しい。しかも、途中からは地元の小学生も加わって、会話も賑やかになる。
時間が過ぎるのはあっという間だった。
それは、小学生達と別れる頃には、辺りが暗く、田んぼの道さえも見えずらくなっているという程。
だが、楽しい時間はこれで打ち止め。
目を見合わせ笑う二人の間に、大きなサイレンの音が割って入る。
「なんだ? 」
慌てて周囲を見渡すと、祭りが行われる山が真っ赤に燃えているではないか。
「そんな………! 」
選也は恐怖した。
あそこにはまだ、祖父母や村の人達が残っているかもしれない。
思うより先に、身体が山に向かって動く。
(待ってくれ、やめてくれ! )
慣れた道のり、燃え盛る山の中にある祭り会場は、直ぐに見えてきた。
屋台の骨組みは黒く炭化し、崩れ、燃えやすいビニールの屋根はもう残っていない。
「誰か! 誰か居ますか!? 」
選也の声も虚しく、火の中に消えていくばかりだ。苦しい表情を浮かべる選也に、秀真が後ろから声をかけてくる。
「選也、あそこだ。」
秀真が指差した先には、倒れた木の下敷きになっている、見慣れない男。
しかし、その格好には見覚えがあった。
「あれって………まさか。」
彼が着ているのは、忘れたくても忘れられない《神徒連盟》のローブ。
そして、よく見れば彼の周囲に、人の身体だっただろう黒ずんだ肉塊とローブの破片が散らばっている。
気をとられていた選也の手を、秀真が強い力で引き寄せた。
「避けろ! 」
そのすぐ後、男の上に人間ほどもある炎の球が一つ落ちてくる。
「!! 」
いや、あれは炎の球じゃない、人間だ。
人間が炎を纏って落下し、周囲を燃やしているのだ。
炎の中から現れた上裸男は、黒いズボンで包まれた足を此方に向けて、不機嫌な顔をする。
「おいおい、まだ残ってんじゃねぇか。 面倒くせぇ。」
大きな欠伸の間に、秀真が囁いた。
「選也、気を付けろ。アイツは《火の賢者》のエルドだ。近づいたらこんがり、ウェルダンに焼かれるぞ。」
冗談なのか本気なのか全く分からない説明、しかし、どう見たって危険なのは間違いない。
選也が構えるより先に、魔力を帯びた火の粉に反応して、紫烏が現れる。
男は眠そうな目をこすって、烏と選也を交互に見た。
「ありゃ、そいつは《ダバア》の烏じゃねぇか? てことは、俺の《たーげっと》はお前ってこと? 」
烏に反応したのはエルドだけではない、秀真も烏を見て驚いている。
「選也、それ、都市の最高位研究者の烏だろ。そんなの、どこで手に入れたんだよ。」
まあ、一番驚いたのは選也だったが。
「え、こいつ、そんなに凄い奴なの!? というか《ターゲット》って何!? 」
しかし、聞いた相手が悪かった。
片方は選也を《標的》だという殺し屋もどきで、もう片方は言いたいことしか言わないマイペース野郎、まともな回答が返ってくるわけがない。
分かってはいたが、問答無用で戦闘が開始し、更に悪いことに、選也の真上からは幾本もの雷が降り注いだ。
「げっ、まだ敵がいるのかよ。」
魔法なら烏がほぼ確実に庇ってくれるが、数が増えれは防ぎきれなくなる可能性もある。
三人の上空に居たのは、美しい着物を着た、髪の長い女だった。
女は言う。
「ええ、ご名答。私もあなた達の敵よ。名前はファロン、《雷の賢者》、以後お見知りおきを。」
選也は彼女の姿に見覚えはないが、魔力なら知っていた。だから、選也は彼女に目一杯の嫌味を込めて、こう言う。
「そういうのは、初見で名乗るべきだろ、お姉さん。」
この魔力を感じたのは、《ダバア》が雷で消されたあのとき。
「借りは返すよ。」
次の瞬間、秀真を除いた、その場にいる全員が臨戦態勢をとった。
つづく。




