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魔法でよくね?  作者: 富士見の娘
世界を動かす魔法編
51/54

祖父母と祭の話

-第51説 祖父母と祭の話-


「なにこれ、スゲー旨いじゃん! 」


よく晴れた昼下がり、古い日本家屋の縁側に腰かけて、秀真は良い音を立てながら、胡瓜(きゅうり)を嬉しそうに貪り食っている。


当然、大きな荷物を抱えてその後ろを通りすぎようとした選也は彼に声をかけるのだが。


「おい、自分の荷物くらい運べよ! 」


当の本人は「ええー? 」と不満そうに声を上げ、反省するどころか、手に持った胡瓜をこれ見よがしに掲げてくる。


「荷物なんて後でいいじゃん。選也も食べようぜ、じぃちゃんの野菜。」


選也はすっかり呆れてしまった。

そういえばこいつは気分屋で、気が向けばやるが、それ以外は絶対にやらない。


争っていても仕方がないので、選也は全ての荷物を一人で運ぶことにする。



荷物を運び終えて、秀真のいた縁側まで戻ってくると、そこには野菜の入った篭を持つ祖父と、お茶を飲んでいる祖母もいて、秀真はなぜか猫と鳴き声を交わしていた。


不可思議な光景に立ち尽くしている選也に、祖父がいち早く気がつき、声をかけてくる。


「おお、選也、終わったか? 」


選也はよく分からないながらも、祖父の言葉に頷いて、とりあえず毎度と同じく、促されるまま、祖母の隣に座った。


すると今度は待っていたように、祖母が選也に話しかけてくる。


「今ね、選ちゃんのお友達とお話をしてたんだけど、とても面白い子ね。」


選也は言われて、秀真の様子を見ると、彼は相も変わらず、年老いた飼い猫に向かって鳴いたり、ちょっかいをだしている。まるで小学生だ。


「お婆ちゃん、アイツは面白いんじゃなくて、ただの馬鹿なの。」


秀真は選也の言葉に直ぐに反応する。


「誰が馬鹿だ! 猫が可哀想だろ! 」


この言葉、わざとなのか、本気なのか、選也は一瞬考えてしまったが、直ぐに『いや、どっちでもいいか。』と疑問を噛み殺して、秀真を怒鳴った。


「猫じゃなくてお前に言ってんだよ! 」


祖父母は暫くそんな二人のやり取りを微笑ましそうに見ていたが、生け垣の向こうから声が聞こえたため、そちらを向く。


そこに居たのは、祖父母の家の隣に住んでいる50代くらいの男性、吉野さんだった。


吉野さんは選也の祖父が気がついたのを確認すると早速、用件を話し始める。


「狭間さん、今年も祭りの準備、お願いしますね。道具はもう、会場に持っていってあるので。」


祖父は元々了承していたのか、それに直ぐ頷いた。


「ああ、吉野くんも頼むよ。いい祭りにしような。」


吉野さんは祖父の返事を聞くと、嬉しそうに「ええ。」とだけ答えて、山の方に向かっていく。


選也は、縁側に荷物を置いて、出かける準備をする祖父に聞いた。


「お爺ちゃん、今年も祭りの手伝いやってんの? 俺も手伝おうか? 」


しかし、その答えよりも先に、好奇心に背中を押された秀真が質問を重ねたために、話はそれてしまう。


「なぁ、祭りってなんの祭り? いつやるの? 」


祖父はその勢いにやや押されながらも、丁寧に答えた。


「《炎命神》っていう、火の神様のための祭りだよ。ここはこんな山だし、火事が多いから、少しでも火事が少なくなるように、お祈りするんだ。やるのは明日、君も選也と一緒に来るといい。」


思わぬ誘いに、秀真はいつもより上機嫌に跳び跳ねる。


「やった! 俺、神様のご機嫌とりなら得意なんだ、盛り上げてやるよ! 」


反対に、選也は頭を抱えた。

この態度で祭りに来られたら、一緒に行く選也も目立ってしまう。


選也は少しでも頭を冷やして欲しくて、秀真に言葉をかけた。


「秀真って神様とか信じてるわけ? 」


秀真はきょとんとした顔で選也の方を見る。


「うん、信じてるよ。だって、神様が居なかったら、強い奴は絶対に罰を受けないだろ? そんなの悲しいじゃん。」


選也はそれがなんだか秀真らしくない言葉に聞こえて、笑いながらも、その意味を尋ねた。


「なんだよ、それ。誰か金持ちにでも虐められたのか? 」


だが秀真は、特別な反応をするでもなく、いつもの調子で説明する。


「いや、違うよ? 俺は正義だ何だってことで、動きたくないだけ。そういうのは、神様に任せたいんだよ。」


選也は笑った。


「とんでもない奴だな。こんな奴に付き合ってたら、祟り神になりそう。」


秀真も選也に合わせて直ぐに笑う。


「そうかもな。」


表情が一瞬、曇ったように見えたのはきっと気のせいだ。


その会話の後、祖母が戸の方から、


「私たちは祭りの準備に行ってくるけど、選ちゃんは折角ここにきたんだし、お友達と遊んでなさい。」


と言ってくる。


選也は慌てて準備についていこうとしたが結局、秀真に無理やり手を動かされ、「いってらっしゃい。」と見送る羽目になった。



つづく。

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