洗脳と烏と正義
-第48説 洗脳と烏と正義-
音の主は、硝子を割って部屋に飛び込んで来た、紫の大烏だった。
大烏が選也の上に覆い被さるように降り立つと、それに続くように、大量の何かが当たる音、そして、刃物で肉が切り裂かれる音が響く。
選也は翼で作られた闇の中で詠唱し、光が差し込んだ瞬間に、智美が使っていた吹雪を起こす《神術》を発動させる。
部屋の中央付近にいる選也が放ったその術は、部屋全体を掻き回し、次々に警官達から銃を奪う。
風に流され、困惑した様子の警官達の間を縫って飛び出してきた、魔法使いの、氷を纏わせた木刀による斬撃は、烏が目にも止まらぬ早さで身を乗り出して受け止めた。
選也は、洗脳犯が反動で大きく後ろに体勢を崩したその隙に、彼に向かって弓を構えるが、それは横から飛びかかってきた警官の身体によって止められてしまう。
(くっ、やっぱりこの烏にも、魔法以外に対する自動防衛機能は無いのか。)
身動きが取れない選也の周囲で、ようやく状況を理解した警官達が、風に逆らって、飛び交う銃を拾い始める。
流石は普段から鍛えている人間と言うべきか、魔法で風を防がなければ立っていることさえ難しい選也とは違うらしい。
選也の上にのし掛かる警官は、周囲を包み込む騒音よりも大きな声で、選也を怒鳴った。
「お前みたいなのがいるから! 普通に暮らしている人達が泣きを見るんじゃないか! これ以上、悪さはさせない! 」
そんな彼の身体を、選也は魔法で強化した蹴りで突き飛ばし、そして、周囲の銃声に合わせて、さっきとは別の《神術》を放った。
今度は火山で習った、炎の術。
媒体には銃の火を使い、銃と、そこから放たれた弾を融解させる。
だが勿論、これで話が済むわけがない。
魔法使いは警官達の足元に、転移系の魔法を呼び出して、中から武器を取るように指示した。
選也は歯噛みする。
(キリがない! )
武器を奪うのも駄目、かといって、正義感で動いている警官達を傷付けることもしたくない、でもしなければならない。
だから、
「あんたの正義はどこにあるんだ! 」
この言葉は選也の精一杯の、魔法使いへの抵抗だった。
言葉の後、選也に向けられる銃。
選也は彼らを傷付ける覚悟をする。
しかし、その弾丸が撃ち抜いたのは、選也では無く、魔法使いの方だった。
「!? 」
一瞬の出来事に言葉を失う、洗脳犯と選也。今、理解できるのは《洗脳》が解けたという事実だけ。
正気を取り戻した警官達が、魔法使いを取り囲む。
「罪状は分からないが、俺たちの正義からして、悪いのはお前だ! 」
もう、選也が手を出さずとも、あの男は警察から追い出されるだろう。
しかし、そう安心した直後、やはり邪魔が入る。
壁を抜けてぞろぞろと、ローブ姿の男女が入ってきて、警官たちを銃やら剣やらで蹴散らし始めたのだ。
つづく。




