持ち上がった疑惑と親友の言い分
―第4説 持ち上がった疑惑と親友の言い分―
「あいつが最後に言ってた言葉、なんだったんだ? 」
選也の言葉に、彼の親友は首を傾げ、
「え? あのモブキャラっぽい発言の? 」
と、とぼけた顔でそんなことを言う。
「まぁ、そうだけど、そうじゃない。」
選也は自分の真剣さが伝わって無いことを感じながらも、もう一度問い直した。
「魔道都市がどうの、ってところだよ。」
しかし、秀真は態度を変えない。彼はいつもの調子で、
「魔道都市? ああ、あるよ、というかあったよ。それが? 」
と的はずれな回答をしてくる。
選也は出来る限り厳しい顔を作って、秀真に言った。
「お前、真面目に俺の話聞いてる? 」
「え、聞いてる聞いてる。なんで? 」
それでも、秀真は頑ななまでにその態度を変えなかった。だから選也は、「もう、いい」と短く言って、秀真にそのまま直球で疑問を投げることにした。
「じゃあ、答えてくれ。魔道都市も魔法も本当にあったなら、《それをお前が壊した》ってのも本当なのか? 」
勿論、疑っている訳ではない。この質問は「嘘だ。」と答えてくれるのを期待しているのだ。
「………。」
秀真は選也の目を見て、少しの間沈黙したが、また表情を笑顔に戻して答えた。
「俺は《なにもしてない》よ。」
選也はそれに少し被せるように怒鳴る。
「なんだよ今の間!? 怖いよ! 」
秀真はへらへらと笑った。
「いやー急に思いもよらない質問されたからさー。ネタでも言おうと思ったんだけど、思い付かなかったわ。」
「こんなとこで芸人魂出さなくて良いよ! 後、あいつのあんな発言があったら、この質問は予期できただろ!? 」
選也は内心安堵しながら、親友にいつものようにツッコミを入れる。
すると、秀真もいつものように、冗談っぽく言葉を繋ぐ。
「えー。俺、心を読む魔法は使えないからなー。」
「だろーな! お前は心どころか空気読めねーもんな! 」
「あと、古文と英文も読めないぜ! 」
「さすが古典と英語のテストで丸一つ無い解答用紙を貰った勇者! 」
選也はそう言った後、もうそろそろこの暴走を止めようと「そうだ。」と話題を変えた。
「この本、暫く貸して欲しいんだけど。いいか? 」
選也の手には、さっきから持ったままの魔道書がある。秀真はそれに目を向けると、目をしばたかせた。
「ん? その、『猿でも分かる! 魔法指南書! 』のこと? 」
「そんな題名なの!?」
選也はぎょっとして表紙を確認する。
すると、そこにはデフォルメされた、謎としか言いようがないキャラクターと、《猿でも分かる! 魔法指南書! ―これで出来なきゃ猿以下よ? ―》という文字が確かに入っている。
「マジで魔道都市にもあるのかよ! 猿でも分かるシリーズ! 」
選也は本を地面に叩きつけた。
秀真は驚愕の表情と冷や汗を浮かべながら、慌てて本を拾う。
「なんで投げるの!? 偉大な猿でも分かるシリーズ様を!」
選也は怒りに満ちた表情を浮かべて言う。
「そいつは俺の魔法使い=賢人というイメージを壊した。」
「やめて! その台詞、これ読んでも分からなかった俺の心にダイレクトダメージ! 」
「おまえ、猿以下かよ!? 」
「そうだよ! 悪かったな! それやるから、もうその話題やめよ? ね? 」
「え? くれんの? 大事なもんだろ? 」
「いや、別に。それ、タンスの高さ調整位にしか使わないから要らない。」
「さっきの偉大発言どこいった! 」
「そんなこんなで。
タラララッタラー、選也は魔道書を手に入れた! ただちょっと湿っている………。」
「RPG風!? てか湿ってんの、あ、本当だ!! 」
「濡れた地面に投げたからな、お前が。」
「悪かったって………。それよりさ、猿でも分かるシリーズ以外の魔道書って無いの? もっとほら、ちゃんとしてるやつ。」
「名前をそこに書いたら死ぬ系? 」
「なんでその仕様!? それ魔道書じゃないからね! フツーにこれみたいに、魔法の使い方とか分かるやつ! 」
「うーん、あったと思うけど………。どの棚の下に挟んだか忘れたわ。」
「他のも高さ調整に使われてんのかよ!? 」
「厚みがあって、いい感じだったから、つい………。」
「気持ちは多少分かるけど、流石にやめて! こういうのは神聖なもんだから! 」
「神聖なる家具達の守護神。」
「そんなの俺の知ってる神聖じゃないやい!」
「まぁ、気が向いたら探しといてやるからさ。今日は帰ろうぜ、流石にこの強気ファッションで過ごすのはキツいわ。」
「そうだな、俺も変な目で見られそうだし。」
選也はそう言って歩き出した秀真の右腕に、目を落とす。その傷跡はやはり酷く痛々しい。なのに、親友はそれを当たり前のように受け入れている。きっと、襲撃は今回だけで済む話ではないんだろう。
選也は同じことが起きない方法を考えた。
そして、ただ一つ思い付いたのは、《秀真の無実を証明する。》というものだった。
それから、そのために必要なことを考える。
(魔道都市とはなんだったのか、そこで何が起きたのか………。)
きっと秀真は聞いても答えてはくれないだろう。普段から秀真は真面目な話題には取り合わないやつだ。ちゃんと魔道書を探してくれるとも思えない。
選也は、自分一人で出来ることを考え始めた。
―つづく―