魔法使いの襲撃、そして戦闘
―第3説 魔法使いの襲撃、そして戦闘―
ローブを着た謎の男は、槍を強く掴んだ両手を振り上げ、その切っ先を此方に向けて飛びかかってくる。
口を開けたままそれを見ていた選也とは違い、選也とは少し距離をおいた位置にいた秀真はカバンからペットボトルを取りだし、流れるように槍の先端へと投げつけた。
秀真が投げたペットボトルを槍は貫き、ペットボトルは殆ど破裂するように水を吹き出す。そして空中に飛び散った水は、槍が秀真を捉えるより先にその場で魔方陣を展開する。
秀真は自分の心臓へと近づくローブ男の槍とすれ違うように右手を伸ばし、展開された魔方陣から男に向けて水を噴射する。
男はそれに気づくと、向けていた槍を自分の手元に戻して、胸の前で横向きに構え、防護陣のようなものを展開し、更に足元にもう一つ展開した魔方陣を蹴って、後ろに飛び退いた。
ほんの一瞬の出来事に、選也は困惑する。
理解が追い付かず、開いたままになっていた彼の口からは無意識に言葉が飛び出していた。
「いきなり、なんなんだよ! 」
しかし、その声が届かないうちに、男はアスファルトの上へ降り立ち、今度は地面に槍を突き刺した。すると、男が突き刺した場所を中心に先程まで使っていたものよりひとまわり大きい陣が現れる。
秀真もそれと殆ど同時に地面に広がった水に魔方陣を浮かばせる。
声が届いた頃には二つの陣は光を放ち、ローブ男の方からは10本の槍が召喚され、秀真の方からは水の渦が立ち上がった。
そして、男も秀真も選也の言葉には答えず、同時に魔法を相手に向けた。
両者の魔法はやや秀真に近い場所で衝突し、男の槍は渦に呑まれる。
しかし、一瞬のラグの後、渦の中から男の槍が秀真の方に飛び出した。
槍が見えるより早く横に飛び退いていた秀真の横に、9本の槍が突き刺さる。
もう1本は避けた秀真の頭上にあった。
気付いた秀真は直ぐに避けようとするが、間に合わず、その槍は、身を守るために構えただろう秀真の右腕を貫く。
槍がそのまま心臓を貫かなかったのは、やっと側まで戻ってきた水の渦が、槍を巻き上げたからだ。
しかし、息つく暇もなく、渦の中から槍と男が飛び出してくる。
秀真は直ぐに血を飛ばしながらも、両腕を前に突き出した。
それと同時に渦は、二人を包み込むドームの様な形状へと変貌する。水のドームは、地面に槍を刺して、それをバネに飛び、その場を離れようとした男を逃がさず、男に向けて急激に収縮した。
男の口から短い悲鳴が漏れる。
選也は会話の通じない二人と、その二人が次々繰り出す魔法に気圧されていた。
(こんなの、無茶苦茶だ! )
そして同時に、無力感にも苛まれていた。
この場で話し合う気があるのはきっと自分だけだ、なのに、自分には二人を止めるだけの力がない。
選也はその後ろめたさから目を背けるためなのか、それとも本気で殺しあっているだろう二人を見ていられなかったからなのか、乾いた黒い地面に目を落とした。
「ん、これ………。」
そこには、さっきの争いの中で飛んできてしまったのか、秀真のカバンと投げ出された本があった。そして、直ぐに目についた裏表紙には、魔方陣のような模様が描かれていた。
選也は咄嗟にそれを手にとって広げる、知らない言葉だらけだが、読めないほどではない。
選也は必死でページをめくった。
その間にも、魔法使い二人は争いを続ける。
男は空中で自分を押し潰そうとする水の壁を、叫びとともに呼び出した鉤爪のような武器で破り、その反対の手に魔方陣を作る。
その魔方陣からは鈍く光を湛えた大鎌が現れた。
秀真は武器を握った男の下の地面から、勢いよく水を吹き出させる。
それから、その水圧に押されて男が空中へと投げ出された隙に、すっかり水浸しになったアスファルトに手をかざして陣を作って、男がしたように、呼び出された武器を手にとる。
体勢を立て直した男に秀真が向けたのは、水で出来た銃だった。有り体に言えば、水鉄砲だ。
しかし、それから放たれた球の威力は玩具の比ではなく、狙いが外れた球がかすった電柱は大きく抉れた。秀真はそんな球を、男に向けて連射する。
男は球を避けながら、その隙をみては、秀真に鎌と鉤爪を代わる代わる向け、秀真はそれを銃を構えたまま避ける。
そんな一進一退の攻防に終止符を打ったのは、男を急に包み込んだ火炎だった。
秀真も男も酷く驚いた目をでその魔法を放っただろう術師に向けた。
そこには魔道書を片手に構え、もう片方の手を男に向けて突きだした、選也の姿があった。
男は不測の事態に驚いたのか、選也が放つ下級の魔法から逃げようとする。
選也は畳み掛けるように、慣れない呪文を早口に口にした。
何度も放たれる炎は、逃げる男を追い、男はどんどんと遠退いていく。
止めを打ったのは秀真だった。
秀真の放った球が、男の足を貫いたのだ。
すると男は諦めたのか、此方に向かってくる様子はない。
男は背を向けて、ポツリと言った。
「次はない、都市を滅ぼした罪は必ず償ってもらう。」
そして、傷付いた足を庇うようにしながら、町の隙間に消えていった。
それを確認した選也はやっと息をつく。
「よ、良かった。助かった。」
しかし、そんな精神を擦り減らした選也とは違い、秀真はその横でケタケタと笑っている。
「あいつ、出オチキャラみたいな台詞吐いて消えていったな。」
勿論、傷が浅かったという訳ではない。まだ腕からは血が、途切れ途切れに地面に落ちている。
「おまっ、その状態でそれ言うか!? いや、俺もちょっと思ったけどさ! 」
選也は秀真の顔色をうかがう。無理をして笑っているのかとも思ったが、そうじゃないらしい。本当に《気にしていない》のだ。
「あいつカッコつけてるだけに、逃げる姿が滅茶苦茶ダッセーよな! 」
秀真は床を叩いて爆笑している。
選也もつい釣られて笑った。
「ダサいってお前さ、そいつに重傷負わされてるお前が言うわけ? 」
「えー、そこんとこの記憶はカットしといてよ。格好いい部分だけ残しといてー。」
秀真は選也の言葉にますます笑う。
「カッコ悪い部分は消せばいいの? 分かった分かった、じゃあ、とりあえず全身にモザイクでも入れとく? 」
「いや、なんでだよ!? それだと俺自体がなんかヤバイ人みたいじゃんか! 」
「実際、今のお前かなりやべーよ。グロ注意だよ? 」
「なに言ってんだ、これぞ今流行りの欠損美だろ。」
「いや、お前の方がなに言ってんだ。」
そうやって、ずぶ濡れのアスファルトの上で暫く二人して笑っていたが、秀真は不意に立ち上がって、いつも選也を誘うような調子で、カバンを肩にかけた。選也もそれに続いて立ち上がった。
それ以上話をしようとしない秀真に、選也は後ろから疑問を投げ掛ける。
「あのさ、あいつが最後に言ってた言葉、なんだったんだ? 」
―つづく―




