雷鳴と異形の烏
-第34説 雷鳴と異形の烏-
日が落ち、街頭が点々と灯り出した頃、雪の僅かに残る住宅街の道を、選也は要らなくなった上着を左腕に掛け、急ぎ足で歩いていた。
理由は簡単だ。
先程まで無数の星が輝いていた上空には、突如として黒雲が渦巻き、その隙間からは時折、雷光が垣間見えている。
そろそろ一雨来るだろう。
「解決した途端、ゲリラ豪雨かよ。」
冬の雪に踊らされたばかりだというのに、今度は夏の悪戯な天気に、見舞われるとは、つくづく運がない。
しかも、更に悪いことに、次に選也が一歩を踏み出すと、前方の道に並ぶ街頭が壊れたように点滅を始め、仕舞いには烏の大合唱まで聞こえてくる。
「俺、なんかしたっけ。」
最早、不運では片付けられない悪天候。
これには流石の選也も恐怖を覚え、逃げるように走り出した。
しかし、想いとは裏腹に、走れども走れども、街頭の点滅は収まらず、烏の声や雷鳴はむしろ、徐々に近づいてくる。
「全く、なんなんだよ! 」
選也は悲鳴を上げながら、なんとかそれを振り切ろうと、自宅付近の曲がり角に方向をつけながら接近した。自分を包み込む声が、そこに自分を導いているとも知らずに。
選也の足が曲がり角まで4メートル程度という距離に差し掛かったところで、牽制するように、辺りを揺らすほどの低い鳴き声が辺り一帯に響く。
「え………? 」
選也が思わず、声のした方を見上げると、そこには、住宅の敷地に生えた巨木の頂点に堂々と体を据えた、毒々しい紫の大烏がいた。
烏は射竦められたように動けない選也を見下ろして、何度か疑問符を浮かべるように首を動かすと、弾かれるように、急に翼を広げて飛びかかってくる。
選也は慌てて、硬直する体を無理やり動かし、烏は火を怖がるという知識から、化け烏に炎を放った。
炎が烏を包み込むと、羽に火のついた烏は、驚いたように空中で方向を変え、距離をとる。
考えは当たっていた。
しかし、選也はその行為を直ぐに後悔することになる。火の光のせいで、見なくていいものまで見てしまったのだから。
「なんだよ、これ………!? 」
炎に照らし出された烏の姿に、選也は驚愕した。
当然だ、紫の烏の身体には手術後の様な継ぎはぎの跡が無数にあり、その目は白く濁っている。
そして、それを意識してしまったせいで、周囲の生ぬるい空気に運ばれた腐臭がその鳥から出ていることにも気づいてしまう。
「完全に死体です! 誰か、早急にヘッドショットを! 」
どうやら、この烏は生き物の死体を寄せ集め、それを繋ぎ合わせて作った、生きた死体らしい。
殺すことは出来ないが、追い払うくらいしないと、この街がゴーストタウン化しそうだと思った選也は両手に剣を呼び出して、火をつけ、戦闘体勢に入ったのだが、それは無駄だった。
なぜなら、烏は何かに呼ばれるようにどこかを見ると、選也の側からすぐに飛び立っていってしまったからだ。
「え、なんで? 」
自分に襲いかかって来たときといい、飛んでいった時といい、あの烏はあまりに唐突な行動が多い。もしかしたら行動を決定しているのは烏自身ではないのかもしれない。
選也は安心したような、何処かやり足りないような、なんだか複雑な心境になりながらも、雷の音に追いたてられて、家に帰ろうと歩き出した。
「ん? 」
そのとき、選也の靴に何かが当たる。
「これってもしかして………。」
それは黒い布製のカード入れだった。
選也はそれを直ぐに拾い上げて、中身を確認すると、表情を明るくする。
「やっぱり! 」
写真には幼いが確かに、悠斗の姿があったからだ。
-つづく-




