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魔法でよくね?  作者: 富士見の娘
追試奪還戦編
24/54

戦闘の回避とカナシ

-第24説 戦闘の回避とカナシ-


「逃がさんぞ! 」


草の賢者は、上空に飛び出した二人の姿に向けて腕を伸ばし、自身の操る植物達に追跡を命じた。


しかし、その蔓は二人の姿に届く処か、民家の屋根の高さも越えない内に、太陽の熱で焼かれたように灰となり、地面に音もなく崩れ落ちる。


老人はその様子から、犯人が誰なのか直ぐに検討がついたようで、後ろを振り返り、その人物を怒鳴り付けた。


「カナシ、邪魔をするな! 」


老人の視線の先に立っていたのは、灰色のパーカーのフードを目深に被り、学生鞄を肩に掛けた、小柄な青年である。


青年は、老人の言葉に反応すること無く数歩前に出ると、人差し指、中指と親指で挟んだ写真を突きつけた。


「これはどういうことだ。」


写真は廃工場内部にある、魔法陣を近くから写したもので、書かれた呪文から、細かい紋章までがはっきり見てとれる。


「こんなやり方はしない約束だろ。」


老人は、睨み付けてくるカナシを暫く、珍しいものを見るような目で見てから、彼を馬鹿にしたように嗤った。


「ははっ、約束だと? お前たちのような出来損ないとの約束を、なんで私が守らなければいけないんだ? 」


それから、大きく手を振るって、巨大な植物達を呼び出し、従えて、言う。


「私は私の正義を遂行するだけだ。」


明るい声とは裏腹に、その目は明らかな殺意に揺らいでいた。


青年は、老人が戦闘体制を整えたのを確認すると、鞄の紐と肩の間に挟んでいた片手で鞄を下ろすと、もう片手の写真をパーカーのポケットにゆっくり入れて、老人の目を見返す。


「正義………か。」


彼の声にこもった感情は、怒りというより、憐憫(れいびん)に近かった。

老人はそんなカナシの言葉に被せるように持論を主張する。


「ああ、そうだ、正義だ。《天罰》の魔法陣、これは、大罪を犯した水の賢者に相応しい処置だと思わないか? 」


そして、彼の言葉と共に植物たちは勢いよくカナシに向かって行った。

カナシは近づいてくる蔓を避けようとする素振りも見せず、老人に言う。


「そうだな、罪人は裁かれるべきだ。」


老人はその言葉に笑顔を浮かべた。


「そうだろう、裁かれるべきさ、水の賢者も、賢者の私に逆らった君もな。」


鋼鉄同様の強度を誇る植物は、その切っ先をカナシの心臓めがけて、打ち込む。


カナシは動かなかった。


変わりに、その全身から業火を放ち、周囲で動いていた、全ての緑を焼き払う。


「は? なん、だ、何が起こった? 」


自分が持つ限り、最高の植物を使って攻撃した老人は、理解の出来ない事態に唖然とした。


(燃えた? そんなはずはない! あの植物は火山に落ちたって燃えないぞ! )


カナシは、戸惑う老人の方に、静かに一歩を踏み出すと、その一歩で瞬く間に老人の目の前に到達し、老人の首元を掴んで持ち上げる。

老人は、そこでやっと事態を把握した。


「わ、わしが間違っていた! ぬしが正しい! もう約束に反するようなことはしない、助けてくれ! 」


カナシとは、理屈で埋められない程の大きな力の差があるのだと。


カナシは、助けを懇願する老人に、小さな声で言った。


「………賢者は誰一人として、水害で死亡しなかった。なぜだと思う? 」


老人は涙目でそれに、知らないと首を振る。それでもカナシは、老人の代わりに答えを言った。


「《抜け道》があったのさ。何かあった時に、都市から逃げ出すための、賢者しか知らない逃げ道が。」


震える老人の首にかかる力が強くなり、カナシの手からは炎が吹き出す。

老人はその這い上ってくる熱さに、死の恐怖を覚えながら、早口に訴えた。


「や、やめてくれ! わしはただ、逃げるのに必死で! それに、ぬしとて、それを知っていて助かっておるではないか! 」


カナシは、老人の言葉に唇を強く噛む。


「………僕があの抜け道を知ったのは、都市が沈んだ直ぐ後だったよ。」


彼が語った事実に、老人は困惑した。


「そんなはずない、それで、助かるはずが………! 」


予期せぬ水害、逃亡手段の無い箱詰めの都市から、どうやって生きて出られるだろう。

カナシは手の力を緩めること無く、強く、赤く燃えていく老人の服を握りながら、質問を重ねた。


「《賭命術》って知ってるか? 」


それから、老人が開こうとした口に、空いていた片手で炎をつっこむ。


「知らないだろうな、名前の通り、命を賭ける魔法だ。保身にしか興味のないお前が知るわけがない。」


自分の舌が焼けつく、異常な痛みに、赤子の様にぼろぼろと涙を溢す老人は、それでもまだ生きていた。


「僕の両親はそれで、僕を外まで逃がしてくれたんだ。都市の皆も、自分より、家族や友人を守ろうと、必死に足掻いてた………なのに! 」


カナシのフードの下からは、涙が浮かんだ、灰色の瞳が覗き、その手から放たれる炎の出力が上がる。


「なんで、そんな優しい人たちが死んで、お前が生きてるんだ! お前に、お前に生きる資格はないっ! 」


そして、その手から解放される頃には、老人は、地面につけば壊れてしまうほど、脆い、灰に変わっていた。


-つづく-

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