乱暴な通学の秘策
-第23説 乱暴な通学の秘策-
「これじゃ埒が明かねぇよ! 」
後ろを振り向きながら、走る秀真は悲鳴を上げた。
老人を口の一つに乗せた植物状の魔法生物は見た目に反して中々の俊足だ、このままでは、じきに追い付かれてしまうだろう。
「ていうか、あの根の回転速度キモすぎじゃね? どこに、どんな需要があって作られたのアレ! 新しい試み? 新しい試みなの、アレ!? 」
だが、錯乱する秀真とは対照的に、選也は静かに「まだ勝てるかな、時間的にもうキツいか? 」と自問自答していた。
「そしてお前はすぐにこっちの世界に帰ってこい! なんで既に自分の世界にINしてるの!? 馬鹿なの!? それとも新手の自殺志願者なの!? 」
秀真はすかさず選也の顔に拳を叩き込む。殴られた選也はそこでようやく秀真のことを思い出したように、目をしばたかせた。
「え、ああ、聞いてなかった。なんか言った? 」
秀真はその様子に、自分の頭を掻きむしりながらも、迫ってくる足 (?)音に追いたてられて、とにかく、要件を伝える。
「色々言ってたよ! でもそれはもういいの! 早く打開策を考えて! 」
「え、あ、うん。」
言われた選也は顎に手を当てて、暫く唸るが、その後こんなことを言った。
「でも、打開策って何? どうなったら成功なの? 」
秀真は口をあんぐり開けて、暫し何も言えなくなったが、自分の上に蔓が迫ってきたのに気付き、早口に話に戻る。
「見れば分かるだろ! 俺達が助かればいいんだよ!ほら、あれだ、 早く移動できる魔法とか、あいつを倒せる魔法とか! 」
選也はそれを聞いて、胸の前で指パッチン決め、真顔で秀真に言った。
「成る程、速度上昇か。」
秀真は自分の真上から落ちてきた蔓の攻撃を、横に飛び退いて避けながら叫ぶ。
「成る程、じゃねーよ! なんで『ナイスアイディーア! 』みたいな動作してんの? 普通に分かるだろ! 後、真顔やめろ、なんかムカつく! 」
「うん、分かった。今度からニヤケ顔にするから、そんなに怒るなよ。」
選也は自分の後ろに魔法陣を浮かばせて、そこから白い馬を呼び出した。
「じゃ、まだゲームに勝てるかも知れないし、速度上げてくぞ。」
そして、馬に飛び乗ると秀真の首根っこを捕まえ、馬の背に引き上げて、手綱を手に取り、足で馬の脇腹を軽く蹴る。
秀真は選也の言葉にすっかり呆れてしまった。
「お前、ホントに夏休みのことしか頭にないのな。」
「当たり前だろ、学生にとって夏休みは嗜好の存在だぞ。例え、槍が降ろうが、火山が噴火しようが、謎の植物モンスターに追いかけられようが、その事実は変わらないんだよ。」
「いや、普通は変わるよね。」
そこに、大分久しぶりのような老人の声が響く。
「ふん、さっきまでの強気はどうした。逃げてばかりで何も出来ないじゃないか。」
老人は二人にそう言うと、片手をゆっくり上げて、なにかの詠唱を始めた。
選也は慌てて横路を見つけて、手綱をそちらに引く。
「君子危うきに近寄らずという言葉があってだな。これは戦略的逃亡ですっ。」
「お前は君子じゃなくて、暗愚だけどな。」
秀真は急な方向転換でバランスを崩しながらも、選也に掴まり、なんとか落ちずに馬の背に踏みとどまった。
しかし、次の瞬間には、
「あ。」
地鳴りの音とともに地面から這い出してきた植物の根に馬ごと捕まり、勢いよく振り回されて、結局は地面に叩き落とされる。ただ、それに少し遅れて、同じように落とされた選也だけは自分の下に衝撃吸収の魔法陣を作り出し、地面との衝突を避けた。
「いってぇ! 選也、何してんだ! 」
その非道な行為に当然ながら秀真は選也を怒鳴り付けるが、選也は右手を口の前辺りで立てて、軽く笑いながら、
「ごめんごめん。」
と謝る。
「人に謝る態度じゃないよね!? 」
秀真はもう、涙目になりながら叫ぶしかなかった。そんな秀真の横で、選也はさっさと話を戻す。
「酷い目にあったけど、でも、あれは使えそうだな。」
「はは、学校まで投げてもらうとか? 」
秀真は泣き笑いながら、投げやりに選也の言葉に答えた、のだが、
「うん。」
不運なことに、その外れてほしい予想は、見事に的中してしまった。
「まじで? 」
そして、拒否する間もなく手を握られ、
「よし、いくぞ! 」
根に特攻させられる。
「まじで? 」
選也は根の直前で急停止すると、後ろに引いていた手を前に突きだして、魔法陣を叩き込んだ。
植物に矢のように突き刺さる、縦に並んだ文字で出来た魔法陣は、植物に青い筋を浮かばせて、その操作を奪う。
「よし、遠投GO! 」
「遠投NO! 」
そして、選也に支配権を奪われた植物の蔓は、二人を掴んで校舎の方に放り投げた。
-つづく-




