明かした秘密と分かった事実
―第2説 明かした秘密と分かった事実―
テストが二つの意味で終わった。
(やばい)
そう、まるで歯が立たなかったのだ。昨日の帰りの出来事で混乱していたとは言え、昨晩はかなり勉強した自負があった選也は、すっかり打ちのめされていた。
しかし、もう終わってしまったことだ、分からない記号、分からない式、分からない図のオンパレードだったのだから仕方ないと自分を慰める他にできることはない。後悔先に立たずとはこの事だ。
仕方がないので、選也は一つため息をついて、帰り支度を始める。
そこで気がついた。
(あれ? 秀真は今日来てないな)
そして、ハッとする。
アイツは昨日の事を自分よりも案外重く考えているのかもしれない。小学校からの親友の自分に、今の今まで「魔法」を隠してきたのだ、責任を感じていてもおかしくはないと。
選也はカバンをノートと一緒に抱えて、直ぐに秀真のクラスに走った。
「秀真! 」
秀真は自分の席で項垂れていた。
選也はその様子を見て、一瞬立ち止まってしまったが、ぐっと唇を噛み締めて、ゆっくりと秀真の席の横に立った。
「なぁ」
声をかけても、動かないし返事もしない。
選也は目を閉じて息を吸って、できる限り優しい声で秀真に語りかけた。
「秀真、お前の気持ちは分かるよ。 ずっと隠してきて、辛かったよな。でも大丈夫だ、俺はそれくらいじゃお前を嫌いになったりはしない、俺たちはずっと親友だ」
選也がそう言い終わると、秀真はゆっくりと顔をあげた。そして、虚ろな瞳で言う。
「え? なんのこと? 」
「え? 」
秀真は目をこすってから大きく欠伸をした。
それからいつもの調子で言う。
「テスト、おわった………。晴れて俺の夏休みは全て補習に消える………」
選也はなんだか急に怒りが沸き上がってきて、秀真を怒鳴った。
「落ち込んでたの、テストのことかよ! 」
秀真はそれに怒鳴り返してくる。
「テストのことじゃねー! 夏休みの補習のことだ! 」
「どっちも同じだよ! リンクしてんだよ、その二つは! 」
「そのリンクを断ち切れるのは勇者、貴方だけよ! 」
「なんだよそのノリ! あと、断ち切れねーし、断ち切らねーから! 教育委員会にでも直談判してろ! 」
そんな応酬に終止符を打ったのは、その原因の秀真だった。秀真は怒鳴り声をやめて、急にねちっこい口調を作り、言う。
「で、なんだっけ、「お前の気持ちは分かるよ。 ずっと隠してきて、辛かったよな。でも大丈夫だ、俺はそれくらいじゃお前を………」」
「やめろぉ! 復唱すんな、恥ずかしい! 」
選也は赤面しながら秀真の言葉を遮る。
しかし、この悪童は彼の弱点を見つけて喜んでいるのか、
「そんなに邪険にするなよ~俺らズッ友だろ~。嫌いになったりしないんだろ~」
と肩に手をまわしてくる。
「前言撤回、たった今嫌いになったわ! 」
選也はもう、涙目だった。
※
「おいおい、まだ拗ねてんのか? 」
通学路を歩く選也の後ろを秀真はついてきた。
「…………」
そして彼に、
「さっきのは、ほんとに悪かったって、もう機嫌直せよ」
とさっきから何度も話しかけてくる。
まぁ、あと一週間は許さないつもりだが、選也には聞いおきたいことがあった。だから、それを聞くためにそっと口を開いた。
「………なぁ、お前さ、なんで魔法のこと黙ってたわけ? 」
後ろをぴったりとついてきていた秀真は、急に話しかけられたことに驚いたのか、はたまたその言葉が痛いところをついていたからなのかは分からないが、その場に立ち止まった。
選也は追い討ちをかけるようにまた質問を投げ掛ける。
「俺さ、そんなに信用できない? それともなにか別に事情があるわけ? 」
秀真は暫く黙ったあと、照れ臭そうに頭をかきながら、答えた。
「秘密にしてたわけじゃないけどさ、確かに見せるのを避けてた節はあるよ。失敗したらなんかカッコ悪いなぁって思って。」
「………つまり? 」
選也はなんだかデジャブを感じつつ聞き返した。そして案の定、親友はだらしない笑顔を浮かべながら、軽い口調で言った。
「成功率上がってから、カッコ良く魔法を見せつけようと思ってた」
これには選也も、
「はああ!? 」
とマジでムカついた。
「ふっざけんなよ! お前、さっきの俺の優しい台詞を返せ、この赤点生成器め! 」
勢いのままに怒鳴る選也に、秀真は慌てた様子で必死に主張する。
「いやいやいや、マジであの魔法は難しいんだって! 全然成功したことないし! 」
選也はその言葉の最後に被るように、
「じゃあなんでやったし!? 」
と叫ぶように聞く。
その答えは親友曰く、
「今度は成功しそうだと思ったんだよ! 」
とのことだった。
選也は更に聞く。
「ちゃんと練習したのか!? 」
秀真はそれに、今度はキッチリとキメ顔を作って答えた。
「それは勿論………してない! 」
「じゃあ、出来るわけねーだろ!! なんで一瞬溜めたし! なんかムカつく! 」
「なんで出来ないって決めつけんだよ! やってみなけりゃわからねーだろ! なんか、こう、不思議な力が働いて、出来るようになってるかもしれないじゃん! 」
「その結果が昨日のあれだよ! 」
「現実は厳しい! 」
そこまで捲し立てると、二人は、すっかりいい疲れて、荒い息を整えた。
「まぁ、もういいよ。うん、いいよ。」
選也はなんだか自分の中で納得がいった気がした。こいつは魔法が使えても、自分の知ってるままの秀真で、魔法を知っても知らなくても、なにも変わることなんてない。
「こっちこそ、怒鳴ってごめん」
選也が笑うと秀真も笑った。
そこに、突然、ふっと黒い影が被さる。
そして、それに気付いた瞬間、選也は秀真に突き飛ばされた。
選也が倒れた地面から、上半身を起こすと、秀真と自分との間に、禍々しい黒の槍が突き刺さっているのが見えた。
槍はアスファルトの地面に深く突き刺さり、しかし、傷一つついていない。
選也はそこから、あれに当たれば無事では済まないと察する。
選也はすぐに秀真の方を見た。
しかし、秀真は槍でも選也でもなく、どこか別の一点を睨み付けている。
そして、選也がそちらを向くより前に、秀真の視線の方向から言葉が聞こえる。
「ようやくみつけたぞ―――」
言葉に遅れて選也が振り向いた時には、声の主は既に次の槍を構えていた。
―つづく―