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インタートライバル・リンケージ  作者: 西亥はるま
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追うものと追われるもの

復活前の世界では痛みは最小限に抑えられています。

 街にもどったクレハのもとに、ナイフを渡してきた男が近寄ってきた。


(確か、買い物の時にあった、聖騎士のロイド……)


「初めての狩りはどうだったかな?レベルも5になったみたいだし、俺たちのギルドに入らないか?まだ入るとこ決まってないんだろう?」


 クレハはブルリと身を震わせる。そして、ナイフをもらった時にフレンド登録の仕方を教えてやると言われフレンド登録をしたのを思い出す。

 ロイドはフレンドリストでクレハが街に戻るのを待っていたのだろう。詳細な場所はわからないがフレンドリストからエリア単位では把握できる。


「自分のような新人を引き入れるとは何かメリットがあるんだろうか?」


 クレハは考えを巡らせ、一つの予想を立てる。

 エルドラドは15年以上続くVMMORPGだ開始当初は数十万人のプレイヤーでにぎわったが今では数万人まで減ってきている、今夜行われるメンテナンスでもサーバーの統合が行われる予定だ。

 サーバーの統合はMMOではあまりいいイメージがない。人口が減ってきており、増える見込みがないということになるからだ。しかし、だからといって統合をしなければ人数が必要となるコンテンツが出来なくなり、さらに人気が落ちてしまう。

 エルドラドの運営会社が、次期VMMOを開発しているといううわさを聞いたことがあるが、まだ情報は公開されていない。

 まだ当分はエルドラドのサービスが終了することはないだろう。


 そんなプレイヤーたちの心配を危惧してか、運営は今後のバージョンアップで新規参入を促すことと、大規模なシステム変更をプレイヤーに約束している。ロイドがクレハをギルドに誘うのは初心者である低レベルプレイヤーをギルドメンバーに入れることで、自分たちに何かしらの利益が得られるからだろう。

 公式でVUの内容は明言はされないがうわさが事前に流れることは珍しくないし、そういう噂はたいてい当たっているのだ。


「すみません、ゲームに時間をどのくらいとれるかもわからないですし、しばらくはソロでしたいんです。このナイフもお返しします」


 そういうと朝受け取ったナイフを男に差し出す。このまま持ち続けると何かと話しかけてきそうな気がする。これを返せば口実が減るし、さすがに気持ちが伝わるだろう、これで話は終わりだ。


 クレハの考えでは男がナイフを受け取って終わるはずだった。多少気を悪くするかもしれないが、男のギルドに自分が入っても足を引っ張るだけだろう。おせっかいな人のようだし最初は我慢してくれるかもしれない。それでも優柔不断な自分ではいずれわずらわしく思われる気がするし、ギルドに入ることでゲーム内での行動がある程度制限されてしまうのはかなり煩わしい。ゲームでまで人に合わせてストレスをためたくはない。マイペースでゲームをするためにエルドラドを選んだのだから。


「それでは困るな、君がうちのギルドに入ってログインしている間、ギルドメンバー全員がボーナスを受けられるんだ。レベル100の俺やほかの仲間の足を引っ張る心配しているならその必要はない。むしろ君はレベルが低いままでいてくれたほうがいい。40レベルまでのメンバーがいるギルドは経験値とアイテム取得率にボーナスを受けれるんだからな」


 男はそういうとクレハに手を伸ばす。顏には先ほどとは打って変わっていやらしい表情を浮かべている。


(世話焼きなんかじゃなかった、自分の利益を考えてるだけだ)


「いやっ!」


 男の手を振り払いクレハは街の外目指して走る。思わず返すはずだったナイフを握りしめたままだ。後ろを振り返るクレハは男が追って来ていないことに違和感を感じるが立ち止まらずに、街の外を目指す。

 本気で追いかけられたらレベル5のクレハなど相手にならないため遊んでいるのだろう。


(レベルが40を超えたらどうするんだろう、ほかにも初心者を集めているんだろうけど)


 ふとそんな考えが頭に浮かぶが、まずは逃げ切る方法を考えなくてはいけないと頭を振る。


 街の門を出た直後、左手にチクリと痛みを感じる。とっさに押さえた腕には矢が刺さっており血が流れている。慌てて左を見ると遠くの方でゆみを構えた人間がこっちを狙っているのが見えた。


(さっきの男のギルドメンバーに違いない)


 とっさにクレハはマントで体を覆う。弓矢の射程距離より遠すぎたためだろうか、高レベル者からの攻撃にもかかわらず致命傷というほどではない。マントでは心もとないが暗くなり始めた世界で見つかりにくくなるくらいの効果はあるかもしれない。おそらくロイド同様弓を射た人物も獲物に見立てて遊んでいるくらいの気持ちだろう。弓を射た本人が射程距離外なのは一番良くわかっているはずだから。

 マントで体を覆い、前かがみで走りつつクレハはポーションを腕にかける。少し熱くなるような刺激を感じたが左腕の傷はもうふさがっている。残ったポーションを一応飲み干すと体力も上限まで回復する。体力の上限が少ないことで一番安いポーションでも十分足りたようだ。


(今殺されると街の神殿に戻ってしまう、別の街に行ってホームを変更しないと)


 この世界で死ぬとPCは神殿で復活する。復活する神殿はホームに設定されているエリアにある神殿だ。村のような小さな集落には神殿がないためHP自体を復活場所に設定させることが出来る魔石がある。その魔石に祈りをささげることで貧しい村であっても復活地点にできるのだ。


「街の地図で見た記憶だと一番近いのはエレール村。アーテクトからは少し遠いけど他の方角に回るのは街から追っ手が来ていることを考えると難しいだろうな。それにエレールは魔物の領地でとても貧しいって聞いたし、施設も充実していないため高レベルのPCはあまり寄り付かないきがする」


 過去にも普通のMMOの経験もあるためプレイヤーに攻撃されるのは初めてではない。今までやってきたゲームの中にはプレイヤーキルをすることを推奨するゲームもあったほどだ。コミュニケーションは苦手だが、ソロで生き抜く方法はある程度わかっているつもりだった。実際、攻撃されたことで動揺はしていたが、腕の傷をうまく治せたことで少し落ち着きを取り戻せた。VMMOは初めてでも今まで経験したMMO経験は役に立つようだ。気持ちが落ち着くと頭のなかも自然と整理される。


(問題はまだ逃げきれていないことね)


 PCの移動速度は原則として同じため、このまま走り続ければ逃げれるはずだ。しかし、相手は高レベルのプレイヤー。同じように走るだけでなく、いろいろな移動手段を備えているはずだ。騎乗用の馬やフェンリルなどの魔獣に乗られるとたちまち追いつかれてしまうだろう。

 それに転移の魔法を使える仲間がいれば、すでにエレールの村へ先回りされている可能性もある。

 しかしながらプレイヤーキルされた際に神殿に飛ばされることを考えるとホームはすぐにでも変える必要がある。初心者狩りをする者たちが出発地点であるアーテクトを根城にしているのは疑いの余地がないのだから。


 クレハは前方に広がる森を見つめる。森は人間の支配下にない。たとえ人間の領地内であっても森は安全ではないのだ。視界が制限されているうえ平原よりもモンスターのPOPスピードと量が数倍違う。レベル上げをする際は通常自分と同じ強さ以上のモンスターを相手にする。ソロだと同じ強さ、パーティーであれば5レベルほどうえの強さまでのモンスターを狩るのが基本だ。

 パーティーでレべル上げをすると、経験値の分配が起こるため、1匹での経験値効率は当然下がる。しかし殲滅速度も数倍に変わるため、時間効率で見るとパーティーの方が高い。当然倒すモンスターの数が増えるためPOPスピードが早くPOP量の多い森は重要な拠点になる。


「まさかレベル5のソロが森に入るなんておもわないでしょ」


 クレハは危険を承知で森に侵入する。強力なモンスターと出くわす可能性もあるが、目的は闘うことではなく通過すること。

 それに身を隠しながら最短距離を通るしかロイドより先にエレールにたどり着く方法がないのだ。森を迂回した場合、森を迂回する必要のないロイドに走る速度でも負けてしまう。


「足の速い魔獣系のモンスターに出くわしませんように」


 森に入っていったクレハの後ろ姿はすぐに森の中に溶け込んでいった。


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