プロローグ2
ザークブルク、ここは魔族が支配する領地の一つであり、王国に最も近い地域だ。
この地域には魔族の王の城がある。そのためアーテクト周辺よりも強力な魔物がたくさんいる。
ドラゴンやアークデビル、人間など一捻りにしてしまうような者たちがいるのだが、すべての魔物が強いわけでもない。
フィールドと違いダンジョン扱いである魔王の城には、ネームドモンスターが最初から生息しているのだが、ネームドモンスターでこそ50レベルのものが多いが通常のモンスターは40レベル程度のものが多いのだ。
サキュバスであるリリスも通常モンスターの一人だ。淫魔であるリリスは幻術を得意としており探知能力が鋭い。人間でいう支援魔法職と、盗賊を合わせたようなクラスだ。
人間である冒険者はストーリーを進めていくと職業を取得することができる。
見習いであるノービスから始まり、近接攻撃系、支援系、後方直接攻撃系へと選択していく。しかし、モンスターは職業を取得できない。
その代わりに、種族特性とクラス特性を有する。リリスの場合、種族は魔族、クラスはリリスだ。
これらの特性ボーナスにより魔族は人間より高いステータスを持っている。そのため、同レベルの魔族と人間が1:1で戦うと魔族の圧勝で終わるため、冒険者たちは魔族1に対して多数で戦う事になる。
そのリリスが魔城で守るのは、入り口から5番目の部屋だ、部屋の守護者はグレーターリッチ。精霊魔法と暗黒魔法を得意とする闇の魔法使いだ。
「時々ぼんやりすることがあるけど、待っているだけでおいしいごちそうがもらえるんだからここは最高だね」
リリスは時々記憶がぼんやりすることがある。現実のようであり夢であるような経験がたまに起きるのだ。
魔王の城はゲームの中のダンジョンなので、幾度となく冒険者に敗れている。エルドラドのクエストの中で魔王を倒すものがあり、冒険者のレベルが上がるにつれたやすくクリアされるようになってしまった。
この魔王の城攻略はサービス開始時点での終点だった。それが次々にシナリオの追加が行われ、今では単なる通過点。新規参入がほとんどいなくなった今では挑戦する冒険者自体の数がとても少ない忘れられた地だ。
魔王討伐の難易度についても、あまりにも緊張感がなくなってきたため魔王と戦う玉座の間にレベルの制限がつけられたのだが、最初のクリア者が現れてからかなり時間がたっていたため攻略方法は広く知れ渡った後だった。もしレベル制限がなければ冒険者が負ける可能性は限りなく0に近いだろう。
もちろん魔物たちはゲームのシステムなど理解していない。魔族こそ最強で、今に人間たちを滅ぼすと本当に思っているのだ。まさか最強である自分たちが何度も死んでいるとは思わない。
なぜなら、倒されても少し時間がたてば元いた場所にPOPするのだが、死ぬ前の記憶が消えてしまっているからだ。死という経験を積み重ねることができないかわりに魔族は寿命を持たないように設定されている。
直接の主であるグレーターリッチの部屋へつながる通路を歩いていたときリリスの頭に声が響く。
(これより南のエレール村に行き人間を一人捕まえてこい。それとは別で、村にいる守衛の戦力を調べろ、近々その村を支配するための下調べだ。念のため、人間の娘に化けていけ)
頭に響いた声はグレーターリッチの声だ。先ほど玉座の間に出かけて行ったのでメッセージの魔法で離れた場所から命令を下しているのだ。
幻術に長けた自分なら、人間の欲望を覗き、餌として与えることで思い通りに操ることもできる。姿を偽るのも幻術を使えば簡単なことだ。自信を持ってリリスは答える。
(畏まりました、人間共への侵略の先兵をこのリリス務めさせていただきます。もしよろしければ任務の際に人間をいただいてもよろしいでしょうか?)
(……かまわん、ただし捕虜一人を優先しろ)
これから始まる魔物の侵略を想像しリリスの頬が朱に染まる。戦闘と食事を期待して表情も自然とゆるむ。
リリスも他の魔族同様、人間に負けるなどつゆほども思わない。まさか自分がこの後村に行き惨殺される運命など思うはずがない。しかし、リリスの思いは常に破られ続けている。魔王の城の攻略より難易度の遥に低いこのクエストで、リリスは幾度目かの死を迎えるのだ――




