10:全ては愛と平和のために
あれからもう数日が過ぎた。
幸いなことに、空に浮かんだ城もハイグレードも一般人には見えないようにカモフラージュ技術を使用していたので大きな騒ぎになることはなかった、
騒がれたのは、城が浮かんだ時の騒音や崩れた城の一部の破片が少し落ちたことぐらいだろうか。
守の提案で、あえてあの城はその地に置いていくことになった。マスターも、過去を捨てるという意味でもいいだろうと了承したことである。
そのおかげなのか、事件の起きたその地にあったものが調べられていくうちに悪質な実験やマスターを陥れた研究者だちのあらゆる悪事が暴かれることになったらしい。
キッドには、あらかじめマスターたちの痕跡だけはできるだけ抹消するように頼んでいたことから、それ以上のことを知られることは無かった。
さて、それから私たちがどうしているのかというと・・・。
「皆、ただいま!」
学校が終わった私がやってきたのは、ハイグレードが封印されていた立ち入り禁止区域の山。
今はここが、私たちイシュレンジャーの秘密基地なのだ!
そこまで遠くないし、変身すればあっという間だ。今では変身する理由の半分ぐらいが移動手段となってしまっている。
当然だ。だって、もう私たちに敵はいないのだから。
「おかえり。・・・と、つい返事をしてしまいましたが。ただいまというのは変ではないですか?」
「あはは。なんか、帰ってきたー!って気がしちゃって。」
「いや、いいですよ。そちらの方が、耳に心地いい。」
出迎えてくれたのは今まで敵だったマスター。研究施設が使えなくなった今ではここに隠れ住んでいる。
マスターがここの管理やら整備やらをしてくれたおかげですっかり立派な秘密基地になった。
そう。世界征服を止めたマスターたちはその後、私たち精神戦隊イシュレンジャーの仲間になったのだ。
敵だったマスターも、今ではすっかりこの戦隊をまとめる博士的な役割となっている。
・・・一番大人だしね。いや、おじさま?年いくつなんだろ。
改めてマスターの体を見てみる。普通の人間の体に見えるが、彼はサイボーグだったはずだ。たしか、体のほぼ半身がそうなんだっけ?
髪が白いのは邪神と融合した時による影響だそうだけど。
そんなことを考えていると、マスターの体をつたって白い蛇が顔を出してきた。
その蛇の名前はタタラジャ。元、邪神だったものである。
「タタラジャ、だいぶ調子が良くなってきたみたいだね。」
「多少のことだ。我はまだ休まねば。だが、無理をしてでもお主に会いたくてな。」
城が崩れた時は彼を手に取るので精いっぱいだったっけな。
あの後はマスターがもう一度身に宿しながら少しずつ放散した力を取り戻しているらしい。
今度は穢れたものでない力を、だ。
そのおかげか、彼の精神体が純白の蛇として現れるようになった。
それでも、タタラジャの力を借りて身体からあらゆる機械を出すときは、あの時みたいに力を使う分だけ肌が黒くなるみたいだけど。
だけどその力はもう戦闘目的だけでは使わない。治療器具も揃えている。タタラジャの力も使うのでわりと早めに傷が治せる。これはすごくありがたい。
ちなみにタタラジャという名前はその蛇の姿と、祟り神としての過去の過ちを忘れたくないという彼のために私が名付けたものだ。
いつまでも元邪神じゃかわいそうだもんね。
「マスターもタタラジャも、あんまり無理しないでね。」
そう言いながらタタラジャを撫でていると、狛も撫でてほしそうに寄ってきた。
ここに来ることが増えたので、今ではマスターに面倒を見てもらっていることが多い。
マスターは狛と打ち解けたようで、護身用といいながらいろんな装備を付けてくれている。もはや戦隊の戦力にもなれるほどだ。やりすぎ。
でも言ってることが顔文字で表記される首輪は私もわりと気に入っている。顔文字っていうのが良い。
皆は既に先に来ていると聞いたので、特訓場での様子が見れる観察室に向かう。
正と守は私を助けに来た時、アシストたちに負けそうになったらしい。
もっと強くなるためにマスターの協力も得て新しい力の姿を手に入れたので、その力の使い方の練習をよくするようになった。
「ミコト来てたのか!どうだった?だいぶ上達してきたと思うんだけど。」
「うん!すごかったよ。炎をまとう鬼って似合いすぎてかっこいいね!」
正はオーガの姿。いわゆる鬼だ。拳以外でも火がうまく扱えるようになっただけでなく力も強くなった。
先日まで彼は、将来の夢はヒーローだったけど職業じゃないし、警察官や消防士といった職業は頭がそこまで言い訳でもなく感情的に動いてしまうから向いていないしで、どうすればいいのかと悩んでいた。
そんな彼に私は、何かの師範になるのはどうかと提案してみた。ヒーローになるためにあらゆる武術を学んだ正ならきっと師範として新しいヒーローを育てることができると思ったからだ。今では前向きにその方向を目指しているという。
「でもなんか悔しいな。ミコトって俺のヒーロー像そのものなんだもん。悩んでたこと解決しちゃうし、敵でも誰ても助けちゃうし、奇跡も起こしちゃうしさ。俺にとってミコトは間違いなくヒーローなんだ。憧れてて、大好きな・・・。」
それは過剰評価しすぎだよ!って笑って返そうとしたのだけど、そこまで言うと正は照れ臭そうに飛び出してしまった。まぁあれだけほめれば言う方も照れるか。
「あ、守。今から休憩?その鮫っぽい姿も似合うよね。でも、なんで名前オーシャンなの?」
「オーガに対してシャークでは、なんとなく名前負けしそうだったので。にしても、鬼に鮫とそろってしまったんじゃ、人外戦隊と名乗った方がピッタリな気がしてしまいますね。」
「ちょっと!それじゃ私が仲間はずれじゃない。」
守はオーシャンの姿で現れた。水中でも活動できるようにしたらしい。動きやすくはなったが、まだ氷の能力を操るのには調整が必要らしい。
ちなみに今のイシュレンジャーの主な活動は人命救助ということになっている。正は火の中、守は水中で活躍できるということだからなかなか良い。ちなみに私は空中だ。
守は本当にすごいと、正もよく言っていた。医者というのは人を救うために人を傷つける覚悟が必要な仕事だからと。
それにマスターたちとの最終決戦後の後始末がなんとかうまく片付いたのも、守の提案のおかげだ。
彼いわく、自分たちの存在を知られるのも困るし、世間に受け入れられるのが難しい怪人たちのために今回だけ仕方なくやったことだそうだが。
そうは言ってもずいぶんと悪質な手を使ったものだと思う。思い返しながらそう言うと、複雑そうな顔をしながら「昔の僕ならやろうとも思いませんでしたよ。」と言われた。
「全く。変わり者のあなたと会ってから考えがいろいろ変わってしまいましたよ。前はそれが滑稽に思えたというのに、あまりに優しすぎて無茶をするから・・・本当に、放っておけなくて困ります。」
無茶をしないように釘をさされて、私は苦笑いしながら他の子の様子を見に行くことにする。まだ守に心配させてしまっているようで申し訳ない。
「ミコト、見ぃーつけた♪もう、ミコトが来たなら誰か早く教えてくれればよかったのに。」
出会い頭にアシストが飛びついてきた。もう慣れたものである。
アシストは手を引っ込めてビームのような光線を出す能力があったのだが、それだけでは救助に向いてないとのことで新しく改造を施されることになった。
光線だけでなくドリルも出せるようになり、しかもワイヤー付きでドリルを打ち出すことができる。ワイヤーは使い道が多そうだ。
更に壁や天井に張り付いたり歩いたりできるようにもなった。なんだか全体的に虫っぽい能力だが、ずいぶん改造したなオイと思ったものだ。
私と敵対関係でなくなったのを一番喜んでくれたのが彼なのだが、どうしてそこまで好いてくれるのか疑問に思って聞いてみたら単純で純粋な答えを言われた。
「ミコトが好きになってくれたからだよ。皆が怪人ってだけで怖がるから隠れて過ごすなんて面倒だけど、いいんだ。だってミコトが好きでいてくれるから。だから好きなの!それって普通でしょ?」
最初は私と同じ人間になれたらいいのにと思っていたらしいが、私が人外好きと聞いて怪人のままでいいやってなったんだとか。って、誰それ言ったの!いや間違ってないけどさ!!
「アシスト。勉強中だというのに、放り出していくな。」
シドウが迎えに来た。勉強中というのは、人間社会についてだ。彼らはまだまだ知らないことが多い。戦隊についてもあまり理解していなかったようで、この間は正が熱弁していた。
彼が騎士道を学んだのも、野性としての本能を抑えたいという彼の願いに応えるためにマスターが薦めたのがキッカケらしい。
よっぽど気に入ったらしく騎士は彼にとっての目標となったらしい。
未だに、いつ野性を抑えられなくなるか不安になるという彼を励ました。いざとなったら止めるし、皆のことも自分のことも信じてほしいと。
「本当に、貴方には感謝も謝罪も言い足りぬ。どうにもできなかったマスターを、私たちを、救い出してくれた。貴方は、私にとっての希望。いつの日か、貴方のお役に立てる存在になれるよう励みましょう。」
堅苦しいというか気難しい言葉だけど、実にシドウらしい。
そうこうしているうちに、マスターが呼び掛けてきた。彼が、目覚めたのだと。
居ても立っても居られずに、私は彼のいる部屋へと駆け出していた。
「クロノっ!」
彼は、間違いなくそこにいた。
本体だった核を破壊されて消失したかと思われていた彼だったが、思わぬ形で微かに命をとりとめていたことが発覚した。
そもそも彼が心を持ったのはイシュールの影響もあったようで、核を壊された彼の意識は彼のイシュールに残されていたことが、イシュール本体でもあるキッドによって知らされた。
それからは、彼が無事に復活できるようにマスターとキッドが試行錯誤していた。
戦ったり人間の形を保つのはまだ不安定で無理だそうだが、話してみたら記憶も無事だったようで安心した。
「心配させて、ごめん。マスターにも、謝った。ボクにとっては親みたいな存在で、大切だったのに。裏切っちゃったから。ミコトにも黙ってたし。たぶんいっぱい間違えた。でも、嬉しいな。また会えた。」
「本当によかった・・・私、あの時、クロノが消えちゃって。すごくショックで。」
「ミコトの、おかげなんだよ?強い意思、心ができたから、僕はここにいるってマスターが言ってた。でも、おかしいな。ミコトもマスターと同じで、母親みたいに思ってたんだけど、なんか、違う気がする。」
とにかく良かった。本当によかった。彼と話ができてる。それだけで良かった。クロノも、そうみたいだった。
「そろそろ行かなきゃ。また後で皆と来るね。これからハイグレードの試運転なんだって。」
気を取り直して、ハイグレードのところへ向かった。すると、そこに皆そろっていた。どうやらクロノとの対談を待っていてくれたらしい。
複数いるとクロノに負担がかかるだろうし、何より私と会わせてあげたかったらしい。皆、優しいなぁ。
「それでは、ゆっくりと動いてみてください。」
マスターの指示でハイグレードは動き出した。
なぜ試運転をするのかというと、マスターによって拘束されていたのにその後すぐに私を助けようと空を飛んだので負荷がかかりすぎてしまったらしい。ちゃんとした整備もしていなかったのも原因なんだとか。
だから彼は今までマスターによってメンテナンスやら修理を受けていたという訳である。
その結果、どうやら無事に復活したらしい。最終的には、元気に空中を飛び回るようになっていた。
あんまりはしゃぎすぎてまた何かあっても困るので注意すると、大人しくなってくれた。
「おやおや。あのやんちゃな彼が素直に従うとはね。本当に、彼にとってあなたは特別なようだ。」
マスターが感心しながらそういうと、何を思ったのか不満そうにキッドが私の肩に乗って抗議した。
「ボクにとってもミコトは特別だよ?いや、お互いにね。なんてったって心も体も一つになった間柄だし。」
「「んな!?」」
驚いたようにマスターと私以外の全員がキッドのことを見た。
たぶん、あの合体した時のことだよね?
「ってことはマスターとタタラジャも同じような関係なんだよね?そう思うとちょっと親近感。」
「え。」
今度はマスターまでもが動揺する。あれ?おかしなこと言ってないよね。
そんな私を置いて、皆がわいわいと騒ぎだしてしまった。どうしよう。アシストが暴れそう。
とりあえずなだめようとした私を、ハイグレードがつかんだ。
私は台風の中心にいたようで、一人だけ状況をまるで把握していなかったことを理解する。
ハイグレードが私を連れて基地を飛び出してしまった。
「おや、ハイグレードもどうやら彼女の特別だと対抗心を燃やしていたようですね。」
「マスター!冷静に言ってる場合ですか!?追いかけますよ!」
守が変身して追いかけたのを皮切りに、メンバー全員がハイグレードを追いかけていくのをマスターは見送った。
「お主はいかなくて良いのか?」
「いいんですよ、タタラジャ。ただ、驚きました。私も、知らないうちに惹かれていたのですね。あれだけの言葉で動揺してしまうとは。いやはや。話してみたら普通の少女だったというのに、すごいお方だ。」
そんなことを言われてるとは知らずに、私は行くあてもなく飛び続けるハイグレードにつかまっていた。
彼の体の負担も心配だったけれど、こうして飛ぶのは悪くない。正直楽しい気持ちがあった。
・・・のん気だな、私。
でもまぁ、平和が一番っていうし。良いか。こんな日常も。
ところが、そう思っているとマスターから通信が入った。タタラジャの力を使ってイシュールに通信できるようにしてあったのだ。
マスターってば秘密基地といい皆のパワーアップやらなんやらで頑張りすぎでは?
だが気にしている暇はない。どうやら事件のようだ。私たちは急いで現場に向かうことにした。
「変身、イシュミレーション!」
私たちは精神戦隊イシュレンジャー!聖なる心で、全ての命は私たちが守る!
ずいぶんと間が空いてしまいましたがついに最終回です。
年越す前に終わらせたかったけど忙しくて無理だった!
構想いろいろあったのに、情熱やら時間のせいで薄れちゃうし急いじゃうしで雑になってしまった感。
読んでいただき誠にありがとうございました!!
今回は最終回というのもあるので名前表記は無しにしてみました。個別で会話するからわかりやすいですしね。
本来、それぞれの視点からの感情は番外編でやる予定だったのですが、長くなるのもあれなので、最終回として一気にまとめる形になりました。
この物語は練りに練った方なので気に入っていただけたら幸いです。
ヒーローが人外萌えでも、悪くないよね!
本当にありがとうございました。




