2 順調すぎて
私は、混乱しているらしいザイオンに質問の意図を伝える。
「これからつき合うにあたって、私が惹かれたポイントは押さえておきたいじゃないですか」
(この人のここが好きって、言えるようにしなくちゃね)
私にしては至極当然な疑問だったが、令息は顔を手で覆っていた。
「そこからか‥まあしょうがない‥」
彼の長所は猫好きで猫を飼っていることだった。
現在我が家では飼っていないので、つき合ったら猫を可愛がれると言うのは大きなメリットだ。
それに初めは分からなかったが、彼は話しやすい。
まあ2人とも勉強バカだったし。
魔術への興味が半端なかったので話題に欠くことがない。
仲はどんどん深まる。
ザイオンは普段の1人称は『私』だけど興奮すると『僕』に変わるとか、やりたい研究のためには多少無茶もするとか、少しずつ彼のことが分かってきた。
危惧していた女生徒のやっかみはあったが、私の友人は妬まないタイプばかりだったのが助かった。
私が恋人の件でつるし上げされても、友人の誰かはついて来てくれたし。
「彼氏が金持ちのイケメンだと苦労するんだね」
「彼氏じゃないって」
友人を騙すのは心苦しいから、ただの友人とごまかす。
(期間が過ぎたら、ちゃんと説明しよう)
実際、やっていることは友達と変わらない。
一緒に勉強しながら猫の話をしたり、買い物に同行して猫グッズを買ったり、家に遊びに行って猫をモフりまくったりと、色気なしの交流だから。
1年間、それなりに充実した生活を送った。
最初は小さな子猫だった彼のベンジャミンが、すっかり大人の猫になるくらい。
「シャーロッタを選んだのは正解だったな。卒業しても友人でいてくれないか?」
本物の恋人への進展は一切なかったが、親友の1人と言えるだろう。
問題は‥親同士が盛り上がってしまったことだ。
婚約の話が進んでしまうほど。
「父から、君との婚約を認められてしまった」
ある日、暗い顔のザイオンから告げられた。
「ええ、どうしましょう?」
貧乏男爵家の娘なら、絶対に伯爵家の嫁として認められないって確信していたのに。
「く、学生時代は自由にさせて欲しいだけだったのだが」
「まさかあなたのご両親とまで仲良くなるとは思わなかったのよ」
私もザイオンも慌てふためく。
「ああ、別に君が嫌なわけではないぞ」
急いでフォローする彼だが、気持ちは分かっている。
「結婚したい方の好きじゃ、ないんですよね」
「そうなんだよ! どうしよう‥」
だから、2人とも必死に婚約しなくてもよい理由を探していた。
(ザイオンのことは大好きだけど、そっちの好きで見たことはなかったのに!)
2人とも婚約の予定を解消する方法を探していた。
それから2週間後くらいのことだ。
私が魔術学院から帰宅するとすぐ、父に呼び出された。
普段の父は会計士として働いているから帰りも遅いのに。
今日は所属事務所からの帰宅が早い。
(まさか婚約が正式に決まったとかじゃないわよね)
手汗をかきながら書斎に向かうと。思ったより父は深刻な顔をしている。
「今日はネコット伯から連絡が来た。‥お前の婚約を見直すかもしれない」
父から告げられたのは真逆の内容だった。
突然のことだが、私はハッとする。これはザイオンに何かあったのだ。
「なぜでしょうか」
私は父の言葉に備える。いつでも辛そうな表情を作れるように。
(やっと分かれる理由を作れたのかしら)
どうにか無難に別れられそうで安心したけど、親まで騙していたことはバレたくない。
「あ、お前に瑕疵はないからな。安心しろ」
父はあわてているが、私は悲しい顔を作るので精一杯。
「それなら先方に何かございましたのね」
浮気でも画策した? それとも下手に遊びまくった? まさか借金?
しかし、父の口から告げられたのは、予想外の理由だった。




