第13話_脱出_
ガチャッと扉を開け、すぐに周囲を確認する。
予想通り、個室の前には他の場所より多くのゾンビが集まっていた。
俺は汗の染み込んだハンカチを店の奥へ向かって投げる。バイトAの分もまとめて投げた。
ゾンビたちはすぐに反応した。首を向け、そのままハンカチの方へ歩いていく。
やはり人間の匂いが索敵の基準らしい。
第一関門だった個室からの脱出はうまくいった。
出入口へ目を向けると、二体のゾンビがこちらへ向かってきている。
「このままやり過ごすぞ」
俺のささやきに、バイトAがうなずく。
二体ともハンカチにつられるように歩いていく。
一体目が通り過ぎた。
二体目もそのまま通り過ぎるかと思った瞬間、動きが止まる。
首が不自然な動きで左右に回る。
何かを探しているようだった。
やがてその顔がゆっくりとこちらを向く。
白く濁った目だった。
それでも目が合ったような気がした。
「逃げるぞ!」
俺とバイトAは一気に駆け出した。
背後からうなり声が聞こえる。
追われている。
カラオケフロアを抜け、階段へ向かう。
すると下の階から一体のゾンビが上がってきていた。
俺は勢いのまま顔面を蹴りつける。
ゾンビは体勢を崩し、そのまま階段を転がり落ちた。
俺たちはその横を通り抜けようとする。
だが、通り過ぎる直前だった。
倒れていたはずのゾンビが、不自然な動きで起き上がる。
跳ねるような、弾かれるような動きだった。
そのままこちらへ飛びかかってくる。
俺たちは噛み付き対策に腕に雑誌を巻いていた。
ゾンビの口が雑誌に食い込む。
その隙にバイトAが体当たりを叩き込んだ。
よろめいたゾンビだったが、すぐに体勢を立て直す。
明らかに他の個体より動きがいい。
制服姿だった。飲食店の店員だろうか。年齢は十代後半から二十代前半くらいに見える。
人間だった頃の身体能力が影響しているのかもしれない。
もっとも、今の動きは人間の範疇を超えていた。
そう考えているうちに、ゾンビが走り出す。
それまでの鈍い動きが嘘のようだった。
「まずい」
俺はバックルームへ向かう。
扉の前では店長が待っていた。
差し出された手を掴み、そのまま中へ飛び込む。
直後に扉を閉めた。
ドン、と衝撃音が響く。
続けて何度も扉が叩かれる。
何体かが集まっているらしい。
おそらくカラオケで気づいた連中も追いついたのだろう。
「噛まれたのか!?」
おっさんが真っ先に聞いた。
「襲われはしましたが、感染はしていないはずです」
そう言って腕を見せる。
雑誌にははっきりと噛み跡が残っていた。
「何か収穫はあったんですか?」
女子高生が尋ねる。
「物資は駄目でしたけど、情報はいくつか」
バイトAがそう言って俺を見る。
俺はうなずいた。
「皆さんにも共有します。ただ、その前に」
一度言葉を切る。
「俺とバイトAを縄で縛ってください」
室内の空気が、一瞬で張り詰めた。




