表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/6

第6章:後の祭りと、祝祭の終わり


「……まって。待ちなさいよ、みんな……!」




 ルナリア様の震える声は、華やかな退場の行進曲にかき消されていきました。


 大広間の中心。


 銀髪をなびかせ、聖女イザベラ様と女騎士団長に左右をガードされたアルヴィンが、ゆっくりと扉の向こうへ消えていきます。


 彼を囲む女たちの背中は、まるで戦利品を抱えた勝者のように誇らしげで、誰一人として、床にへたり込んだ「元・飼い主」を振り返る者はいませんでした。




「アルヴィン! 私が悪かったわ、謝るから! ほら、貴方の好きな……ええと、何だったかしら、とにかく何かあげるから戻ってきなさい!!」




 必死の叫び。


 ですが、扉が閉まる直前、アルヴィンはふと足を止め、一度だけ振り返りました。


 その瞳には、かつてのような「義務感」も「怯え」もありません。


 ただ、道端に落ちている石ころを見るような、酷く平坦で、慈悲深い眼差し。




「ルナリア様。……もう、私のことはお忘れください。貴女が捨てたのは、ただの『盾』ではありません。……貴女の国を守るはずだった『未来』そのものですよ。……あ、そうだ。その落ちている手袋、片付けないと掃除のおじさんに怒られますから、気をつけてくださいね」




 バタン、と重厚な扉が閉まりました。


 会場に残されたのは、静寂。


 そして、床一面に散乱した、数百枚の「白い手袋」の山だけでした。




「…………なによ、これ」




 ルナリア様は、震える手で一枚の手袋を拾い上げました。


 それは彼女が「祝福の紙吹雪」だと信じて疑わず、その中で狂喜乱舞した、自分への宣戦布告の塊。


 つい数時間前まで、彼女はこの国の中心にいたはずでした。


 ですが今、彼女の周りには誰もいません。


 アルヴィンの覚醒を知った国王陛下は激怒し、彼女を「国益を損なった大罪人」として、北の塔への幽閉を決めたという噂が、すでに侍女たちの間で囁かれていました。




「……おーっほっほ……。なによ、みんなして。……私、王女なのよ? ……ねぇ、誰か、この手袋を片付けなさいよ……。ねぇ……」




 返事はありません。


 豪華なドレスの裾は汚れ、冠ティアラは無様に傾いている。


 彼女が必死に拾い集めているのは、もはや愛でも忠誠でもなく、ただの「布きれ」でございました。




 一方、王都を離れる馬車の中。


 左右を絶世の美女たちに挟まれたアルヴィンは、相変わらずのとぼけた顔で窓の外を眺めていました。




「……あ、イザベラ様。あの雲、リンゴの形に見えませんか? なんだか急に、果物屋のバイトでも始めたくなっちゃいましたよ」


「ふふ、アルヴィン様。貴方はもう、そんなことをしなくていいのですよ。……さあ、次は私たちの国で、思う存分『王』として君臨していただきますからね」




 最強の魔力に目覚め、世界中の女たちに狙われることになった男は、今日も今日とて、自分がどれほどの「ざまぁ」を引き起こしたのか、これっぽっちも気づいていないのでした。




 欲の皮が突っ張れば、宝もゴミに見えるもの。


 手放した後に泣き言を言っても、流した水は元には戻りません。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ