第6章:後の祭りと、祝祭の終わり
「……まって。待ちなさいよ、みんな……!」
ルナリア様の震える声は、華やかな退場の行進曲にかき消されていきました。
大広間の中心。
銀髪をなびかせ、聖女イザベラ様と女騎士団長に左右をガードされたアルヴィンが、ゆっくりと扉の向こうへ消えていきます。
彼を囲む女たちの背中は、まるで戦利品を抱えた勝者のように誇らしげで、誰一人として、床にへたり込んだ「元・飼い主」を振り返る者はいませんでした。
「アルヴィン! 私が悪かったわ、謝るから! ほら、貴方の好きな……ええと、何だったかしら、とにかく何かあげるから戻ってきなさい!!」
必死の叫び。
ですが、扉が閉まる直前、アルヴィンはふと足を止め、一度だけ振り返りました。
その瞳には、かつてのような「義務感」も「怯え」もありません。
ただ、道端に落ちている石ころを見るような、酷く平坦で、慈悲深い眼差し。
「ルナリア様。……もう、私のことはお忘れください。貴女が捨てたのは、ただの『盾』ではありません。……貴女の国を守るはずだった『未来』そのものですよ。……あ、そうだ。その落ちている手袋、片付けないと掃除のおじさんに怒られますから、気をつけてくださいね」
バタン、と重厚な扉が閉まりました。
会場に残されたのは、静寂。
そして、床一面に散乱した、数百枚の「白い手袋」の山だけでした。
「…………なによ、これ」
ルナリア様は、震える手で一枚の手袋を拾い上げました。
それは彼女が「祝福の紙吹雪」だと信じて疑わず、その中で狂喜乱舞した、自分への宣戦布告の塊。
つい数時間前まで、彼女はこの国の中心にいたはずでした。
ですが今、彼女の周りには誰もいません。
アルヴィンの覚醒を知った国王陛下は激怒し、彼女を「国益を損なった大罪人」として、北の塔への幽閉を決めたという噂が、すでに侍女たちの間で囁かれていました。
「……おーっほっほ……。なによ、みんなして。……私、王女なのよ? ……ねぇ、誰か、この手袋を片付けなさいよ……。ねぇ……」
返事はありません。
豪華なドレスの裾は汚れ、冠ティアラは無様に傾いている。
彼女が必死に拾い集めているのは、もはや愛でも忠誠でもなく、ただの「布きれ」でございました。
一方、王都を離れる馬車の中。
左右を絶世の美女たちに挟まれたアルヴィンは、相変わらずのとぼけた顔で窓の外を眺めていました。
「……あ、イザベラ様。あの雲、リンゴの形に見えませんか? なんだか急に、果物屋のバイトでも始めたくなっちゃいましたよ」
「ふふ、アルヴィン様。貴方はもう、そんなことをしなくていいのですよ。……さあ、次は私たちの国で、思う存分『王』として君臨していただきますからね」
最強の魔力に目覚め、世界中の女たちに狙われることになった男は、今日も今日とて、自分がどれほどの「ざまぁ」を引き起こしたのか、これっぽっちも気づいていないのでした。
欲の皮が突っ張れば、宝もゴミに見えるもの。
手放した後に泣き言を言っても、流した水は元には戻りません。




