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第七十六話 花の大祭〜ナゾの彼は彼女?

 ついに、春の大祭が始まった。いや、始まってしまった。この頃にはもう開き直っていたから、不安はない。

 ⋯⋯多分。


 「エイベル、服、ありがとな!なんか、やる気が漲ってきたよ!」

 「うん〜。タロス〜、頑張ってね〜!」


 オレっちは、エイベルに頼んでいたこの日のための衣装──スカイブルーの下地に桜っぽい淡いピンクの花柄入りのベストを着て、黒いスカーフをリボン結びにし、颯爽とパレードの出発地点へと向かった。


 本来ならばパレード用にお揃いの衣装を、ってとこだが、所詮は前座。パレード前半の多くの素人グループの一つに過ぎないので、それぞれが自前で用意する服で良いということになっていた。

 ただし、服の柄や装飾品だったりに、何かしらの花をあしらった物を身に着けないといけない決まりはあったが。


 




 ◇◇◇◇◇


 パレードの開始まで、あと三十分。

 ダンス学科の同志たちの集合場所に、到着した。


 「おはようございます〜!⋯ん??」

 朝の挨拶をするオレっちの目に、チュネミ三兄弟の姿が映った。

 金、銀、銅のそれぞれの体毛に合わせた、白、青、緑の服はいいとして、彼らの首からぶら下げているものを見た瞬間、オレっちの脳裏に、かつての常夏の楽園が浮かんだ。


 青い空、蒼い海──椰子の木と白い砂浜。そして、現地で歓迎してくれるキレイなお姉さんたち──いや、オバサンやオジサンたちもいたな。彼らの歓待の証、レイを手に持って。


 そう。チュネミ三兄弟の首には、レイが掛けられていた。しかも、ハイビスカスに似た花が。色は青だが。


 「今朝、カーチャンとネーチャンが作ってくれたっチュー!」

 「ウチの庭で咲いてた花だっチュ〜♪」

 「名前は分かんないけど、キレイな花だっチュ〜ウ☆」


 知らんのかい。つーか、形は似てるけど、色といい咲く時期といい、前世とは別モンだな、ありゃ。

 他のメンバー達も、生花や造花を身に着けたり、オレっちと同じ花柄の服を着たりしていた。


 「レキュー先生、スゴいですね、その帽子!」

 「ソウ?まあ、頭が少し重いケド、今回は踊る訳じゃないしネ」


 レキュー先生は、たくさんの花が飾られた帽子を被っていた。生花もあるし、造花もある。造花の方は見たことのない花で、一部、キラキラした石が使われていた。

 「宝石⋯じゃないですよね。キラキラし過ぎだし」

 宝石の輝きとは別の、光が弾けたかのようなキラキラだった。


 「これはネ、隣国のネーヴァから輸入されてる『星の石』という装飾用の人工魔石で、特殊な製法で作られている物ヨ」

 「へー。そういえばネーヴァって、最近、ドンドン珍しいものを輸出してるんでしたっけ?」


 確か、新型の魔導器なんかも売り出してるって聞いたな。なんでもネーヴァは、統一国時代からあった規制を撤廃して、写真魔導器なんかも安価で売り始めたって話だ。

 視覚転写スキル持ちには悪いが、便利さってとこでは、その他の者にはありがたい。


 ただ気になるのは、最先端な技術躍進が徐々にではなく、急速に起きているという点だ。国内に天才発明家でもいるんだろうか?一人の天才が時代を変えるってのは、前世でもあった話だからな。

 エジソンやアインシュタイン──ビル・ゲ◯ツ、スティーブ・ジョ◯ズ──そのうちの何人かは、多くの逸材を束ねた才能がスゴいって意味での、天才だったが。


 どっちにしても、最近のネーヴァは不気味だ。パールアリアから独立して二百年──何度も政変があって、常に不安定だった国だし。

 

 「サア、みんな!そろそろ、位置に着いて頂戴!」

 レキュー先生のかけ声に、ハッとする。いかん!集中、集中!


 大勢の素人ダンサーチームが列をつくる中、ザッザッと、オレっちたちダンス学科チーム、総勢24名が、横に三列、縦に八列で並ぶ。

 チュネミ三兄弟が先頭に立ち、上級者という名の問題児三名が、最後列についた。

 オレっちは、四番目の中列、左端──まずは、拳法ダンスだ。


 「はっ、ハッ!破っ──!!」






 ◇◇◇◇◇


 「はぁ、はぁ⋯」


 あと少し、あと少しで、他のチームとの交代が──

 水⋯じゃなく、光フラフープの腰フラが、マジでしんどい。でも、沿道の観客たちにはウケている。

 拳法ダンスから始まった奇抜な踊りは、いい意味で目を引いたようだった。

 頑張れ、オレっち!あの赤い旗の所で交代なんだから!!

 入れ替わるダンスチームが、すでに視界に入っていた。


 「⋯⋯アレ?」


 その瞬間、オレっちは、なぜか沿道にいる黄色と白のマーガレットっぽい花束を持った犬獣人の女性と目が合った。

 彼女がニッコリと微笑む。


 ⋯⋯どこかでお会いしましたっけ⋯?


 鼻筋が長く、整った顔立ちのコリー似の犬獣人だ。淡いセピア色の瞳と茶金色と白の体毛のどこにでもいそうな、そこそこの美人さん──ん?あの肩から下げてる魔法鞄(マジックバッグ)には、見覚えがあるような⋯?

 「あ!」

 去年の夏の誘拐事件の時に、茶トラのニーブ君が持っていたガマ口魔法鞄に、似てる!

 いや、でも、彼女は女性だし、犬獣人だし──だけど、なんとなく雰囲気が似てるような気もする。外見はまったくの別人だけど──

 と、とりあえず、ステータスで確認を!


 ステータス・オープン!



 ✕✕ ✕✕✕✕✕  ✕✕✕ ✕✕✕✕✕


 ✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕


 ✕✕✕✕✕✕✕──────


 ────────




 アレ──壊れた!?てか、バグった!?



 「キミ、交代だよ。早く、離れて!」


 気がつけば、向日葵(ひまわり)カチューシャを頭に着けたアナグマ男子が、オレっちの目の前にいた。

 「あ、す、すいません!!」


 シュパッとその場を離れ、ダンス学科のメンバーたちとも合流せずに、ニーブ君(?)を追う。


 「あ、あの──!」

 「また会ったね、()()()君」

 「え⋯⋯」

 犬獣人のお姉さん──ニーブく⋯ニーブさんは、セピア色の瞳を細めた。


 「あのダンスは面白かったよ。久しぶりに目新しいものを見たって思えた。でも⋯⋯他人のステータスは、やたらに視るものではないと思うよ?」

 「ご、ごめんなさい!」

 怒ってた感じはしないけど、オレっちは頭を下げた。

 「あの、それで貴女は──」

 「──私は、過去の亡霊のような者なんだ。異界の転生者といえど、私と関わらない方がいい」


 ニーブさんは、視線を手に持っていた黄色と白の花々に移した。でも、花を見ているというより、別の何かを見ているような──

 それはともかく、転生者と言われたオレっちは、ドキっとすると同時に、ああ、やっぱりな、とも思った。

 茶トラ猫獣人の姿の時もそうだったけど、静謐っていうか、あまりにも落ち着いた雰囲気が悟りの領域に入ってるっていうか──この人はやっぱり⋯⋯


 「タロスー!ナニしてるノ〜?」


 レキュー先生の声に反応して、顔をそちらに向けた途端、気配が消えた。

 あわてて振り返ったが、ニーブさんの姿はなかった。残っていたのは、地面に落ちた一輪の白い花だけ。

 オレっちは、そっとその花を拾った。マーガレットに似た、清楚な可愛い花。


 「あら、マーレットの花ネ。素朴ないい花だけド、私は、ウルドラで改良されたマーガレッドの方が好きだワ」


 マーガレッド──おそらく、赤の賢者様の歴代の奥さんの一人だった女性の名だろう。

 ⋯⋯ニーブさんのことは考えても仕方ない⋯⋯というか、そもそもオレっち、チート系の転生者じゃないから、そんなに警戒されてもいないだろうし。それでも少しは気になるけど⋯⋯特に、真の性別が。


 「それはともかく、貴方たちのパレードは、なかなか好評だったわヨ!斬新さだけなら一番だったカモ!」

 「オレはもう、体力的に限界でしたけど⋯⋯そーいえば、今日、ミンフェアさんを見ませんでしたけど、どーしたんでしょうね?」

 練習の方は、ちょくちょく見に来てたのにな。


 「ミンフェアは、初めての彼氏と大祭デート中ヨ!春は恋の季節だからネ〜♡」


 初めての彼氏ですと!?意外。もう、五、六人ぐらいとつき合ってるようなイメージがあったんだけど!

 でもって、長続きしないパターン。

 なんせ、外見とは裏腹の性格しとるからな。表が妖精で、裏が邪妖精。


 よし!半年保たない方に、10億ベルビー!!(もちろん、ミンフェア先輩がフラれる方!)

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