第三十八話 初テスト前のアレコレ
メロスへ。
ミンフェア先輩のレッスンは、秋の大祭へ向けての特訓というより、アイドルがファン向けにサービスするような──つまり、ファン以外の人が見ると、無の境地になるっていうか、要らんもん見せるなっつーか⋯⋯尻尾を向けてケツを振り、二回転して右手を胸に、左手を差し出してニッコリと微笑む。
⋯⋯先輩は、それがカワイイって言うんだ。
あざといの間違えじゃねぇの?としか思えないオレって、反抗期なのかな?メロスは、どう思う?
話は変わるけど、ポラリス・スタージャーの祭りって、どんなの?確か、夏に大きな祭があるんだっけ?一度、観てみたいなー。そうそう、大獣国名物、朱金蟹と青銀鮭も食べてみたいな。ハチミツも有名だっけ?うちの国のハチミツだって、めちゃウマなんだぜ?学食のパンケーキにかかってるから、食べてみなよ。
タロスより。
今日もまた、メロスの机の中に手紙を入れる。そういえば、もう一ヶ月近くになるなぁ。あれからまた編入生が三人入ってきたけど、個性控え目で目立つことないから、あんまり興味ないんだよなぁ。ステータスもフツーだし。(普通にプライバシー侵害)
◇◇◇◇◇
「あと一ヶ月で夏休み前のテストがあるから、気合を入れて質問してね」
そう言ってモブラン先生は、また居眠りこいてるアランの肩を、リンゴ笏で叩いた。
「もし、残念過ぎる結果だったら、クラスレベルを下げるからね」
⋯⋯第2レベルクラスに落とされるのか。いや、出戻りになるのかな?オレっちとエイベルは第3レベルクラスからスタートだったから、第2レベルクラスがどういうもんだか分からないけど、やっぱレベル下げられるのは嫌だな。気合を入れないと!
「先生!テスト範囲は、今までしてきた授業内容だけでいいんですか!?」
オレっちの質問に、モブラン先生は栗色の瞳を細めた。
「もちろんそうだけど、その内容に関わる教科書のみの記述もあるからね。自主的な勉強もしておかないと満点はとれないよ。ちなみにそれぞれの勉強期間によって採点するから、自分たちが受けた授業内容だけでいいからね」
そうか。ノートはバッチシとってるから、教科書の内容と合わせなければ。⋯⋯考えてみると、今まで教科書なんて全然開いてなかった。魔法具ボードと先生との質疑応答だけで勉強してたからな。でも、その方が頭に残ってるから不思議。
それにしても、モブラン先生って大雑把そうだけど、皆の授業期間をちゃんと把握してるんだな。地味にスゴい。
「どうしよう〜タロス〜。僕〜数学苦手なんだ〜」
「オレもだ。はっきり言って好きじゃないから、頭に入ってこない」
単純計算ならまだしも、複雑な数式になってくるとパパッとは解けない。前世でもこの分野は苦戦していたからな。
もう半ば諦めて、他の科目で点数を稼ぐか。エイベルは統一国語が得意だし、オレっちは歴史と地理が得意だ。神獣学もそこそこできる。基礎学科はトータルで判断されるから、何とかなるだろ。てか、オレっち、第3レベルクラスの中では一番若い幼獣体なんだよな。全然焦る必要ないやん。
「大丈夫だ、エイベル。あと19年と10ヶ月(無料期間)もあるんだぞ?ゆっくりやろうぜ!」
「⋯⋯そうだね〜、このクラスで足踏みしても〜、何とかなるよね〜」
エイベルは、安堵したかのように、皮膜翼をパタパタと動かした。
「──のんびりし過ぎると、ボクのように三年以上もクラスレベルが上がったり下がったりの足踏み状態になるケドね⋯⋯」
「キュ!?」
アランが普通にしゃべった!
今まで、二言、三言がせいぜいだったのに!モブラン先生のリンゴ笏で叩かないと口を開かないアライグマ⋯じゃなかった、アランが!
ハッ。問題はソコじゃねえ!アラン、自覚してんなら、居眠りこくなや!その授業態度がマイナス評価になってんだよ?今年こそは第4レベルクラスに上がらないと!
「まあボクは、第5レベルクラスで卒業するつもりだけど。家業の手伝いで生きていくから、最低限の学歴でいいし」
アランは、あっさりとカミングアウトした。
前世でいうと第5レベルクラスでの卒業は、中学校卒業ってことだ。第7レベルクラスで高校卒業、第10レベルクラスが大学卒業で、最終の第12レベルクラスだと教授や官僚、高位神官職に就けるエリート層になる。
確かかーちゃんは、第7レベルクラス卒業だったはず。エイベルのジイジ⋯執事さんは、第10レベルクラスを卒業した後に、お屋敷で執事見習いになったらしい。さらに言うと、お屋敷の坊っちゃんは、現在、第8レベルクラス在学中で、お嬢様は、第9レベルクラス在学中。
妹に負けとるやん、坊っちゃん!
ところで、アラン家の家業って何だろう。気になるな。⋯⋯ストレートに訊てもいいけど、他にも気になるとこがあるから、ここは一発──はい、ステータス・オープン!!
名前 アラン 加護種名 ラスカリオ
HP 900/900 MP 1100/1100
水LV5 土LV3
スキル 水鉄砲 落とし穴 緻密画才
古き神々の一柱、ラスカリオンの加護種。
実家は、歴史ある染色企業。ビスケス・モビルケの染色技術は高く、柄なども多彩。今でこそ魔導器化された大量生産品ばかりだが、アランの趣味は、桶での手染めと柄の手描き。三人兄弟の末っ子なので、自由に生きている。
兄二人とは70歳近く歳が離れているので、父母を含めて、四人の親がいるようなもの。彼の楽天的な思考は、彼らの過保護から端を発している。
彼の居眠りは、柄を描く作業が楽しくて夜更かしすることが多いから。その結果、半分寝ながら登校し、授業中に爆睡するという悪循環に陥っている。
⋯⋯数年だけ勉強に集中して、卒業した後、趣味に生きればいいのに。
あと、甘やかし過ぎだろう、親兄弟。将来を心配せずにのんびり生きれるっていいな〜、とは思うけど、山もなく谷もない人生って、逆につまらなくねぇ?
まあ、人様のことは放っといて、オレっちはどうしようか。
とりあえず第5レベルまでは上がるとして、その後は──休学もありきだし、その時点の状況とかもあるしな。不安はないけど、考えることはいっぱいありそう。とりあえず、初試験をクリアしないと。
記憶しやすいように、興味あることをバンバン質問しまくるか。
「では、歴史の勉強を始めよう。何か知りたい事はあるかな?」
「ハイっ──」
「先生!人間の国の歴史で解らない事があるんですけど!!」
モブラン先生の授業が再び始まり、オレっちはすぐさま質問しようと手を挙げたのだが──甲高い女子の声に、掻き消されてしまった。
くそっ!声量で負けた!カナリアみたいな声出すなや!顔も似てるけど!!
「真実の愛の物語のことで、どーしても知りたいことがあるんです!」
⋯⋯真実の愛⋯⋯?




