第三十九話 ある人間の国の真実の愛の話①
彼の国の『真実の愛』は、実に有名な話である。なぜなら数年前に女性向けの物語として発行された本が人気となり、映画や舞台等でも、たびたびそのエピソードが登場するからだ。
実際、去年のお屋敷の夏パーティでも二次使用した。オレっちは王子の取り巻きその①、エイベルはその②だった。
しかし、この物語の元ネタは、作者の生誕地である国では長きに渡り負の歴史として認識され、庶民の間でのみ密やかに語られる昔話だったという。
そのためなのか、物語の内容は、王子と男爵令嬢に改変され、内容もその後なしの『めでたし、めでたし』までとなっている。その上、作者はこの本を隣国の出版社に持ち込んだ直後に、その国の国籍を取得して移住した。⋯⋯家族ごと。
作者が逃げる。その時点で分かったね。この物語がヤバさが。
さて、なんでこんな話をしているのかと言うと、オレっちの質問を遮った高音声のカナリア女子から『真実の愛』という本の話が出たからなんだよね。
何でも彼女はこの物語を読んで、史実の方の話にも興味を惹かれたらしい。でも、彼女が読んだ彼の国の歴史書には、当時の王太子らしき人物と思われる王の名はあったものの、在位が五年程しかなく、その他の記載が全く無かったらしい。
オレっちは、察したね。ざまぁ返しだと!!──と、思ったのだが、とりあえず最後までモブラン先生の話を聞こう。
◇◇◇◇◇
モブラン先生の話は、まず基礎となるその国の概要から始まった。
『真実の愛』の国の名は『マリアベル王国』。
その昔、彼の国に実在した最後の竜人賢者の名である。賢者とはいえ海の呪いには勝てず、竜体化はできなかったそうだが。
半神やその子孫である賢者の名は、ありとあらゆる名称となり、もはや枯渇状態。
例えば、各国の名称がそうだ。唯一の例外が小獣国で、ビスケスとモビルケ、そしてマルガナは、小獣種の独立の際に活躍した小獣人の名で、当時の賢者様が彼らの労をねぎらい、その名を付けたという。
さて、現在も君主制であるこの国の始まりは、竜人賢者、マリアベルの死によるその後の混乱から生まれた。
そもそも彼女の寿命が近い段階で、竜神殿の高位神官、かつて上位竜人として権力を持った階級の血筋の者、国内の大商人や高名な学者──それらが政治参加する議会制を成立させていた。
ところが、マリアベルの死後、これらの派閥の争いが表面化し、ついには、マリアベルの最後の夫であった者を後継者として推す者たちが現れ、彼らと神官派の真っ二つに分かれてしまったのである。
夫側の言い分としては、マリアベルの寵愛を受け、由緒ある一族出身の夫こそが彼女の後継者として相応しく、魔力が高いだけの神官たちや成り上がりの商人なんぞにこの国は任せられない──と言うものだった。
高位神官たちは、鼻で笑った。ついでにオレっちも笑った。
賢者の夫とはいえ、彼が婚姻した時には、もうマリアベルはほぼ眠った状態だったからだ。つまり、男バージョンの白い結婚。
モブラン先生曰く『おそらく袖の下で木っ端神官を取り込んで、書類上だけの婚姻にしたのだろう』とのこと。後から思えば、この難癖をつけるための布石だったのだろう。
賢者様に少しも敬意を払わないこの連中と竜神殿の神官たちの対立は、結局、国を二分する結果となった。オレっちとしては、あのニセ夫側に着く陣営がそこそこいた事に驚いたが。
『当時の神官たちの腐敗も、相当酷いものだったそうだからね。皆、不満だったのだよ』
モブラン先生の言葉で、超納得した。
議会制と言っても、実際は高位神官のやりたい放題だったのだろう。しかし、腐っても竜神殿。竜の神々の威光は、海の呪いで加護を喪ってもなお強く、三分の二の国民は、新たなる国──パールアリア──竜賢者マリアベルの母の名を冠する国に集った。
⋯⋯あ~⋯⋯賢者様の名前、盗られたから。でも、オカンの名前って(笑)
ちなみに、彼らの宗主国である竜人国、ウルドラは、この内乱には無関心だったという。半神の血筋が絶えた時点で彼らは区切りをつけ、経済面だけの繋がりのみで交流する方向に舵をきっていたからだ。
そんなこんなで建国されたマリアベル王国は、自称・賢者の夫を初代の王とした。そして、祭り上げられた王は、内乱で功績を挙げた者たちに爵位を与え、国を絶対君主制へと移行させた。
それから数百年後──一人の王太子が、婚約破棄騒動を起こす。
ヒロインは、平民少女。そして、悪役令嬢は侯爵家の娘。
実際のヒロインは、竜の神々の加護を喪った人間にしては珍しい、治癒スキル持ちだったそうだ。
この世界、前世のマンガや小説のように、光と闇の属性持ちはいない。あるのは、風、水、土、火だけ。癒しも呪いも、スキルの中にしかないのだ。
オレっちとしては、あるはずのない光と闇の属性持ちチートで、成り上がり人生をやってみたかったんだけどね!ないものは無い。あるのは地道な努力だけ(泣)あ。今日、壁の花⋯じゃなくて、花の壁の水やりしてねーや!ヤベー!
「実は、こうした内容は全て不仲である隣国、パールアリアの書物に書き記されているんだよね。マリアベル王国では後世に遺したくない歴史でも、パールアリアからみれば、隣国のおバカ王の呆れた話だからね」
⋯⋯もしかして。
「先生!作者の亡命先って──」
「パールアリアだよ。マリアベル王国は先王の経済政策の失敗でずっと不況だし、身分制度があるから平民は正しい評価を受けにくい。自由な言論もない。それがあっての亡命だろう」
でしょうね!議会制民主主義、万歳!!
「さて、この王太子の話だが──あ。もう時間がないね。続きは、次の授業で」
引っ張りますな。さて、結果はザマァかザマァ返しか──オレっちは、ザマァ返しに100ベルビー!!⋯⋯賭ける相手がおらんけど。




