第二百話 十年後の状況①
最終章前の、まだ余裕のある時期の状況です。
フブル姐さんが竜母神の竜神器を使って深い眠りについてから十年──小獣国歴2026年。
十一年前にネーヴァに占領されたパールアリア、二年前に侵略されたマリアベル王国はネーヴァに統合され、『エル・ハデス』として、ウルドラム大陸一の人口を抱える大国となっていた。
そしてその一年後に、エルフの国であるブルタルニアが、この新たなる国と正式な国交を結んだ。
それまで人間の国々と公の国交を結んでいる国は無かったから(宗主国であるウルドラさえ正式には交わしていない)これには全加護種がビックリした。しかもブルタルニアは、今まで人間の国との経済的な行き来さえ一切なかった国だ。
ビスケス・モビルケ国内でも困惑した声が多く出たが、オレっちからしたら『まあ、そうなるだろうなぁ』⋯って、感じだった。
エル・ハデスこと元ネーヴァは、暗黒大陸にある本家本元のエル・ハデスにいるザドキエルの傀儡国。ザドキエルへ忠誠を誓っているエルフの女王が、彼のウルドラム大陸統一に向けて協力するのは当たり前だからだ。
だが、そうした裏事情を知らない者たち──そう、ブルタルニアの一番の友好国で隣国でもあるアメジオスでは、ビスケス・モビルケ以上の驚きがあったと聞く。
そのアメジオスと言えば⋯⋯ミルトちゃんは五年前、カトラジナ様の元に戻った。精神的に不安定になったカトラジナ様を支えるためでもあり、アメジオス国内に入り込んでいるザドキエル側の憑依神たちの行動を邪魔するためだ。
もちろん、実際に彼らと対峙するのは、こちら側の憑依神様たちである。だけど⋯⋯
「ハッキリ言って加護人の憑依神様たちって、数が少ないんですよねぇ⋯⋯」
《加護人の加護神は、もともとアルファデウス側の眷属神が多い。だから今回の憑依降臨も、二の足を踏んでやがる》
カガリス様曰く、今の時点でそれぞれの加護種たちに憑依しているのは八割方メガニーブ様側の眷属神だそうだ。
実際アメジオスの裏側では、数少ない加護人憑依神様たちと、憑依人形を依り代にした闘神様たちが、ザドキエル側の憑依神たちと戦っている。そうでなければ、とっくにアメジオスは第二の傀儡国となっていたハズだ。
《闘神たち──猿王の奴なんかはただの遊びでやってるが、それでもタルタロスの旧神たちを次々と封印してくれてるから、それはそれで助かる!》
猿王神様か。正確に言うと、猿王神様とその眷属神の三柱組なんだけどね。ちなみに彼らは、この竜リゾートの最南端の宙に浮かぶ岩島に仮住まいしている。
何度かカガリス様に憑依された状態でお会いしたことはあるけど、猿王神様は常に酩酊してる状態だった。ろれつが全然回ってないから、ろくに会話もできない。まぎれもなく、アル中神である。
《ウラ〜〜、✕✕△◯✕✕〜〜!!》
《あー、ハイハイ!アレですね、お~い、アレだ!!》
《アレ⋯⋯まだありましたかね??》
常に猿王神様の傍らにいる朱金毛と青銀毛の眷属神たちは、慣れているのか以心伝心なのか──そんな主の言葉を聴き取っては、甲斐甲斐しく世話していた。
猿王神様も酔っ払ってなければ蜜金毛の凛々しいお顔をしたイケメン(猿顔だけど)だとは思うんだけど、酩酊して崩れたお顔しか拝見できてないからなぁ⋯⋯残念!
正直、猿王神様に味覚がある特別な憑依人形は要らんかったと思う。味覚さえなければ酒の味もわからんのだから。
《そこは心配ねぇ。奴は酔ってる時の方が神力が上がるんだ。回避率も異常に高くなるしな!》
⋯⋯ソレって、酔拳??
ちなみにチルドナも、この味覚有りの人形に憑依替えしている。
『副作用で痛覚もあるけどー、やっぱりコッチの体の方が生身に近くて、断然使い勝手がいいです!』
いや、痛覚だけじゃなく、暑さ寒さも感じるから逆に不便だろ!?
《オメーにはもったいねぇ貴重な依り代だ!大事に使えよ!!》
『わかってますよー、感謝してまーす!!』
チルドナはいつもの軽い口調で言ってたが、本当にこの特別仕様の憑依人形は、極めて生産数が少ないのだ。
実際、その核を造るには強い神力が必要だと聞いたし。
でも意外なことに、その核部分の神力はそれらを製作したドワーフの加護神様たちのものではないという。
じゃあ一体、何処のどなたの?⋯とカガリス様に問うと、なんとフブル姐さんの姉神様たちの神力だった。
《姫様方には加護種がいねぇから直接憑依する事はできねぇ。しかも、メガニーブ様の命で憑依自体を禁じられている。だからその代わりに、こうした支援をして下さってるっつー訳だ!》
妹であるフブル姐さんのために⋯⋯か。そう考えると、ますますアル中神やポンコツなチルドナには勿体ない品のような気がするんですが。
まぁそれはともかく、やはり現時点で一番頼りになるのは、この憑依人形やザドキエル側の憑依神たちの神魂を封じる封印具を量産しているドワーフの加護神様たちだろう。製作チート、万歳!!
◇◇◇◇◇
「ま〜あ、テスタロッサ!貴女、また随分と珍しい小獣人を連れてきたものね!!」
真新しい白い大理石を壁や床に使用し、魔石を動力とする大きな照明魔導器が明るく照らし出す、吹き抜けの大ホール。
色とりどりの華やかな衣服を身に着けた人々の間から、一際甲高い女性の声が響いた。
「ホホホ!そうでしょ?このコ、本当に希少種なのよ〜!」
縦ロールの金髪巻き毛をしたオレっちの雇い主──テスタロッサ嬢が、派手な花柄の扇を開いてニンマリと笑った。お嬢様にしてはちょっと品の無い笑い方だとは思うけど、期間限定とはいえ雇い主は雇い主。ここは同じくニンマリと愛想良く笑っておこう。
「さすが、マリアベル王国一の⋯⋯ではなくて、エル・ハデスでも有数の資産家令嬢ね!」
栗色の髪を小粒の真珠の細工物でキレイにアップにした女性が、慌てて国名を言い変えた。
マリアベル王国がエル・ハデスに吸収されてからまだ二年余り──言い間違えても仕方ないと思うケドね。
「あ〜ら、そんなに高くはなかったわ!それよりも、この希少な小獣人を紹介してもらえる方に時間が掛かってしまって⋯⋯それもまぁ、有力な伝手があればこそだけど!ホホホ!」
「まあ!」
「カリスって、本当に希少種の中の希少種だと聞くわ!さすがね!」
最新流行のドレスや高価な装飾品を身に着け、華やかに着飾った若い女性たちが、こぞってオレっちへと熱い視線を向ける。
「さあ、タロス。皆様にご挨拶を!」
一時的な雇い主──人間にしてはそこそこの富豪の娘であるテスタロッサ嬢が、声高らかにオレっちに命じた。
よーし、お仕事、お仕事!
先に頂いた前金分は、キッチリお仕事しますぜ!!
ソロリ、ソロリと足を交互に出してクルリと全身を一回転した後、オレっちは優雅な仕草で左手を胸に当てて、右手を前方へと差し出した。
「お初にお目にかかりマス。ワタクシ、ここにいらっしゃるテスタロッサ様のお付きの、タロス・カリスと申しマス♡♡」
ゆっくりと頭を下げて、ご挨拶。
ホラホラ、自慢の花冠を見てくだせぇ!キレイですやろ!?エエ香りですやろ!?
少し間をおいて顔を上げ、両の瞳を全開にし、あざとく可愛く微笑む。──これぞ、ミンフェア先輩考案のKAWAIIカリス技!
まさか、今になって(再び)役立つ時が来ようとは思わなかったぜ!
「まあ⋯⋯!」
「なんて愛らしい!」
「⋯⋯カワイイ⋯!!」
効果はバツグンだ!人間って、ホンっトに単純っ!
もふもふっ♡ラブラブっ♡も一つオマケに、投げキッス♡♡
キャーッ♡♡
彼女らのダンスパートナーを差し置き、その場を一番に盛り上げ、さらには得意のダンスまでフロアの中央で軽やかに披露したオレっちは、完璧に依頼された仕事をやり遂げた!!!
《⋯⋯タロス。オメーにはブライドってもんがねぇのか⋯⋯》
「ありますけど、ソレよりは金儲けしたいんで!!え~と、二十一、二十二⋯⋯」
契約を終えてビスケス・モビルケへと帰る準備をしていたオレっちは、テスタロッサ嬢に後払いしてもらった魔法紙幣を手早く数えていた。
フムフム、成功報酬五十万ベルビー。前払いの分と合計すると、八十万ベルビーか。この一週間、ワガママなテスタロッサ嬢にくっついて、それでも笑顔で頑張ったもんな〜〜。
しっかし、テスタロッサ嬢が出掛けて行った社交パーティーには、元貴族(マリアベル王国は二年前の敗戦後、王族も貴族も全員平民落ちした)の参加はなかったな。皆、領地も財産も没収されて、参加する余裕なんてなかったのか?
でも、命があっただけマシってもんですよ。某世界では、一般公開のギロチン刑だったしね!
ところで──オレっちは一体何をしてるかだって?
フッ。今のオレっちは、小獣学校を休学して職業体験を積んでる身なのよ!
ま、少々遠出し過ぎて一番アメジオスと近い人間の国(元マリアベル王国)まで来ちゃったケド!!
そう。オレっちは今、22歳。
前世なら完全に大人だけど、小獣人の平均寿命は300歳。よって、オレっちはまだまだ若い!
実際、外見だって十代半ばぐらいだし!ちょっと他の加護種よりも成長が遅い気もするが、コレも憑依の影響なのかもしれない。
オレっちとエイベルは、フブル姐さんが再び眠りについた後、これからの先のことを考えて少し早めに進級し、第五レベルクラスを卒業した。そして、職業体験するという名目で休学。
それからは適職探しと並行して、同じく休学したエイベルと共に、次々と竜リゾートにやってくる加護種憑依体の受け入れや活動サポートなんかをやっていた。
ちなみにお試し職は、商店の売り子やレジャー施設のスタッフ、工場や倉庫の軽作業に、農家の手伝い──などなど、いろいろやった。だけど最終的に一番長く続いたのは、楽に大金が稼げる仕事である人間の付き人だった。
見栄っ張りな──特に成り上がり系の人間の金持ちは、見栄えのいい人間か、オレっちのような希少なカワイイ獣人を連れ歩くことを楽しむ傾向が強い。
だから市民魔導師に登録した上で、他国から舞いこむ実入りの良い付き人の仕事を斡旋してもらっていた。
人間の国への出稼ぎはかーちゃんには心配されたが、統一された人間の国──エル・ハデスは、今はまだ加護種たちの国々に直接には関わってはいない。
もちろん裏ではザドキエル側の憑依神絡みで向こうの人間たちも関与しているだろうが、表では一兵たりとも軍を動かしていないからな。
そもそもザドキエル自身が公に姿を現さないからアチラも動きが鈍いし、以前より停滞している感もある。
だからこそ今のように出稼ぎしたり、古き神々の憑依体たちのお世話なんかもできているんだけど──でも、それだけじゃないよ。
オレっち、冒険者ギルドに認められた正式なダンジョン冒険者にもなったんだぜ!
エッ、お前、弱っちいクセに?⋯だって!?ノンノン!
オレっちは、十年前とは別人のように強くなったの!!ただし⋯⋯自力ではなく『裏技』使ってだけど。いや、でも、運も実力のうちって言うしぃ?
まあ、それは後々説明するとして。今のオレっちはシン・タロスってな感じなのよ。(謎)
さて。この仕事も終わったから、次はマルガナにある旧ダンジョンの八階層を攻略するか!ライブルのアニキも、二日後には竜リゾートに戻るって言ってたしな!
そう。ライブルのアニキも七年前に憑依体となって、ビスケス・モビルケに入り込んだザドキエル側の憑依神と戦っているのだ!(カガリス様とオレっちは、治癒専門の裏方だけど)
⋯⋯と言っても、今はまだビスケス・モビルケにまでやって来る敵はかなり少ないので、こうした派遣バイトやダンジョンに潜る余裕があるんだけどね。
あ、ちなみにオレっちとライブルのアニキのコンビパーティ名は、『一等神星』っていうの。
他にもカッコいい名をいろいろ考えたけど、すでにある名称とかぶらないようにするのが大変で、消去法でコレに決まった。
メンバーは、基本オレっちとライブルのアニキの二人だけだが、ゲストメンバーが参加することがとにかく多い。そう、例えばこれから合流する奴ら──って、またあいつらだった!!




