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第百九十九話 神魂転生(後編)

 ザドキエルを産んだ女神は、アルファデウスの末娘だった。


 彼の女神は、アルファデウスの子らのなかで一番強い神力を持っていたと聞く。同時に、我が強い気質で、我が姉神たち──特に三番目の姉神とは犬猿の仲だったとも。


 『あの女は、とにかく自分本位で傲慢なの。そのクセ、父神⋯⋯アルファデウスの前だと借りてきた猫みたいに大人しくて⋯⋯アレは、ファザコンといやつよ!』


 ファザコン──そう言う姉神は、マザコンだと言われているが⋯⋯ああ、だから余計に仲が悪かったのか。


 『だから、あの女がザドキエル(あのコ)を産んだ時、驚いたの!アレは、絶対に子供を欲しがるタイプじゃないのに。今でも謎だわ?』


 姉神は、心の底から不思議がっていた。


 私は、かの女神とは面識が無い。だから姉神たちの言葉でしか彼女を知らなかった。勿論、ザドキエルの事もだ。

 そんな私がアルファデウス側の神々と会う機会が多くなったのは、過剰魔素期に入った下位世界への降臨後だった。


 当時、まだ幼かった私は、情報として数多くの下位世界を識っていたけれど、実際に降臨して下位世界での暮らしを体験したのはこの世界が初めてで、少し戸惑っていた。


 だが、それも初めのうちだけで、母神側の古参の眷属神であるカガリスたちと過ごす事で不安はなくなり、ウルドラム大陸に留まり続けること数万年──途中からアルファデウス側とは意見の相違から揉める事にはなったが、それでも私はこの世界を十分に楽しんでいた。


 加護種たちは感情が豊かで、行動も面白い。たまに加護契約を破棄されるような愚か者たちもいたが、大方の者たちは従順で善良だった。

 何よりも、加護種たちは私を特別に恐れない。私を他の神々と同列にとらえているからだ。


 彼らにとっては大神とは高みにあり過ぎる存在で、私がその娘だと知ってはいても、それよりは、実際に加護を与えてくれている自分の神の方が優先順位が高い認識だったようだ。


 これは、私にとって喜ぶべき事だった。


 何故なら私は、アルファデウス側どころか母神側の神々にさえ恐れられていたから。


 私だって、神滅なんて破壊の極みのような力は要らなかった。姉神たちのように少し強くて少し珍しいぐらいの程々の力で良かったのに。

 けれど、やがてそれ以上に、私は自分が異質の存在であることに気づいた。


 この下位世界の魔素が薄まるにつれ、姉神たちも他の神々も、神体の維持ができなくなったのだ。皆、次々と神界へと帰っていった。


 私は何ともないのに⋯⋯どうして私は、皆と同じでは無いのだろう?これも神滅の力と同じで、皆とは何かが大きく違うから⋯⋯?


 そしてついに皆が神界へと去った後、ザドキエルからの殺意と共に投げつけられた思念映像で、私は自分が何者なのかを知った。


 創造神のなり損ない──それは確かに驚くべき真実ではあった。だが、それでも私はザドキエルのように、親神に利用されただとか道具扱いされただとか──そうした恨み辛みの感情は抱けなかった。


 仮に、母神が創造神のなり損ないを利用しようとして自分の娘としての器を与えたとしても──私としては、神体を与えてくれた事に大いに感謝している。

 それに⋯⋯あの母神がアルファデウスより優位に立つためだけに、神滅の力を持つ創造神のなり損ないに体を与えるとは、やはり考えにくい。

 そこには、危険を犯すだけの何かの理由と目的があったとみなすべきだろう。


 けれども、それ以降、以前ほどには母神を盲目的に慕うことはできなかった。だからこそ一切の連絡を断ち切り、下位世界で独り彷徨い続けたのだ。


 ⋯⋯今のこの半死半生の状況は、神界と連絡を絶ち、自分一人でザドキエルと対峙しようとした結果でもある。しかも、最悪の結果だ。


 あの瞬間、ザドキエルは憑依神たちの王と意志を同調させた──あれらは、神魂の相性がいい。根本的な性格が似ているのだ。


 そもそもザドキエルは、見かけほど穏やかでも冷静でもない。アレは本来、衝動的な激情を抑えられないほど感情の起伏が激しい。

 好き嫌いも激しく、興味を持たない者にはどこまでも残酷だった。だが、表面上それを上手く隠す才があったからこそ、アルファデウス側の神族やそれらに連なる半神たち──そうした多くの信奉者を抱えていたのだ。


 憑依神の王もまた、感情的な面を強く持ちながら狡猾な冷静さを併せ持つ者だったのだろう。まさに似た者同士──しかも、恐らくあの王も我らと同じなり損ないだったに違いない。

 そうなると、たとえ元の神体に戻れたとしても、同化した彼らには絶対に勝てないだろう。


 結局のところ、ユーグラムという竜神の半神の話にのるしか手がない。だがそれは、私が別人となるという事でもある。記憶という情報が残っていても、それは最早私ではない。


 それに──新たなる神格が今の私と同じ思考を持っているとは限らない。最悪、ザドキエルと同調して神界を滅ぼす側にまわる可能性もある。


 何よりも新たなる私は、竜母神の支配下に置かれる事になる。竜神たちと同じく、神力の供給を受ける側となるのだ。当然、意思の介入もあるだろう。


 ふっ⋯⋯そもそも竜母神とは、創造神の別称だ。結局、なり損ないの私も、その一部として回収される定めだったか──


 いや、それでもいい。もう神界も下位世界も関係ない。だだ──ザドキエルに負けっぱなしだけは許せない。

 神魂転生──やってやろうじゃないか⋯⋯!






 ◇◇◇◇◇


 《ううっ、末娘様──》

 《姫様⋯⋯》

 《フブニール様──》


 カガリス様、ヴァチュラー様、ムーヴィ様──そしてオレっちは、フブル姐さんが決断するその瞬間を、しかと見届けた。


 フブル姐さんの神魂は、再び深い眠りについた。竜神器とやらの金色の光の帯が、姐さんの神魂が入った例のキューブの外側で激しく渦巻きながら回転している。


 「竜神器と神姫殿の神魂は融合し始めました。ですが──どれ程の時間を要するのかがわかりません。一年先なのか百年先なのか──あるいはもっと先の未来なのか」

 

 この中で一番冷静なユーグラム様の声が、ヤケに大きく聴こえる。


 ⋯⋯もしかしたら三百年後に目覚めて、オレっちは二度とフブル姐さんに会えないかもしれない。

 それでも──オレっちは待つ!それこそ、再度転生してでもっ!!

次回は、いきなり10年後にとびます。

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