第五章 溺愛
GCR1課が赤ちゃんぬこを保護してから数か月が経った。今日も、かわい子ちゃんの周りには大人たちが集う。この子が動く度に黄色い歓声を小声であげて見守るのだ。もちろん、俺も例外ではない。怖がらせないように慎重に触れ合う。ある日、目が開いたかわい子ちゃんと目が合った。最初こそ固まっていたが、俺に敵意がないと分かったのだろう、少しだけ見つめてくれた。寸刻後、目を開けているのも疲れるのか長いまつげに目が隠れた。
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病院外で彼女と寄り添いあって生きられている今、ふと思い返せば、様々な検査があった。再三いうが、この子の主治医になったのは一課の人事課医療班に所属しつつ、ぬこ、主に小児のぬこの医師をしている石灘紗季という女性だ。紗季には触った物体が持つ過去の一部を映像として視る異能力がある。そこで、綿密な話し合いと紗季本人が下した許可の元に、この子の過去を紗季に診てもらうことにした。見終えた際の紗季の発言や涙と怒りで震えた声、苦痛と天上の存在に対する怒りで歪んだ顔が脳裏に焼き付いて未だに忘れられない。否、忘れようとも思えない。我々が抱いた怒りと紗季が抱いた怒りは同じものだから。
「っ、そんな、どうして……!なんで、なんでこんなこと出来るの!?神なんて、天使なんて……天界なんて滅んでしまえばいいのに!この子が何したっていうの!?」
「びっくりした!先生、この子の過去に一体何があったのですか……!?」
「すみません大声あげて……この子は正確に言えばぬこではありません、神が生み出した人型の兵器であり玩具である神工物です。また、あまりにも過去が重い子です。どうか心して聞いてください」
叫んだことで荒くなった息を整えてそう言った紗季の口から語られたかわい子ちゃんの過去はあまりにも重たいものだった。
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天界にある神殿の地下深く。真っ暗闇の中で緑色に燃え盛る同色の鎖に固く繋がれ、ただ広いだけの檻に閉じ込められていた。天井から吊るされた身体には無数の深い傷が刻まれていた。傷口から垂れる紅い液体が足を伝って床に溢れ落ちる。少しでも力を込めて握ればすぐにでも折れてしまいそうなほど細い手足には、体躯に似合わぬほど太い枷が嵌められており逃げることさえ叶わない。産みの親である神や人を喰らって生きる食人、神の寵愛を受ける天使らに酷く襲われ、何もしていないのに殴られ蹴られ、耳を塞ぎたくなるような暴言を吐かれ、ろくでもないがそれでも大切な食事を抜かれていた。暴行の末に大切なものを奪われて嘲笑される日々の繰り返しで。
要するに凄惨という二文字だけでは足りぬ程の虐待を受けていたのだ。
ある時には、焼けるほど強い日差しが昇っている青空の元へ引きずり出され、堅い石に縛り付けられ天界の民の眼前で普段のように暴行を受けた直後、1000℃に熱されたコテで目を焼き潰された。耳もそうだ。左耳に穴を空けられ、燃やされ、斬り落とされた。結果、外耳も中耳も内耳も全ての機能を失った。再び檻に戻されて泣くことも許されず、激しい痛みに無表情で耐えるしかなくなってしまっていた。当然、名前などはなく「忌み子」だの「失敗作」だと呼ばれては暴行を受けていた。長く鎖に縛り付けられ宙づりの状態が続いたせいで、足の神経が複雑に裂けてしまい足は麻痺した。全身の骨が複雑に砕け折れ、発育も再生もままならない状態に陥っていた。
ある曇天の日、彼女はボロ切れと化した布に包まれ、地上にある年雪山に廃棄された。そこでは、人間や悪魔をはじめとした様々な種族の者に暴行を受け、喉を貫かれ、肺と心臓を潰され大穴を開けられ、何度も多量に鮮血を吐いていた。喉、主に気管支に空いた大穴は不衛生な環境で菌が侵入して弱りきっていた体を巡った。当然、彼女の体はそれに耐えられず激しい炎症を起こして腫れあがり、気道を塞いで彼女から酸素を奪っていく。生きるために必要な衣食住などそんなものは当然だがなく、廃屋と化した山小屋の中に吹き込む吹雪を口に入った分だけ入れて溶かしていた。再三いうが、そんな環境が衛生的に良いはずなどなく、風邪を拗らせていた。免疫力が低すぎるせいで肺炎になったとて高熱が出たとて治す術も治療を受けさせるような者もいない。男の声がしたとてそれにも反応は不可能で。そんな日々の果てに、イリヤたちに拾われたようだ。心臓は何度も止まるが、暴力のせいでまた心拍を再開する。暴力で瀕死になり、暴力で生命活動を再開する…なんて悲惨な地獄なのだろうか。臓器は、本来なら神から与えられるミルクを与えられなかったせいで未形成、ゆえに未発達。ミルクを飲ませてもすぐに出ていってしまうのはこれが理由だったのだ。
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彼女の状態を聞いた俺らは絶句した。ある者は俯いて、ある者は涙を零しながら憤怒して、ある者は息を呑むしかなかった。ここにはいないと理解しながらも犯人を責めるために口から出た声は、自分が思うよりもずっと震えていた。怒りか悲しみか、起因不明の感情で視界が赤く染まる感覚さえ覚える。
「くそっ……!天界の奴らも年雪山で暴行した奴もなんでそんなことが出来る!神は自ら望んで産んだんじゃないのかよ!」
「悲惨な環境でよく生きたね、よく育ってくれたね…!生まれてきてくれてありがとう、あとは私たちがどうにかするから。貴女をこれ以上傷つけさせはしないから!」
あの時イリヤと玲音がこの子を拾わなければ、この子は死んでいた。否、神工物だから壊れていたというのが正解なのだろう。とにかく、イリヤと玲音が見つけたから生命が何とか繋がれたようなものだった。手足をもにもにと弱く動かし、こちらを見続ける彼女の瞳には僅かな光が灯っていた。その瞳からは敵意も殺意も何も読み取れない。
「名前も自我も感情も全くない子ですし、整備班の中で神工物に造詣が深い者とともにプログラムの奥深くまで探りましたが何か命令された形跡もありません。スパイでないのは過去から容易に想像できます。どうか、この子を受け入れてあげてくれませんか。あいを知らないこの子に愛をあげたいのです」
神が送り込んだスパイだったら、そんな不安は杞憂に終わる。その瞬間から、この子を受け入れる態勢を一気に進められるようになった。ぬこの村であるヤラーク村に出かけ、ぬこの寝具や沐浴用の風呂桶、お勧めされたタオル等を購入するようになった。そして、来たるクリスマスの日。退院したぬこ、いや、未発達の神工物を受け入れた。
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受け入れたあの日から、この子はゆっくりだが少しずつ確実に成長している。身体もわずかに大きくなり、手の力も強くなっていた。言葉は未だ話せないが何か考えていることはあるようで、こちらを見てはゆっくりと瞬きをしている。目を開けている時間も長くなり、存在感が出てきたように思う。
せっかくなら名前を付けて、もっと呼びやすくしようという考えに至った。この子が寝ている時に話し合い、妖白こころという名前に決定した。朝になって、それを報告する。
「かわい子ちゃん、今日から君の名前は妖白こころだ。…あ、自己紹介してないのに突然呼ばれたら怖いよね。お前誰だよってなるよね、ごめんごめん。俺は奥澤和樹。正式名称めっちゃ長いから略称で申し訳ないけど、GCR1課の課長をしてるんだ。よろしくな、こころ!俺のことはなんて呼んでもいいよ」
「……」
言葉は返ってこない。それでいいのだ、この子が生きていてくれれば今はそれで満足だ。
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GCR1課の人員が増えた。今はまだ戦うことはおろか自我や感情がないためコミュニケーションさえ不可能だが、いつかきっとこの子も戦場に立つ日が来るのだろう。ならば、この子のことを殊更深く知らなければならない。そう思った俺は、昼過ぎに任務の合間を見て、ペンダントの謎の石含めてこの子自身を観察することにした。ミルクを飲ませた後なら機嫌もいいだろう。未だ酷く怯えられているが、退院した当初よりは怯えも薄くなってい石は極々薄い青色で、雫のような形をしている。身体に比べて紐が長いのか、石は足の間に垂れていて。こころが握る度に惚れ惚れするほど綺麗な青い光が溢れ出る。間近で石を見たくなったから、石ごと持ち上げることにした。手袋こそするが、いざとなれば義手ごと外そう。そう決めて左手で石に触れる。
「あ、めっちゃ綺麗。……へっ!?うっそ、手袋破れたんがあるから、これ以上は触れないことにした。
次に、こころ自身を観察する。ぬこの美容師である司が行っている献身的なヘアケアのおかげか、真っ白で絹のように柔らかい髪、小さな肉体に不釣り合いなほど大きく白い猫耳とふわふわの太く長い尻尾を持った子だ。年齢は計測中ゆえに分からないが、おそらく3歳から5歳のどこかなのではないかと予想している。喉には酸素投与用のチューブが取り付けられており、寝ている時は基本接続していないと、この子の気管はすぐに閉塞してしまうらしいのだ。保護した時に、気管が異様な程に腫れており、この子の気管はもはや使い物になっていないと言われたことを思い出す。そこに耳を近づければ、彼女自身が生きている証拠の呼吸音が聴こえてくる。
続いて、目を見てみる。石と同じ色の瞳は、朧で虚ろ、そして揺らいでいて……保護した時のフィンレーと同じ怯えた瞳をしていた。右目の瞳孔はバツの形で、義眼である左目の瞳孔は丸だ。目から視線をずらし、身体を見る。保護した時よりはふっくらと肉がついた身体は、大福餅のように薄くて柔らかい。しかし、青白い血管が透けて見えるほど薄い皮膚しかまとっていない。これから沢山栄養のあるものを食べさせて、溢れんばかりの愛情を注がなくては。
「ねぇ、こころ。ほっぺ触ってもいい?……いいの?やった、ありがと!」
許可をとってから頬に触れる。手に吸い付いてくるような、猫の肉球のような質感は、誰にとってもクセになるだろう。全身がこの質感だというのだから本当にたまらない。未だこけており、この子がまともな日常生活を送れていなかったことが容易に理解できる。
小さな手に触れれば、存外強い力で握ってきた。ペンダントを握った時のような光は来なかったが、この子の体温に疲れが全て溶かされる気さえした。それほどにこの子は柔らかく温かい。
「おてて柔らかっ……あ、パパの人差し指捕まっちゃった。もう本当めっちゃ可愛い。なんだこれ可愛すぎるし尊すぎる。こんな可愛い子をいたぶるとか神の頭イカれてんな。……ん?こころ、お口の端っこに何つけてるの?取ろっか。ありゃま指食べられた、吸われてる……!パパの指はミルクじゃないぞー!」
ぬこには、人間の赤ちゃんと同じ原始反射があるとは聞いていたが、実際に見たのは初めてで。歯が生えていないせいか痛くも痒くもないが、この子がお腹を空かせているような気がして切なくなった。神が神工物に飲ませる臓器形成用のミルクをなんとか作成できたから飲ませた。ようやく胃をはじめとして消化器等の臓器が形成されたのだ、空腹も満腹もあまり分からないのだろうがそれでもこの子は栄養が不足している。消化も吸啜も非常に遅いため、どうしてもペースは落ちるのだ。
ふと、指に雫が垂れた。手を見れば、こころの目から涙がこぼれ落ちていた。段々と怖くなってきたのだろう、必死に泣きやもうとして呼吸が荒くなっている。呼吸異常を告げるアラートが部屋に響いた。この子自身は泣くという行動の元になった感情が分かっていない。
ドタドタと足音が聞こえ、廊下の向こうから白銅色の長いポニーテールを揺らしながら凛月が全力で走ってくるのが見えた。同じ足音がもう二つ聞こえたから右を向けば、一重梅色のサイドテールを揺らす睦希と山吹色の髪を低い位置で一つにまとめ肩に垂らした楓牙が全力で駆けてくるのが見えた。三者一様に同じ言葉を口から迸らせていて。
「和樹!こころ!どうした!?アラート鳴ったからなんかあったのかと思った!」
「ごめんこころが泣き出しただけ!呼吸異常もないから大丈夫だ」
「びっくりした……良かった何もなくて。こころ、何度でもいうけど俺たちは味方だからね。本当に可愛いねこころは……!んじゃ武器の点検してくる、いつ緊急招集かかるか分かんないし」
優しい部下たちに言葉と激励を返し、こころと触れ合い続ける。兄たちの足音に体を硬直させ震えてはいるものの、前のように緊張で生命活動が危うくなることはなくなった。
「怖かったか、涙出ちゃったね。まだ触れられるのは怖いよね、あんなことされ続けたらそりゃ何もかも怖くなるよ。何もおかしいことじゃない、大丈夫大丈夫。よしよし、泣き止まなくてもいいからゆっくり呼吸しよっか」
兄たちが部屋に帰ったあとも横に抱きながらあやせば、涙自体は出続けているがアラートは止んだ。ふすふすと鼻息が漏れ、華奢というにはあまりに細すぎる肩も上下に振れている。やがて、鼻息は穏やかな寝息に変わった。慎重に動き、ベビーベッドに連れていく。背中にあるといわれるスイッチを刺激しないようにマットレスに横たえたつもりが、彼女の瞳はパチリと開いてしまった。何かを探すように動く視線は、やはり朧で。
「あちゃー、ごめん起こしたね。こころ、何探してるの?…なんだ……?……あー!ブランケット欲しいねお腹隠したいもんね」
こころを保護した時から被せたり近くに置いたりしているブランケット。腹を殴られたことがあるこの子にとって、このブランケットこそが防衛機制であり精神安定に繋がるのだ。薄青色のブランケットをお腹に被せれば、涙も引っ込んで長いまつ毛が目を隠す。穏やかな呼吸が部屋に響き、やがてこころは眠りについた。
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こころが寝ていることを確認し、傍の机に置いてあったノートパソコンを開く。書類を作らなければならなかったからだ。キーを叩く音と呼吸音だけが鼓膜に届いていた。静かな時間が過ぎていく。ふと、娘の方に目を向ければベビーベッドの上で首だけを動かし、辺りを見渡す様子があった。言葉はまだ全く話せない、自分の感情さえ伝えられず、来るわけのない痛みに怯えている。入眠前の涙で濡れたまつ毛に照明が乱反射して、儚い雰囲気を纏っている姿はこの子が人ならざる者なのだという証に繋がっていた。立ち上がって娘の元へ向かえば、娘の瞳が俺を捉える。見えていないから、おそらく匂いで場所をなんとなく判別しているのだろう。この子の嗅覚はぬこのそれと全く同じだからこそできることで。ベッドの柵にそっと手をかけ、娘のとろり蕩けた目を見つめる。目が合う度に口角をあげて笑ってみせた。戦闘時の険しい顔をした俺はどこに行ったのかと自分でも思うほどに今の俺の顔は穏やか、そう自覚するくらいには俺にも余裕が生まれていた。
「おはよ、こころ。起きたの?起きたの!偉いねー!」
「……ぁ、…ぅ……」
「ん!?喋った、え、こころ喋ったじゃん!凄いよこころー!凄いね偉いね可愛いねぇ」
所謂クーイングと呼ばれる鳴き声。それが俺の鼓膜に届いた。頭をそっと撫でる度に鳴き声が漏れていく。とにかく愛おしいこの子を護るために、一致団結せねばならないと改めて思い直す。任務完了の連絡が連続で入って対応している間もこの子は俺から離れようとしなかった。頭を撫でられるのは恐怖に繋がるはずなのに逃げようとしないことに感涙と若干の不安が混じる。何か怖いことがあって、それから遠ざかるために俺の手から離れようとしないのではないかと思ってしまったのだ。
(どちらにせよ、この子の変化を見逃すものか。何があってもずっと傍にいるって決めたんだから)
気づけば陽は落ちかけていた。
翌日。前日に感じた予感が的中してしまった。朝からこころが異様なほど緊張していたのだ。ミルクも飲まない、なぜかずっと泣いている。耳を必死に叩いている。紗季からは耳を叩く行為がストレスや恐怖を由来として起こる自傷行為と聞いている。大怪我に繋がる前にそっと腕を掴み、耳との距離を物理的に離した。今までこんなことなかったから全員不安に感じて。いくら思考を巡らせたところで真実は本人にしか分からない。そう結論を出した俺たちは、こころ自身に聞いてみることにした。
「こころ、どうした?全部嫌になっちゃった?それともどこか痛い?」
言葉を持たない彼女からの返答はない。そんなこと分かりきっていたから、いくつか選択肢を用意してそれが正解なら俺を見て、違ったら目を逸らすようにお願いした。すると、変な音がするという質問で俺を見たのだ。こころ以外には聞こえていないとなると、こころの内部から聞こえている可能性がある。そこで俺は他の子にこころの耳を塞ぐように指示を出してから声を張り上げた。
「こころの中にいる誰かにお願いだ、娘が怖がっている。ゆえに今のままでは俺らが君に敵対することになってしまう。それはできる限り避けたい。だからどうかその姿を俺らに見せてくれ。敵意がないと証明してくれ!この子自身もおそらくそう望んでいるんだ!」
しばしの沈黙があり、声が俺らにも聞こえた。聞き取りやすい機械音声が13人の鼓膜を揺らす。こころの胸元が強く光り、白銀色の長い巻き髪と水色のワンピースをふわりとなびかせ、長いまつげに隠れていた目をした女の子がこちらを見抜いた。その姿は、こころから猫耳と尻尾を取り除いたような見た目で。足はないのだろう、そう予想して口を開く前に機械音声が流れた。
「初めましてマスター、そしてご家族様。私はマスターの中に宿る有音声実体生活支援人型プログラム『片物』と申します」
「へっ?プログラム!?こころにとっては味方……でいいんだよな?敵なら容赦しないぞ」
「味方でございます!神工物と片物は双子のような見た目になりますし、私の全てはマスターのためにあります。……過去の話が許されるならばお聞きください。それでも疑う気持ちだって理解できます、その際は私とマスターを切り離し私のみアンインストールしてください。……私も昔は神工物でした。当時の神に破壊され、片物になり現在天界で悠々自適に暮らしている憎き神がマスターの中に私をインストールして、今があるのです。ですから、私はマスターとご家族様の意思を尊重し、そのまま命令を実行いたします。なんなりとお申し付けくださいませ」
話を聞く限り、この子は味方で。片物と目を合わせたこころの尻尾が安心したように動いていた。神工物の心臓と脳の混合体であり弱点であるコアに内蔵されているプログラムが片物という説明を受けた。本来、片物に名前は付けないらしいが俺たちは結局、こころがもう少し話せるようになったら正式に名前を付けることにした。しかし、呼び名がないと何かと不便だと感じ、片物に許可を得たうえで「ニーナ」と呼ぶことにした。海外の言葉で小さな女の子という意味があるとイリヤが言ったのを採用した形だ。一気に味方が増え、GCR1課はさらに賑やかになった。こころも名前が気に入ったのだろう、GCR1課の誰かがニーナを呼ぶたびに尻尾を動かしている。そのさまがとにかく可愛いのだ。気づけばみんながこころとニーナを囲んでいる時間が増えて。かくいう俺もこころを膝にのせて書類整理を行っていることが多い。この子たちが俺たちの元々強固だった絆をさらに強くしてくれた。
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この子たちの異能力は未だ不明で。しかし、可愛い娘が生きている、可愛い部下たちが人生を楽しんでくれているのならそれでいいのだ。二度とは戻らない日々を想い、今を生き延びて未来をこの手で紡ぐ。そうして夜は更け日々は過ぎていくのだ。
(俺の代で全て終わらせる。これ以上神や食人の被害を増やしてたまるもんか!最強の代だとは思う、神に敵対する神工物も従属魔法が使える悪魔もいるんだ。もう好き勝手させねぇぞ食人ども!)
月の光を反射した義手がキラリと輝いた。




