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第三章 仲間

 東国の中心都市であるセルディーアに王宮はあった。車が王宮に近づくにつれ、車内の空気は緊張感と国王に対する嫌悪感に満ちていく。


「こんなこと言うのは子どもかもしれないけど、正直に言えば心底行きたくない」


そう漏らした誰かの言葉に車内にいる全員が深く深く頷く。俺たちだっていい歳した大人が殆どだ、悪意のある言葉は言わずとも、胸中で思うくらいは許してほしい。険しい顔を緩めることなく、俺たちは王宮に到着した。イドパにいた時の爽涼な風はどこに行ったのかと困惑する程度には王都の空気が汚れている気がしてたまらない。湧いて上がる拒否感を飲み込み、何とか降車する。他の課も呼ばれたのだろう、嫌な顔をしながらも思い思いに過ごしていた。東国政府警察局異能犯罪対策本部の各課をまとめ上げる総課長と、その妻であり各課の経理を全てこなしている奥方まで集会に来ている。これはきっと国王からのお小言のオンパレードだ。

―‐――――――――――――――‐----------------―――――――――――――――

 集会場に入れば、国王が相も変わらず威張り散らした態度で玉座にもたれていた。不健康に突き出た腹の肉さえ酷く憎たらしい。


「今現在、この国は食人に侵される危機に瀕している。国軍内でも被害者が出ているこの事態は非常に遺憾であり、断じて許されない。東国政府警察局異能犯罪対策本部の各課は今日をもって全員戦闘力を今の3倍は必ず上げ、この美しき東国を護れ!ただでさえ貴様らに裂く費用が高くなっているのだ、それくらいはやってくれたまえ。いや、むしろ費用を抑えろ、それくらいできるであろう!どうなんだ!」


「国王様、僭越ながら申し上げます。我々としては、これ以上費用を抑制されると殉職者が出かねないと予想しております。ただでさえギリギリなのです、この子らを喪うことこそこの国の損失につながるのですよ。これ以上この子らを苦しませないでいただきたい」


奥方の凛とした声が集会場に響く。奥方は常日頃から凛としており、誰に対しても割と平等に接するような方だ。それでいて部下想いの人だが、この時ばかりは怒りを抑えきれなかったのか声色に怒りを滲ませていた。奥方の横で国王を睨みつけていた総課長が口を開いた。


「国王様、無礼を承知の上で申し上げます。私たちにはこの子たちを幸せにする義務があり、この子たちには幸せになる権利があります。そして私どもはこの子たちの上司です。あくまでも東国政府警察局の者たちなのです。それを国王でしかない貴方が、怠惰ゆえの傲慢さで威張り散らかし自ら動くことさえやろうとしない貴方がとやかく言う権利はありませんし、そんな者から無茶な命令されるのははっきり言って非常に不愉快です。国を護るのは当然の任務ですが、この子たちだけに戦闘を任されるのではなく、ご自身くらいは我々の手を借りずに護ってみてはいかがでしょうか」


普段、明朗快活で基本穏やかな総課長。そんな人が発する今の声は聞いたことがないほどに怒りを孕んでいて。この人は元来部下想いだ、それ故に国王の一言がお2人の堪忍袋の緒を切ったのだろう。特に総課長はGCR1課戦闘班として動いていた過去もある、それだけに現場の苦労も悲哀も理解して支えてくれる人なのだ総課長も奥方も。かく言う自らも、遠回しに部下を殺しかねない発言に憤りを感じている。それは全員のようで、部下の1人は魔力が噴出しそうになっていた。荒事はよさなければならないから落ち着かせたが。


「国王陛下、無礼を承知の上で申し上げます。我々とて人間です、深手を負えば死にますし復帰できたとしても前線に戻るのは怪我する前よりも危険が伴います。それだけこの任務は危険であり、強力な異能力と純粋な実力、周囲からの支援がなければ成り立ちません。国が防衛費を割いてくださっているのも、GCR1課が防衛費を高額にしているのも重々理解しております。しかし、これ以上防衛費を下げられてしまうと、国を護る以前に我々の生命がなくなります。どうか、ご理解いただけませんか」


必死に国王の機嫌を治め、防衛費も予算も定額で継続する約束を取り付けた。納得いかなそうな顔ではあったが、脅し自体は効いたのだろう。この国を根底で護っているのは我々なのだ。我々が死ねば、直接的にこの国は亡国に近づく。

王宮から出て、車に乗り込む。すっかり陽は沈み、辺りは夕陽の残光だけが照らしていて。


「あー…疲れた。もう明日全員休みな。全員それでいい?…返事早いなお前ら、そういう所も好きだが。大好きなお前らを喪いたくねぇ。フィン、蒼生、リーダーとして聞くがそれでいいか?」


「そっちの方が有難いわ…これで任務入れられたら本当に死人増えるわよ。この12人でまだ生きていたいもの」


「私も構いません。皆で生きることが何よりの幸せですので」


「おし、決定な。帰るぞ!」


イドパ市に車は走る。行きと違い、帰りの車の中では祝勝会もどきが開催されていた。

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