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転がる化け物を止めろ!

 ナラはあたしを安全な場所に届ける為に、町中を駆け回っていた。幸いあの化け物はまだあたし達には気づいてないみたい。

 走って数分後、町の外れに行くとそこに二人の人影が見えた。


「――あ、あそこにいるのってフリントさんとミントちゃんですよね!」

「あっ、本当ね。ちょっとだけ近づいてみましょ」


 その人物は、あたし達の仲間だった。どこへ行ったのかと少し心配だったけど、こんな所にいたのね…。

 ミントは建物の陰に座り込んでいて、フリントはそんな彼女を見張っている様子だ。あたし達はそんな二人に近づき、声をかける。


「あれ、クリムちゃんにナラちゃんじゃない!どうしたの、こんな所まで来て?」

「はい。それなんですが――」


 あたし達はフリントに、これまでの事を話した。


「――なるほど、クリムちゃんが怪我をして動けない状態になっているのね。だから安全な場所を探しに町中を走り回っていたと」

「そうなんです。その途中でお二人を見つけたから、声をかけようと思ってここまで来ました。…あの、フリントさんとミントちゃんは大丈夫ですか?」

「ええ、私たちなら平気よ。途中で敵に襲われたとかは一切無いわ。…ただ、ミントちゃんはさっきの件で少し落ち込んでいるみたい」


 フリントがミントの方を見ながらそう言った。確かに、ミントは今浮かない顔をしている。あの時に逃げてしまったから、その罪悪感に苛まれているのかしら?


「フリントさん、ミントちゃんに少しだけ声をかけてもいいですか?」

「いいわ、その方があの子も安心するだろうし。…ミントちゃん、ほら」


 フリントがミントに声をかけると、彼女は顔をゆっくりとこちらの方へ向いた。


「あ、クリム姉ちゃんにナラ姉ちゃん…。あのね、あたし皆に謝らなきゃいけない事があるの」

「…それって、あの化け物を見た時に逃げ出してしまった事?」

「うん。ここは皆で力を合わせて戦わなきゃいけないのに、思わず怖くなってあたしだけ逃げだしちゃって…そのせいで、皆に迷惑をかけちゃって…。本当にごめんなさい」


 ミントは今にも泣きだしそうな表情であたし達に謝罪してきた。…参ったわね、そんな顔されたらあんたを責める事なんか出来ないわ。とりあえず、ここはミントを慰めてあげないと。


「…気にする事はないわよ、ミント。あんなの見せられて怖がらない奴なんか誰もいないわ。正直、あたしも怖いと思ってたし」

「えっ、本当?クリム姉ちゃんも怖いって思う時があるんだ。何だか以外」

「な、何よ?あんたから見てあたしは怖い物なんか何一つない人に見えるワケ?」

「うん、そんな感じかな。だってクリム姉ちゃん、あたしから見てナオちゃんと同じくらいすっごく頼もしい人に見えるもん」


 ミントはそう言い、あたしに笑顔を見せた。あ、あたしがナオトと同じ人間に思われていたなんて…何だか恥ずかしいわね。


「私もクリムさんと同じ気持ちでしたよ。…それと実は私、怖がりな所があるんです。私が冒険者になった頃は小型の魔物でも常に怖がっていましたから」

「ふーん、ナラちゃんにもそんな時期があったのね。そう言えば私も小さい頃は暗い所や高い所に怖がってて、師匠からよく叱られていたっけ。懐かしいなぁ」


 ナラとフリントもあたしに続いて話をし出した。それを聞いて安心したのか、ミントは元の明るい表情に戻っていく。とにかく、すっかり元気になったみたいで良かったわ。


「ま、世の中最初から強い人間なんていないって事よ。だから自分を責める必要はないわ、ミント」

「うん、ありがとうクリム姉ちゃん!それを聞いて安心しちゃった。えへへっ」


 あたし達はミントが元気になった事に一安心していた。――と、その時。


「…ん、ちょっと待って。皆、後ろから何かが転がって来る音がしてこない?」


 フリントが何かの音を察知したらしく、あたし達にそう言った。耳を澄ませてよく聞いてみると、確かに音が聞こえてくる。まるで大きな岩がこっちへ迫ってきているような…。ま、まさか!


「皆、気をつけて!あの化け物がこっちに向かってきているわ!今すぐここから逃げるわよ!」


 あたしが皆に逃げるよう催促したと同時に、あの球体の化け物が建物を巻き添えにしながら現れた。あたしは急いでまたナラに背負って貰い、皆と一緒にそいつから逃げ始める。

 化け物はあたし達の事をしつこく追いかけてくる。ああもう、鬱陶しいわね…!


「――くっ、随分としつこい奴ね。何かあいつを止める方法はあるの?ナラちゃん」

「はい、一つだけあります。…フリントさん、少しだけクリムさんを背負って貰えますか?」

「え、私がクリムちゃんを?わ、分かったわ」


 フリントは彼女の頼み事を快く引き受け、ナラの代わりにあたしを背負った。両手が自由になったナラは化け物がいる方へと向き、何も言わず黙って奴と対峙する。…ナラ、あんたは一体何を考えているの?


「ナ、ナラ姉ちゃーん!そんな所にいたらあいつに潰されちゃうよー!」


 ミントがそんな彼女を見て大きな声で呼ぶも、ナラはそれに反応せずただ黙っているだけだ。

 球体の化け物は徐々にあたし達のいる所へと近づいていく。すると、ナラが突然両手を前に出して――。


「はあああああっ!!」


 その両手を使い、化け物をがっしりと受け止めた。


「うっ、ぐぐっ…」


 反動でナラの身体が後ろへと下がっていく。ナラはそれを必死に耐えつつ、何とか化け物の猛攻を食い止める事に成功した。


「…ふう、何とか止められました。皆さん、もう大丈夫ですよ!」


 化け物が動かなくなった事を確認したナラは、顔をこっちへ向けてそう報告する。あたしはフリントに抱えられながらただ茫然としていた。まさか、あんな得体の知れない奴を一人で止めるなんてね…。

 他の二人もあたしと同じ表情をしていた。


「す、すごーい!ナラ姉ちゃん、あんなに大きいのを止めちゃったんだぁ!かっこいいー!」

「本当ね、ミントちゃん。私でもあれを止めれるかまだ自信がないのに…。私もあの子に負けてられないわね」


 二人の発言を聞いて、ナラが照れたように笑う。――その時、あたしはあの化け物がまた動き出しそうになっている事に気づいた。


「ナラ、気を付けて!あいつまた動き出すみたいよ!」


 あたしは急いでナラに注意を呼び掛ける。それと同時に化け物の身体からまた両手両足が飛び出し、そのまま後ろにジャンプをした。


「きゃっ!」


 奴が飛び跳ねた時に起こった衝撃で、ナラがあたし達のいる近くまで吹き飛ばされる。


「ナ、ナラちゃん!大丈夫!?」

「は…はい!これくらい平気です!攻撃に当たった訳ではありませんからね」


 吹き飛ばされてはいたものの、幸い大きな怪我はしていないみたい。あたしみたいにならなくて良かったわ、これ以上戦える人がいなくなったら大変だものね。

 化け物はゆっくりとあたし達の所へ近づき歩いてくる。どうやらあたし達を本気で倒しに来るつもりのようだ。


「どうするの、クリムちゃん?君のような怪我人を放っておいたまま戦いに向かう訳には行かないわ」


 フリントがあたしにそう聞いてくる。さっきから散々言ってるように、今のあたしは化け物の攻撃を受けてまともに動けない状況だ。

 …くっ、あの時あたしが不覚を取らなければ皆の足を引っ張るような事はせずに済んだのに。あたしはそんな自分を心の中で嘆いていた。

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